魔法少女はじめました
他にも、戦いに赴く時は魔法少女が危険に晒される時だけ、という事にもなった
俺達は傷付く魔法少女を少しでも救いたいのだが、皮肉なことに魔獣退治を率先してやってしまうと、彼女達の立場や、報酬、と言った点で彼女達と要らぬ軋轢を生むためだ
彼女達は魔獣を討伐することで、社会的役割を獲得し、日々を暮らすための金銭を対価として得ている。これを俺達が片っ端から掻っ攫うとどうなるか
なにせ仕事を奪うのだ。社会的評価も下がるだろうし、報酬だって芳しくなくなるだろう
それを当てにして生活している魔法少女だっているはずだ。それをこちらの勝手な考えで奪い、不当な評価を受けるのは、こちらとしても本望ではない
「……ちっぽけだなぁ、俺達」
「ちっぽけでも、意義があると信じよう。最終目標は大きく、人間界と妖精界との間に空いた穴の修復。まだ方法も何も見いだせないけどね」
「そうだな。そうすれば魔獣はいなくなって魔法少女も必要なくなる。どうすればいいかは分からないけど、まだ一か月しか経ってないんだから、今から嘆いてもどうにもならないよな」
「その意気さ」
屋上に降りて、ボウっとこれからの事を考えていたが、今は考えていても仕方がない。とりあえず、やれることを、やると決めたことを俺達はひたすらやる
その先に光明が見えると信じて、彼女達が戦わなくていい世界になるきっかけでも良いから、俺達が作るんだと、改めて胸に刻んで、俺は変身を解除した
商業ビルの屋上からコソコソと退散した俺達は、表通りまで無事出ると意気揚々と歩き出した
ここまで出てしまえば、商業ビルの関係者に見つかることもあるまい。
なんとかして、この辺りの変身と変身の解除を人目を気にせず、更に不法侵入に問われないようにするための方法を確立したいところだが、今のところ妙案が浮かばず、こんな泥棒じみた動作で建物からコッソリ出て行くことしか出来ていない
「時間は11時前か、中途半端な時間だけど朝飯食ってないから腹減ったな」
「朝食前の特訓の最中に魔獣が出たからね。また近場のコンビニで済ませようじゃないか」
「金出すのは俺だけどな」
まぁ、とある事情で別に金銭には困っていないから問題は無いが、意外とコイツ小さいクセに量は一人前だからな
服のフードの中に隠れているパッシオの食欲に呆れつつ、俺は近場のコンビニへと足を向ける。幸い、この辺りは駅郊外の少し繁華街から外れた寂れた小ビル地帯
少し行けばコンビニくらいはゴロゴロ転がっている
「君、ちょっと良いかな」
そう思ったタイミングで、俺は後ろから声を掛けられる。振り向くと紺色の特徴的な制服に身を包んだ、体格のいい男性
詰まるところ、お巡りさんがそこにいた
「君、見たところ高校生くらいだろう?学校はどうしたんだい?」
「あー」
久々にくらったなぁ、と頭を抱えながら。俺は財布に身分証入れてたっけかなぁ、と思考を巡らせる。多分忘れた
チラリと、警官の視線を盗み見しながら、通り脇に構えている店のガラスに映った、自身の姿を見てはぁ、っと項垂れてため息を吐いた俺は、今回は誤解を解くのにどれくらいかかるのかを現実逃避代わりに考えておくことにした
ショウルームのガラスに映る俺の体躯は正直言ってかなり幼い。26歳なのだが、どうやっても幼い
なにせ身長は158㎝だ。160前半ですら、男性にしては小柄な方の体格なのに、150㎝台である。言い逃れのできないチビだ
それに見合った細長い手足。幸いなのが短足では無いことだが、色白で頼りない体格は成人男性のそれではない
髪色は地毛では珍しい赤毛。顔立ちはアジア系なので、普通に考えたら染めてると思われるだろう
そして癖毛でぴょんぴょんと外はねした髪を耳にかかる位の辺りまで伸ばしたごく一般的な髪の長さだが、普段からセットするという事をしないため、正直言って芋っぽい
瞳は一応青色系。ちょと色が霞んでいる青みがかったグレー的な色合いだが、これもまぁ昨今だとカラコンと思われる
そこにぱっちりお目目と小さい口と鼻がセットである。髭は体質なのか生えてこない。クソッタレ
着ていた服も最悪だ。普段なら、それなりに歳が行っているように大学生風のファッションを最低ラインとするのだが、今回はジャージにTシャツ、半袖のパーカーにダボついたハーフパンツ
「とりあえず。名前と、年、家の住所と学校名を教えてくれるかな」
出来上がったのは見た目だけなら、平日の昼間に学校をサボって街を出歩ている不良中高生である。ごめん、この前の話は少し盛ったんだわ、チクショウ