第6話 ★地下集落★
ここはどこですか……
僕は一体何をしているのでしょう……
!?…起き上がれない。というより、ここは夢の中?
『…ィー…!』
あれ…今何か声がした様な……
気のせいなのでしょうか……
『……フィー!』
この声は…ルフィスさん…?
…………あれ、声が出ない…
『だか……忠…し……に…』
え?……
この声は…………僕?
誰?僕の声で喋ってるのは誰?
怖いよ……助けて下さい…………
ルフィスさん……
★★★★★★★★★★
「う〜ん……」
僕が目が覚めたのは、葉っぱの隙間から丁度心地の良い陽の光が差し込んで来た頃でした。
僕は、即席で作られたとみられる葉っぱのベッドの上で寝ていました。
僕は昨夜、何があったのかを懸命に思い出そうとしました。
「うっ…うわああああ!!!」
そして、昨夜あったことを思い出した瞬間。悶絶しそうな程の恐怖と殺意が思い出したことにより、プレイバックし、僕にのしかかって来ました。
肉を切り裂く感覚。魂そのものをいたぶる感覚。人をおもちゃとしかみないその感覚。
体の底からグツグツと湧き出てくる
黒い、黒い、殺意。
そう。僕の体の中にいたゾルラという悪魔の、感情。記憶。感覚。その全てが僕が目覚めた今、一気にのしかかって来たのです。
色々な感情が混ざりすぎ、頭の中で混乱状態を起こしてしまい、嗚咽を繰り返し、吐き気までするほどまでに、僕の精神は不安定な状態になってしまいました。
「はぁっ、はあっ……助けて。はぁ……」
自分が、自分でいられなくなってしまうような感覚に、僕は等々、自我を保てなくなってしまうほどでした。
(ま…また、こんなことに……なるの…)
「ゔああああああああ!!!」
「フィー!!!」
(ル……ルフィスさん…!)
★★★★★★★★★★
ゾルラを消滅させたその後。僕はフィーの安全を確保する為に【障壁】をフィーの周りに設置し、即席ですが、一応ベッドも作りました。
そして一番の気がかりはやはり、ゾルラが言い放ったあの言葉。最後の最後にゾルラが使ったあの魔法の効果も気になります。
あの時、僕に霊魂魔法の欠点を見破られたゾルラは霊魂魔法と闇魔法を使った魔法の中でも、一、二を争うほど凶悪な魔法と言われている、死を操る上位魔法死界を使いました。
それを僕は、炎の壁を使い、防ごうとしました。
否。僕は炎の壁をゾルラの魔法を防ぐために発動させた訳ではありません。
ゾルラからはこの、僕の行為が、『いきなり、死を操ると言われている程の魔法を撃たれて、やむ終えず炎の壁で防ごうとした』と……
姿が見えなくなった僕のことをゾルラは、【魔力感知】を使って、体から溢れる魔力や、魔法を使った時の魔力を感知して僕の居場所を特定させようとしていたみたいですが、その作戦は無駄に終わっています。
理由は、【炎の壁】を使ったその瞬間。僕は一番、魔力の消費量が多い時間魔法を使い、僕の、殆どの魔力を使って2秒間だけ時間を止めたからです。
大前提、炎の壁を使ったのは、ゾルラの魔法を防ぐ為ではありません。
そもそも炎の壁で、あんな魔法を防げるわけがありません。
殆どの魔力を使って2秒間だけ時間を止めた。
と言いましたが、そもそも時を止めるということは、時を伸ばしているということ。
もし仮に、自分のいる空間だけ時を3秒止めるとします。
その3秒間。周りは動けませんが、自分はその3秒間は動けるわけです。つまり、自分の中では、3秒長く生きたということになります。
時が止まっているからといって、歳をとらないわけでもないし、怪我をしないわけでもありません。
これは全ての神級魔法にいえることですが、神級魔法は別名。『世界の理を打ち破る魔法』と呼ばれています。
それ程までに、神級魔法の強さは凄まじく、習得するのも難しいのです。
そんな魔法を使おうとすれば……当然ですが、莫大な魔力量が必要となります。
ただし、魔力分身。無限収納などの、本来の使い方をしていなければ、少々の魔力量のみで使うことが可能です。
それは、霊魂魔法にも言えることです。
時間魔法なら、大陸上の時間を止める。又は縮めるなど
