魔法少女はじめました
「ったく、毎回毎回怪我だらけで、心配するこっちの身にもなれってんだ」
シャイニールビーの下を離れ、人目の付かない商業ビルの屋上へ降り立つと同時に、俺は思わずルビーの事を毒づいた
既に確か5回目だったと思う。最初はそれこそただのピンチだったが、その後は本人の自己管理不足から来るモノだろう。具体的に言えば極度の疲労だ
何を思っていつぶっ倒れてもおかしくないような疲労度で、魔獣との戦いに挑むのかは分からないが、見つける度にこちらの心臓が痛くなる程ドキマギとするから勘弁してほしい
「まぁね、どうにも無茶する危ない子だけど。そろそろ大人の方にお叱りを受けている筈さ。今のところ、僕らが出来ることと言えばああしてピンチになった魔法少女の救援をするくらいだからね」
パッシオもルビーに関しては無茶をする子と言う認識らしい、が俺達に出来るのは本当にその場の救援くらいだ、それ以上は色々と弊害やもっと不要なトラブルを招くと二人で相談して判断した
まず、俺が魔力を発現した時の話を簡単に済ませると、魔力を解放した瞬間、身体が女体化した。この女体化した俺の姿が、魔法少女アリウムフルールだ
見た目は16~8歳頃の女子高生くらいの顔立ちだ。恐らくこれは男の頃の俺と同じ、童顔という特徴を引き継いでいるのだと思う
髪の毛から衣装まで純白なのはさっきも言った通り、少し目元は垂れがちで、優しい印象があるのはパッシオに目元が元の君とそっくりだねと指摘された
得意な魔法は指定した場所に魔力で壁を作り出す障壁魔法、それと傷を癒す治癒魔法だ。攻撃性の高い種類の魔法は、あんまり威力が出ず、不得手な部類だ
そんな、防御・支援寄りの魔法少女アリウムフルールは再三言うが女の子だ。下世話な話だが、確認もした、原理は相変わらず分からん
パッシオに聞いても、僕は研究者じゃないから詳しいことは何とも、としか返って来ない。こういうところが協調性の無いという妖精らしい部分なのかも知れない
とは言え、魔法少女の姿のままではあまりにも目立つため、パッシオに魔力の操り方をレクチャーしてもらいながら、魔力を閉じる。分かり易く言うと変身を解除する、と言う方法をたどたどしくも成功させる
すると、なんと身体は男の俺の身体に戻ったのだ。何とも不思議な仕様だ。都合がいいとも言う
ともかく、こうして俺は魔法少女としての力を手に入れ、魔力を解放すればアリウムの姿に、魔力を閉じれば男の俺、小野 真白として、問題なく過ごせることが分かった
そして、俺こと真白と妖精のパッシオは、今後の魔法少女としての活動について具体案を詰めて行くこととなった
まず、戦うと言ってもやはり体は一つだ。出来ることに限界がある。そのため、アリウムフルールとして活躍する範囲は原則として、今住んでいるこの街での活動が限界だろうと俺達は判断した
可能なら、俺もパッシオも、戦いで傷付く魔法少女全てを助けてやりたいが、何度も言う様に身体は一つなのだ。なら、せめて自分の住む街を守る魔法少女達くらいは手助けしたい。これが、俺達の活動の大原則となった
悔しいことだが、個人の活動なんてこんなものだ。というか、組織だってやっても無理だろう。そんなのは神様の領域だ
次に、政府所属になるか、野良になるか。これに関しては即決だった。野良でやる
だってそうだろう。あと4年で三十路のおじさんが、魔法少女に変身するのである。正直言って人に知られるのはキツ過ぎる。アラサーおじさんが10代の少女たちの中に入れるのか、どう見聞きしても犯罪である
もっと真っ当な理由を述べるのであれば、仮に政府所属となった場合、俺達の行動が制限される可能性が高いと判断したためだ
男が魔力を発現して、発現したら魔法少女になるのである。こんなの鴨がネギ持って調味料と鍋まで抱えている状態である
検査、研究検査研究検査検査検査。ともかく、魔力研究に関する人間モルモットとして、研究機関に閉じ込められること必至だろう
魔法少女になろうがなるまいがモルモット扱いになりかねないと言うのは、少し俺の立場が不憫過ぎやしないだろうかと思う