第2話 ★旅立ち★
ブクマよろ。
平均文字数は7,000~12000です!!!!!
★12332♪
昼ごはんを食べ終えた僕は今から昼の特訓です。
いつもは主に剣の素振りや魔物の狩り。そしてこの頃はお父さんとの模擬戦もやっています。
「よしっ!今日からは新たに『弓』の練習も新しく特訓に加えるぞ!」
「はいっ」
「よぉーし、それじゃあ弓を撃つ前にまずは体幹トレーニングといこうか」
「体幹トレーニング?」
「ああ。弓を撃つのに大事なことは体幹。つまり体の軸だ。重心を体の真ん中に置いて、しっかりとした姿勢で標的に向かって撃つ。それがまず弓を使う上で大事なことだ。後は腕の動きや手の形とかしっかりとした手順を覚えること。それと、弓を使う場所の環境。風向きとかそういうことを考えるだけだ。
ルフィス。お前ならできるだろ」
「はい!やってみます!」
過大評価されることは嬉しいです。
弓を使うのはもちろんですが初めてです。でも、お父さんが覚えたほうがいいと言ったので覚えたほうがいいのでしょう。それに、お父さんの教え方は物凄く上手いのですぐに出来ると思います。
★★★★★★★★★★
「よぉーし今日の特訓はここまでだな」
「はいっ!ありがとうございました!」
「それにしても、半日でもう20メートル先の的を射抜くとはな……さすがルフィスだな!」
「いえいえ、これはお父さんの教え方が素晴らしいだけです。それに、僕なんてまだまだですから」
「……うん。まあっ、そうだな!」
僕は少し照れ臭くも、褒められたことが、ものすごく嬉しかったです。
こうして昼の特訓を終えた僕は家へと戻り、今から夜ご飯を食べる時間なのです!
「ただいまぁ!」
「おかえりなさい」
僕が言うとお母さんも返事してくれる。返事をしてくれると言うのは実に気持ちいことです。なので僕も、挨拶をされたら必ず大きな声で返事するようにしているのです。
「お母さん!今日はね、お父さんに弓の使い方を教えて貰ったんだよ!」
「まあ、そうなの。それは良かったわね。上手に撃てた??」
「はいっ!上手に撃てました!」
「わたしは、一日で弓を使えるようになった人をルフィス以外にもう一人しか知らないわね」
「それは誰ですか?」
「うふふ…」
それと同時にお母さんの視線が少し、お父さんの方に向きました。
一方お父さんは少しにやにやしながら少し頬を染めています。
「よしっ!今日の晩ご飯はリトルドラゴンのお肉でお鍋よ!」
「……お母さん。今、春なんだけど……」
「あら?そーだったかしら?まあっ、この頃少し肌寒くなってきたから、丁度いいんじゃない?」
「この頃は暖かくなってきてるんだけどね……」
そう。お母さんは天然です。今のは正直とぼけたのか本当に分かっていなかったのかはわかりませんが……
この前も魔法の特訓の時、初めて魔法を習うのにいきなり神級魔法を覚えさせられました。勿論習得は出来ませんでしたが……そもそも基本属性の魔法すらしていなかったのにも関わらずです。
お母さんは茶色のふわふわとした髪の毛に黒色の目。目は細目ですが、大きな魔物にも物怖じしない、常に落ち着きのある人です。お母さんが本当に慌てているところを僕は見たことがありません。お父さんは良くあるのですが……
そして体も細くて正直弱そうなのですが、それでも魔法の才能はすごくて、僕なんかまだまだ足元にも及びません。それでそれで、子供の僕が見てもお母さんはとっても美人さんです!
「「「いただきまーす!」」」
結局今日の晩ご飯はお鍋になっちゃいました。
しかも鍋の中の半分はお肉で埋め尽くされています。
その他には白菜や人参が入っています。
この家で飼っている鳥の魔獣からとれた卵を使って僕は今日、すき焼き風にして食べようと思います!