霊魂魔法なら、生きている魂への高位の介入など
空間魔法なら、大陸ほどの空間を作る。又は消すなど
重力魔法なら、大陸上の重力の変換など
限界魔法なら、極度の限界突破など
もちろん。状況や、範囲の広さ、魔法の規模の大きさなどで、多少変わることがあると思いますが、おおよその本来の使い方として、教えられる例えとして、この五つはよく使われます。
霊魂魔法は、主に死者の魂を扱う神級魔法です。
そして、その応用技として、擬似魂を作ることや魂そのものに衝撃を与えることが出来ますが、その本当の使い方は生者の魂に介入することです。
例えば、生きた魔物の魂へと介入し、その魂を奪い取り、その魂と冒険者の魂を入れ替えた場合、その冒険者の知性や行動は魔物そのものとなり、自我を抑えられなくなります。
しかし、霊魂魔法を……
嫌…
神級魔法を本当の使い方で使える人は殆ど……いや、『0』に近いです。
それに、そんなことを容易くできれば、簡単に世界は破滅の道へと進んでしまうでしょう。
それこそ、神級魔法が『世界の理を打ち破る魔法』と呼ばれる由縁です。
話を戻しますが、つまり僕が何をしたかと言うと、
時間魔法を使い体内の魔力を無くしたのです。
僕が炎の壁を展開したその瞬間。僕は時間魔法を使い、僕以外のこの大陸上の全ての時間を2秒間のみ止めました。
逆に言うと、2秒が限界でした。
これにより、僕の体内に残っている魔力は殆どゼロになりました。厳密に言うと、二つの魔法しか使えない状態でした。
僕は時間魔法を使った二秒間で、土魔法【掘削】を使い、炎の壁を土の中から越え、ゾルラの足元へと穴を開けました。
これが、一つめに使った魔法です。
そして、魔力不足により、疲労した身体を無理やり動かし、できた穴の半分を通りました。
ここまでで、2秒経過しました。
もし仮にこれを、魔力を残した状態で穴を開け、足元への奇襲をしようとしたなら、掘削を使った瞬間に奇襲がバレてしまいます。
それどころか、僕がどこにいるかもゾルラには容易に分かってしまいます。
なので僕は、時間魔法を使い、体内に残る魔力を無くしたのです。
そして、僕が使っていた2つ目の魔法は
ーーー【零の時間】
この魔法は体力、魔力、精神力などが機能不能な程までに使い果たした時に自動的に発動する仕組みとなっており、
僕が限界魔法を習得できた時にお父さんから教えてもらった魔法です。
魔力が零になったなら、零の時間の効果で、短時間のみ魔法が使えるようになります。
重要なのが、この魔法では、決して魔力が回復したわけではありません。
あくまでも、魔法が使えるのは零の時間の効果のおかげなのです。
ーーーここまででもう僕が何をしたかが分かったかも知れません。
つまり僕は、僕の体内にある膨大な魔力量をなくならすためと、ゾルラへの奇襲を簡単に行えるために時間魔法を使い、わずかに残しておいた魔力で掘削を使った。
この時点で、僕の魔力は零になりました。
そして、魔力が零になった瞬間自動的に零の時間が発動し、その効果で、ゾルラの魔力探知を掻い潜り、奇襲ができたというわけです。
そして、フィーに障壁をかけた僕は、
途轍もないほどの疲労感に苛まれました。
これが、零の時間のいわば副作用のようなものです。
無理矢理魔力が無い状態で魔法を使ったので、当然といえば当然です。
これは言うなれば『奥の手』みたいなものです。
上級の魔物などになると、相手の魔力があるか無いかが、なんとなく分かるらしいです。
これも、お父さんからの体験談です。
そして、頭の賢い魔物はその瞬間を狙って攻撃してくることもあるそうです。
そのような敵に奇襲を仕掛けるのに向いています。
しかし、零の時間の効果がきれた後は必ず、体から魂が抜け出すような脱力感や、手足を動かそうとしてもピクリとも動かせないほどの疲労感が襲ってきます。
そして、僕はその日そのままその場に倒れ、気絶してしまったのです……
僕が目を覚ましたのは、フィーの悲鳴が聞こえたからでした。
僕は、眠っていた意識を覚醒させ、フィーの場へと向かいました。
