女学生失踪事件
そんな一人では出来なかった本格的な指導を受け始めたのが1週間前。
時間は夏休み明けの頃からあっという間に過ぎ去って、もう少しで10月が見えてきた日にちだ。
制服ももう衣替え週間に変わっており、夏服と冬服が半々といったところ。今日の最高気温が22℃くらいだったので、この辺りは個人の感覚でちょうどいい服装が変わってくるだろう。
因みに俺は冬服、隣にいる千草は夏服だ。墨亜も初等部の夏服、諸星家の学生組で今のところ冬服を着ているのは俺だけである。
冷え性だから、少し寒くなるときついんだよなぁ。既に美弥子さんがカーディガンやコートといった冬の防寒具の吟味を始めていると言っていたが、これからドンドン寒くなっていくと思うと少し気分が滅入る。
「ふあぁぁ、ねむ……」
「あははは、おっきなあくび~。まだ3限目だよ?」
「眠いものは眠いの」
大きなあくびをして机にぐでーっと伸びると前の席に座っていた美海ちゃんがくるりと身体をこちらに向けながら、ぷにぷにとほっぺをつついて来る。反抗してぷくりと膨らませたら、両手の平で潰された。ぶしゅー。
「んー、ちょっと前もすべすべだったけど。今はすべすべにモチモチが追加されて更に病みつきな感触~」
「あにをふるだぁー」
むにゅむにゅとほっぺを触る美海ちゃんに抗議の声をあげるが、されるがままに揉まれておく。特に不愉快でもないしね。
「おーい、あんまのんびりしてると遅刻するぞー」
「次は音楽だからな」
そうやってじゃれていると、教室の入り口に立っている優妃さんと千草に呼ばれる。次の授業は音楽。必然的に移動教室なので、事前に移動しないと授業に遅れてしまう。すっかり忘れていた。
急ぐほどの時間でもないけど、パパっと教科書と筆記用具を用意して美海ちゃんと一緒に二人と合流する。
「こういうことはいいんちょの役割なんだけどなぁ。二人とものんびりしているからほっとくといつまでも教室にいるし」
「珍しく休みだからな。中学では皆勤賞を取るくらいには強健なんだが」
二人の言う通り、今日は委員長、かなめちゃんがお休みだ。俺は9月からこの学校に来ているからよく知らないけど、千草の言い方だとかなり珍しいことらしい。
皆勤賞って地味に難しいんだよなぁ。家庭事情で休んでもダメだし。
「真白は風邪引いたらすぐにダウンしそうだわ」
「うるさいなぁ」
「図星っぽーい」
悪かったな、風邪引いたらすぐ寝込んで。体温があまり高くないから、少し熱が出ただけで、他の人よりキツいんだよ。
「見た目だけは深窓のご令嬢だからな、見た目だけは」
「ちょっと千草、それどういう意味?」
「さぁな?確実に言えるのは、ご飯を食べながら寝なければ多少はマシになりそうだという事だな」
あー!!お前はそうやって俺が恥ずかしいから喋ってなかった事をすぐバラす!!良くないんだぞそういうの!!
「仕方ないじゃない!!疲れてたんだもの!!」
「あー、目に浮かぶわ」
「スプーンを持って撃沈してそ〜」
トレーニングの疲れで夕飯中にウトウトしてしまったのを、偶然発見されて、そのままコッソリ写真まで納めていたのだから、諸星家の人達も人が悪い。
それに、その光景が目に浮かぶとはどういう事だ優妃さんと美海ちゃん。
いや、まぁ、寝た俺が悪いんだけどさ!!
「そんなに怒るな。お昼にぜんざい作ってもらうように食堂の人に言っておいてやるから」
「お餅マシマシ!!」
「現金だなぁ……」
「真白ちゃんだし〜?」
昼にお餅マシマシのぜんざいが約束されたので、俺は許そう。
あの食堂で作られるぜんざいなら美味いに違いない。
「おーもち、モチモチもっちもちー」
「歌い出した」
「歌ったな」
「真白ちゃん面白すぎ〜〜」
早く音楽室に行こう。そして早くお昼を食べに行こう、そうしよう