ちなみに魔獣というのは基本的に【従魔契約】により従魔にできるような魔物のことを指します。
といっても、魔物でも【従魔契約】で従魔にしたという例もありますので、やはり、一番の違いは体内に魔石が入っているかいないかという違いです。
どんな魔物にも必ず、絶対に魔石が体内にあります。
魔物は、その魔石のおかげで魔法を使えたり出来ます。
しかし、魔獣は空気中に散乱している魔力を使い、魔法を使います。ここは人と似ている部分です。
魔獣にはランクみたいな、強さを表すものがあり、
魔獣。珍獣。幻獣。神獣。とランクが上がっています。
特に神獣はとても珍しく、陸海空の頂点に君臨する三体しか存在せず、とある集落や町では神として崇められるほどです……
それと、魔獣は魔物と違い、温厚な性格だそうです。
「やっぱりドラゴンのお肉は美味しいなあ…」
「ルフィスは昔っからドラゴンの肉が好きなんだな。そんなに美味しそうに食ってくれりゃあ俺も狩り甲斐があるってもんだぜ」
「お父さん、いつもありがとう!」
「おうっ!」
僕のお父さんはとにかく凄くて、強い、自慢のお父さんです!
黒色の短く切ってある髪の毛と黒色の目。左の頬あたりに昔、闘った魔物に斬り付けられたらしいキズが斜めに付いており、そして、どうやら黒目黒髪は珍しいらしいです。僕は街に行ったことが無いので分かりませんが……そして、お父さんは物凄くイケメンです!お母さんも美人ですが、それに負けないくらいキラキラしています!
僕のお母さんとお父さんは本当に自慢のできる親です!
★★★★★★★★★★
「「「ご馳走様!」」」
今日はいつもより少し張り切って食べちゃったのでお腹がいっぱいです。
そして、今からお勉強の時間です!
この世界の地理、歴史、文化。それに、政治についてなど、色々なことを勉強しています!
「お片づけが済んだら先に二階に行っててね」
「はい!分かりました!」
僕はお片付けを終えると、二階にある勉強部屋へと向かいました。
勉強部屋といっても本棚がいっぱいあって机が置いてあるだけの部屋なのですが、勉強部屋は僕の部屋の隣なので、たまにこっそりと入って気になった本をよく読んでいます。
今日もお母さんが来る前に先にお勉強をしておきます。
僕は机の上に置いてある一冊の本を手に取り、ページを開きました。その本は簡単に言えばこの世界の歴史や、地図が載っている分厚い本です。
まず僕たちが住んでいる大陸は【ランド】と言います。
その大きさは想像もできないほど大きく、お父さんでも、この大陸を周ってくるには、およそ一ヶ月ほどかかるらしいです。これは、この大陸が大きいのか、お父さんが凄すぎるのか……馬車で例えると、1日も休まなければ、約一年で一周できるそうです。
種族は主に、【人族】【獣族】【霊族】【魔族】そしてそこから【獣人族】【精霊族】といった形で分けられています。
【魔族】はこの世界とは違う異界からきた魔王軍の、大厄災での生き残りが繁殖したものです。【魔族】の中には他の種族にも親交的な関係を築いている者いますが、大半はもう一度魔王軍を結成し、世界を滅ぼそうと企んでいます。その為、【魔族】は共通の敵としてみなされています。
そしてそれぞれの種族は大きな山脈を境目に国を作り、その中に街を作ったりして、自分たちの大陸を守っています。
人族は【シルバー王国】を自分たちの大陸の中心地としてそのほかに様々な国が存在します。他の国のことはあまり知らないのでこれからどんどん覚えていきたいと思います!