気配探知を見ても、只事ではないことは一目瞭然。フィーの魔力量はとんでもないほど膨れ上がり、フィーから溢れ出た魔力は、森を揺らすほどとなっていきました。
(間に合ってくれ……)
「フィー!!!」
フィーの元に到着した僕は、その眼を見ただけで状況を把握しました。
恐らく。フィーの意識が覚醒したことによる、後遺症。
ゾルラと引き離したとはいえ、少なくとも三日間はその中にゾルラを宿していたのです。
正直何も起こらない方が可笑しいぐらいです。
「ルフィス…さん。助け……てぇ」
「待っててください!必ず!必ず僕が治してみせます!
ーーー【安らかな風】」
フィーのこの症状の原因は、魂が二つあったことによる、記憶や感覚の『矛盾』です。
その『矛盾』が強く、フィーは、ゾルラの意識に対して身体は拒絶しているのに、心……魂はオッケーを出しているといった状況に陥っているのです。
「はああぁ〜……」
まずは、その緊張をリラックスさせて、気持ちを整えさせます。
そして、心音が正常になってきたら、次はその矛盾を解消していきます。
「ーーー【記憶消去】」
この魔法は、その名の通り、記憶を消去する魔法です。
通常、生者への記憶の干渉は、霊魂魔法の本来の使い方に少しばかり干渉した魔法になっており、その扱い方は困難で、魔力量も当然、頻繁に使えるほどではありません。
しかし、今回の場合は別です。なぜなら消去する記憶の対象があやふやではなく、はっきりとしており、とても分かりやすくなっているのです。
魂が二つという、異例なこともあるので、今回のケースは記憶消去を使うこれ以上にない最適な場面だったと思います。
僕は、綺麗にフィーの記憶の中からゾルラの記憶のみを消しました。
尚、ゾルラという人物がいるということ、そして、ゾルラがこの身に憑依していたこと、この二つは残しておきました。
「もう大丈夫ですよ」
「うん……ありがとう、ござい…ます……」
これで、フィーの後遺症は完全になくなったでしょう。
「ん”…うぇえええええん……怖かったです〜!!!」
やっとゾルラから解放されたフィーは本当によく頑張ったと思います。
フィーの味わった怖さを、僕には到底分かりませんが、僕が、ゾルラが憑依したフィーと闘っている最中に、僕のせいで合わせた傷もあります。
「僕も……すいません。フィーに…僕のせいであんな傷を……」
「いっ!いえっ!そんな……そんなことより!僕にとってはとにかく助けてくれたことが嬉しいです!ゾルラに憑依されてるとき、ずっと怖かったです。僕じゃない、もう1人の自分がいるみたいで……ずっと…ずっと考えていたんです!ルフィスさんなら絶対に倒してくれると…絶対に負けないって信じていたんです!」
「………うん。ありがとう、ございます」
(『本当の感謝を知ったら、それはもうどんなに珍しい素材よりも価値のある宝になるぞ』……か)
確かにその通りです。フィーに感謝された僕は、自分の顔が赤くなっているのを感じた。それに、今の気持ちはまた、お父さんやお母さんに褒められることとはまた別の感情です。
自分自身の力でようやく一つの大きな山場を超えた気がして、正直僕もドッと疲れてしまいました。
気づけばいつの間にか、心地の良い風に囲まれて、揺れる木々の中でスースー寝息を立てて眠るフィーがいました。
「ふふっ…」
ひと段落した安心感をそのまま睡眠欲へと変えると、僕もフィーのそばに寝転がると、瞬く間に逆らえない程の睡魔に襲われました。
★★★★★★★★★★
「よしっ!それじゃあ探しに行きますか!」
「はいっ!ルフィスさん!」
結局、あの後僕たちはおよそ十八時間ほどぐっすりと寝てしまい、次の日の朝となりました。
疲れも取れて、後遺症の確認もし終えた僕たちはフィーを家に返す旅へと出ました。
いろいろな事が重なり、試験までは後三日となってしまいました。
それと、朗報なんですが、ゾルラが去ったことにより、フィーがどうやって、あの森に来たのかを思い出したのです。
つまり、その道を辿ればフィーの村へ戻れるということです!!!
