女学生失踪事件
一通りもみくちゃにされ夕飯を摂り、それぞれがくつろぐタイミングになった時、光さんと玄太郎さんに千草や墨亜と合わせて呼びつけられる
光さんの手元には学校から支給された連絡用のタブレットともう一台、別のタブレットががあり、二人とも険しい顔をしている様子だった
「3人とも、最近貴女達と同じくらいの年の女の子たちが、突然姿を消して、何時間か経ったらフラッと戻って来る、何てことが起きているのは耳にしているわね?」
「はい、魔法庁の方から主にですが」
「私も耳にしています」
「神隠しの噂、だよね?」
光さんが眉根を寄せているその内容は、俺もあの男と関りがあるんじゃないかと疑っていた神隠しの件だ。
あの後、直ぐにあの男に襲われてその後の魔法庁にも依頼していた調査もフェイツェイから聞く余裕も無くて、進捗を全然聞いていない。
その件についての進捗報告、という事だろうか。
「まずはそこそこ良いお知らせよ。魔法庁の地道な調査で、大よそどういった子がこの神隠しと呼ばれる現象に巻き込まれているのか、見当が付いたわ」
「本当ですか?!」
巻き込まれている子の傾向が分かるだけでも大きな進歩だ。その傾向がある子供達に注意を促したり、大人の保護を限定的に付けるだけで、恐らく神隠しの発生はグンっと下げることが出来るだろう。
原因の究明という最も重要な案件は残っているが、この奇妙な現象を減らすことはこの街の安全確保に大きな意味をもたらすはずだ。
「ただし、これに一癖があってね」
「一癖?どういうことですか、お義母様」
タブレット、恐らく魔法庁支給側のタブレットを睨んでいる光さんが言うには、このどういう傾向の子が神隠しに合っているのか、その傾向が厄介そうな雰囲気だ。
「この、神隠しに合っている子供達は確認しているだけでも全員が女の子。しかも全員、隠れの魔法少女の可能性があるわ」
「隠れの魔法少女、と言う事はもしかしてアリウムが救助した少女と、アリウム本人を襲ったあの男が……」
「えぇ、魔法庁もアリウムからの報告にあった、隠れの魔法少女を襲っていた男たちが何らかの事情を知っているとみて、ほぼ間違いないと結論付けたそうよ。今後、人相など情報が集まり次第、警察と連携して指名手配される事でしょうね」
成る程、あの男たちが主犯格、ないし少なくとも何らかの情報を持っている事はほぼ決定的とも言える訳だ。
俺が救助した少女が隠れの魔法少女で、彼女を3人がかりで捕らえようとしていた辺りからして、ほぼ間違いない。
……それに、俺を連れ去ろうとしたのも同じだろう。野良と隠れはどちらも政府の管理下に無い。世間に比較的知られている俺だって、捕まってしまえば、その捕まってしまったことが発覚するまでに時間がかかる事だろう。
「……真白お姉ちゃん、大丈夫?」
「……ごめん、墨亜ちゃん。ちょっと手を握らせて」
あの男が関わっているとなれば、どうしても浮かぶのはあの時の光景だ。ギリギリパニックにはならないが、身体と声が震えてしまっているのが、自分でも分かる。
心配する墨亜の手をギュッと握って耐える。大丈夫、怖くない。怖くない。
自然と上がった息を深呼吸で整えて、不安と恐怖ですくむ身体をなんとか解すと、心配そうにする光さんに視線を向けて、大丈夫だと伝える。
一瞬、迷ったように視線を彷徨わせた光さんだったが、意を決したように頷くと、その続きを口にし始めた。
「そして、それらを含めてここからは悪い報告よ。被害にあったとされる隠れの魔法少女達。この全員が『魔力を失った』わ」
「……どういうことです?」
「魔力が増えるなら分かりますけど、失うってあるんですか?」
神隠しに合った隠れの魔法少女達が魔力を失っていた。とはどういうことなのだろうか。
首を傾げる俺と千草、そして難しい話にイマイチ付いてこれていない墨亜の三人。
変わらずに険しい表情のままの光さんと玄太郎さんに、俺と千草は更なる説明を目で求めた。