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一年前の話

朱が奔る、碧が砕く、紫が降り注ぐ、翠が切り裂く、黒が輝く。


対するは巨躯の獣。強靭な四肢と太い牙、鋭い爪、分厚い毛皮は人類が築き上げて来た科学と言う文明を粉微塵に吹き飛ばしたバケモノ。


「ギョアアアァァッァァァァッァア!!!!」


10年前から突如として地球上に現れた災厄の権化、魔獣。それがたった5人の少女達を相手にして苦痛を伴った咆哮を上げていた。


「抑えてアズール!!」


「言われなくても任せろ!!ルビー!!」


朱の少女が手に持つ剣から炎を迸らせながら、凄まじい勢いで魔獣に肉薄していく。

それに遅れて続いて来た碧い少女はその身の丈に合わない巨大な戦斧で、暴れる魔獣の片足を地面に縫い付けた。


その隙に、朱の少女が魔獣の腹下へと潜り込み、柔らかい腹部を切りつけようと剣を振りかぶるが暴れる魔獣にやむなく引き、碧い少女と共に陣形を整え直す。


「バカ者、無策で飛び込むやつがいるか」


「だったらなんか作戦立てろよフェイツェイ」


「アメティアとノワールと一緒にこそこそ何かやってたんだから、作戦の一つくらいは欲しいわね」


「ふんっ、お前らがあの魔獣とドンパチやっている間に準備は完了だ。さっさと構えておけ」


その二人の脇に現れた日本刀を携えた翠の少女は、不機嫌そうに日本刀を抜いて構えると、朱と碧の少女にもしっかり構える様に促す。


その間に、上空から色とりどりの魔法が、魔獣向けて雨霰の様に降り注ぐ。


堪らずその場から逃げ出した魔獣の行く手を遮ったのは先程まで魔獣の正面にいた碧と翠の少女。


「オラァッ!!」


「はぁッ!!」


豪快な戦斧での一薙ぎ、鋭い日本刀の一閃で魔獣の前足が二本とも斬り飛ばされる。

斬り飛ばされた勢いで後ろに倒れ込む様に仰け反った魔獣は更に身体を支える後ろ脚を、流星のような強い輝きの魔法で吹き飛ばされた。


「ナイスコントロールだね、ノワール」


「練習、沢山したから」


よしよしと頭を撫でられるのは黒の少女、先程の流星のような魔法で寸分違わず打ち抜いたのは彼女だ。

そしてその黒の少女を撫でる紫の少女は、魔獣に雨霰と数多の魔法を降り注がせた張本人。


後方支援に徹する二人と、前衛三人の内二人に四肢を奪われた魔獣はもう、動くことの出来ないただのだるまでしかない。


当然の様に朱の少女がそれを見逃すわけもなく、


「燃えなさいッ!!」


朱色の炎に燃える剣を倒れ行こうとしている魔獣の脳天から思い切りよく振り下ろす。


「ギャアアアアアオアオォォォォォォッ?!?!?」


こうして、人類に仇なす獣はまた一体葬られ、人々に安寧がもたらされた。


彼女達は魔法少女。魔獣と同じ様に10年前に現れた、人類の希望。

科学兵器を受け付けない魔獣への現状唯一対応できる存在。代え難いヒーロー。


それが彼女達。この国を、この街を、この世界を守るために自らを厭わない姿は誰もが心を震わせる。


それが、まだ十代半ばの少女達でも、世界は彼女達に縋るしかない。人は彼女達を犠牲にして生活している。

それが、この世界の今の正しいあり方。





【いやー実に見事ですね。我が街の魔法少女達は本当にレベルが高い】


【本当ですね。いつも彼女達のお陰で、私達はなんてことない日常を過ごせています。感謝しないといけませんね。では次のニュース――】


ぶつんっとテレビの電源を落とす。気に食わない、面白くない。


魔法少女?世界のヒーロー?確かにそうだな。その通りだ。俺達一般人は、彼女達の庇護の下でようやく生きていける。

科学兵器がほとんど効かない魔獣達への唯一とも言える対抗策。確かにどうしようもない。


「でも、子供を戦わせるのは、間違ってんだろ……」


でもそれ以上に彼女達は子供だ。中には小学生くらいの子だっていた。


子供に戦わせるのは正しいのか?それで良いのか?大人はこの状況に甘えてるだけなんじゃないのか?


そんなことが脳裏に過ぎるが、過ぎるだけだ。どうせ、俺には何も出来ない。

世界を飛び回って、沢山の人を助けた。俺だって人を救える、救えた、そのつもり、だった。


「結局、何も出来なかった俺が、そんなことを口にする権利なんてありゃしないよな」


自嘲気味に漏れた言葉と共に、ボロボロと涙が溢れる。あぁ、チクショウ。ちっぽけで嫌になる。


何も出来ないで逃げ出した自分が憎くてたまらない癖に、死ぬのは怖いもんだから地元のボロアパートで無職生活をしているこの体たらく。


ホント嫌になる。


「いっそ、俺が魔法少女になれたら良かったのにな」


あり得もしない妄言。現実味のない妄想にもっと乾いた笑いが浮かんで来る。

しょうもなさ過ぎて、本当に嫌になる。



ただ俺は知る由もなかった。この言葉が、一年後現実になることを。


この時の俺が、ただ真っ白なだけのまだ何色にだって染まれるってことを。


かけがえのない相棒と出会うことを。


俺が、『魔法少女を守る、魔法少女』になることを、まだ、誰だって知らない。


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― 新着の感想 ―
千話なんてすごいですね?マジで尊敬します。
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