女学生失踪事件
俺が申し訳ない気持ちに苛まれながら、車は委員長の家の前へと到着する。
委員長の本名は雛菊 かなめ。雛菊もまた、魔獣被害が世界に蔓延してから会社が大きくなった割と新興の企業だ。メインは医療関係。
多くの医療機器メーカーの工場が魔獣被害の影響で次々と閉鎖に追い込まれ、でも世界中には医療を必要とする人が、文字通りごまんといる。
更に発破をかけたのがやはり魔獣被害だ。俺が看護師になったころには既にHINAGIKUとロゴが入った医療機器が出回っていたけど、出回る前の医療の現場はそれはもう地獄絵図だったと聞いている。
ともかく、諸星と共に人類を陰から支えた企業の一つだ。それもあって、雛菊家のお屋敷も相応に大きい。これは家族用の別邸で、雛菊家の本邸は確か名古屋だったはずだ。
かなめちゃん曰く、生まれも育ちもここだから、自分にとっての地元はこの街、らしいけど。
「失礼。どういったご用件で」
「諸星の者でございます。ご子女のかなめ様のお見舞いにと」
「……左様でございましたか。少々お待ちください」
運転手の田所さんが、守衛の人とやり取りをすると、守衛の人が恐らく家の人と連絡を取っているのだろう。何やら通信機器っぽいもので幾度かのやり取りをするのが、窓ガラス越しに写っている。
「お嬢様にお会いすることはすみませんがお断りしておりますが、奥様がお話しになりたいそうです。中へどうぞ」
「ありがとうございます」
守衛さんとやり取りを終え、田所さんが再び車を走らせる。門から玄関までの距離は諸星のお屋敷とそんなに変わらない。
流石は大企業の家族が住まう家だ。立派な洋館である。
「千草様、私は待機しておりますので、終わり次第ご連絡をお願いしたく」
「分かっているさ。そう長くはならないと思うから終わり次第連絡する」
車から降りると、田所さんと千草が委員長のお母さんとのお喋りが終わった後の段取りを決めると、車のドアを閉めて駐車場の方向へと走り去っていった。
それを見送った俺たち5人が雛菊家の正面玄関までやってくると、一人でに両開きのドアが開いて、中から妙齢の女性が現れた。恐らく使用人の方だろう。
美弥子さんと違いかなりだいぶ高い年齢のようで、来ている服装もメイド服ではなくレディーススーツだ。
細身の体にビシッと着こなしている様子は、まさに出来る女性という雰囲気を出していて、視線もどちらかと言えば鋭い印象を受ける。
「ようこそいらっしゃいました」
「急に来てごめんなさい、ヨウおばさん。かなめちゃんがお休みしたからお見舞いしたくて」
「構いませんとも。皆様も改めてようこそいらっしゃいました。ご案内させていただく洋子と申します。気軽にヨウばあちゃんとお呼びくださいませ」
鋭い印象とは裏腹に、ヨウおばさんの口調と対応は柔らかなモノだった。美海ちゃんと話す時の様子は、諸星家の執事、十三さんの雰囲気に近い。十三さんのドS気質が内面じゃなくて外見に出てきたパターンだ。
「初めまして、諸星 真白と申します。かなめさんには日頃からお世話になっていますので、そのお礼とお見舞いに」
「お噂はかなめ様よりかねがねうかがっておりました。お話に聞いた通り、大変可愛らしいお方で、このばあも思わず見惚れてしまいます」
「ありがとうございます」
そんな初対面の印象確認と挨拶を軽く済ませると、ヨウおばさんの案内の下、このお屋敷を取り仕切っているだろう、委員長のお母さんの下へと案内される。
お屋敷の中は、諸星家のお屋敷とはやはり少々デザインが異なっており、こちらはより日本風に近い洋風のお屋敷だ。ちょっとわかりにくいかもしれないけど、大正ロマンを感じるような造りと言えば伝わるだろうか?
そんなお屋敷の廊下を、コツコツと靴底が叩く音を響かせながら進んでいくと、そうしないうちに目的の部屋に着いたらしく、ヨウおばさんが立ち止まり、部屋のドアをノックした。