★★★★★★★★★★
「あっ、ここを右に曲がって下さい」
「この木ですね、分かりました!」
フィーの的確な指示の元、僕には分かりませんが、恐らくフィーの村へと近づいていることでしょう。
大きな木を右に曲がると、大きな街が見えてきました。
「あの村の奥です!僕の村は!」
「了解です!スピードアップで直ぐに連れていきましょう」
身体強化にギアをかけて、その街をぐるりと回ると、目の前には森が見えてきました。
この近くはの魔力濃度が絶妙なのか、冒険者の方達ともよく遭遇しました。
「ここで止まって下さい!!!」
右…左…右斜め後ろ…ひとまわり大きな木で左に曲がる…
などといったものすごく細かな指示に、流石の僕も尊敬していた頃、不意に『止まれ』の指示が下されたので、急ブレーキ…
そして、僕たちが着いた場所は、なんてこと無い、木が揚々と生い茂る光も差し込まない暗い場所でした。
「ちょっと待ってて下さい」
そう言い、辺りを見渡し、近くにあった一つの木に手を当てました。
何事もなく手を当て続けてからおよそ三十秒、流石に声をかけようと一歩踏み出した時、木が不自然な動きをしだしました。
枝が揺らぐ訳でもなく、葉っぱが落ちる訳でもなく…
簡単に言いますと、『木』が動いているのです。
枝でもなく、葉っぱでもなく、『木』が………
その『木』がズズズと左に動くと、もともとその『木』があった場所に、なんと円形の穴が開いてあり、その穴には梯子が真下へとかかっており、下に降りられるようになっていました。
梯子はどれくらい長く続いているのか、何も魔法を使わない状態では、目視でも予測もできないほど暗く続いていました。
「さっ!行きましょう!ルフィスさん!」
「………………ああ…」
フィーが先頭になり一緒にその梯子を降りている途中で、『木』が勝手にで穴を塞ぐ様子が見えました。
穴を塞ぎ、光がなくなったことにより穴の中が暗くなったので、壁に付いていたランプが点灯し、辺りを照らしました。
三十秒ほどで梯子を降りきると、小さな部屋に出てきました。
その部屋はお母さんが話していた『たたみ』を使った部屋でした。
虎の絵が書かれた『ふすま』を開けると…そこには、言葉が出ないほどの想像を絶するような光景が広がっていました。
「地下に…村!?」
皆前に広がる光景は、川が通っており、木も立ってあり、野原や湖もありました……
そう、地下にです。
「フィーの村っていうのは、『地下集落』だったのですね……」
地下集落。
大厄災当時に、闘いに巻き込まれない為に、何者かが作った地下に広がる集落。
しかし、発見された地下集落はその数だったの一つであり、地下集落という正体は噂とされており、発見された地下集落も実は、大厄災当時に攻められ、その土地一帯が、陥没したことにより作られたとされた、架空の世界。