そして、今からおよそ十年前。僕がまだ生まれる前に、魔族の王。魔王がこの世界を崩壊へと導いたらしいです。通称、【大厄災】
それを救ったのが誰もが知る白銀の勇者。
人族はその感謝の意味を込めて、大厄災が起こる前まで栄えていた国をシルバー王国と改め、いまや人族の国の中で一番栄えているほどです。
噂では初代シルバー王国の国王は五英雄のうちの一人または、白銀の勇者なのでは無いのかともいわれています。これはただの噂にすぎませんが……
「ごめんね、遅くなっちゃって」
「いえ、僕も丁度本を読んでいたので全然大丈夫です!」
「そう。偉いわねぇ、本当…」
「いっ、いえいえ、僕は早くお父さんとお母さんに追い付きたいだけです」
僕はお母さんの表情が一瞬悲しい表情になったのを見逃しませんでした。どうしてそんな表情になったのかまでは考えませんでした。
考えようとしませんでした。
「さあっ!それじゃあ今日は勉強じゃなくて、ちょっとお話をしましょうか」
「はい!」
「うん。それじゃあ……
あるところに仲良し六人組がいました。その六人はどこに行くのも一緒で、毎日を一緒に過ごしていました。
そしてある日、その六人は突如として現れた謎の光によって全く違う世界に飛ばされてしまいました。
そして、自称神様なる者が現れ、『救ってほしい』とだけ言われました。
その六人は当初その意味が全く分かりませんでした。しかし、違う世界を旅するにつれてその言葉の意味を理解していきました。その意味は魔王を倒すということでした。そして、その六人はとにかく強くなりました。無我夢中で他のことになんの関心もわかないほどに、とにかく強くなることだけを考えました。様々な困難を乗り越えながら六人は戦い続けました。
そしてとうとう、六人の旅は終わりを迎えました。
魔王の前に立ち向かった私たちは一瞬、魔王の覇気に驚きましたが、接戦の末、六人はやっとの思いで魔王を討ち取りました。
魔王を倒した六人はその後それぞれバラバラになりました。
しかしそのうちの二人は恋に落ち、幸せに暮らしました……
おしまいおしまい」
「…………」
「どうだった?まぁ…ルフィスはもうわかったと思うけど、この話は白銀の勇者と五英雄の話よ。
この話は有名な話よ。本を探せば、ルフィスも見つけられると思うわ。さあ、今日はここまでに今日はもう寝なさい」
「…はい。分かりました!おやすみなさい!」
「うん。おやすみ」
僕は部屋を出て、自分の部屋に行きました。
そして……
(さっきの話。あれはお母さんの昔の話?でも、だったらじゃあ……)
そう。僕はさっきの話は多分お母さんの過去の話だと思いました。理由は簡単です。まず話し方がまるで自分が体験したような話し方だったからです。それに……お母さんは話している途中。六人ではなく私たちと言っていました。
これがわざとだとは天然なお母さんからはあまり考えられません。多分…感情的になったせいで誤って言ってしまったのでしょう。
「そうなったら……お母さんとお父さんは……伝説のゆう…しゃ……?」
そんなことを頭の中で考えながら、僕は部屋に入り、そしてベッドの中に潜りました。
★★★★★★★★★★
「はあああ…………」
「どうした?」
「あっ秀真くん」
「なんかあったか?」
「うん。ちょっとこの世界に来た時のことをルフィスに話しちゃって……」
「あぁ……えっ、もしかしてバレた?」
「多分。バレ……たと思う」
「はぁ〜。まっ、愛奈は昔っから天然だからしゃあねーけどな」
「むうっ、私はそんなに天然じゃないのに…」
「ははは、ごめんごめん」
「まあ別にもういいけど……それで、ルフィスはどう?」
「ああ。ルフィスはとんでもねぇバケモンだ」
「うん。言い方はちょっと汚いけど間違ってないわね」
「たった一日でもう弓をマスターしやがった。弓を主流に使おうとするならば、まだまだとも言えるが、あれでも十分といえるだろ」
「まあ、秀馬くんの子供だからね」
「愛奈の子供でもあんだろ。魔法の才能もピカイチだろ」
「うん。五歳ですでに三重属性なんて、聞いたことないわ。まあ、全属性の秀馬くんからしたらどうってことないかもしれないけど」
「いや、そんな事はないぞ。それに、ルフィスは絶対に全属性になるな」
「うん。それに、神級魔法も覚えれるわ」
「まじか。俺以上じゃねーか」
「うふふ。秀馬くん以上になるかもしれないわね。それにあの髪の毛の色。やっぱり何か関係のかしら?」
「さあな。何にも関係ないわけじゃなさそうだがな……」
「これからどうするの?もう弓は覚えちゃったんでしょ?」
「ああ。最初のプランから変更して、俺が教えられる武術の全てをルフィスに覚えさせるつもりだ」
「ルフィスの覚えの速さは秀馬くん譲りだものね」
「ま・あ・な」
「はあああ……それにしても、みんなに会いたいなぁ」
「ルフィスが学園に入るまでの辛抱だ。ちゃっかりあいつら結婚しているかもよ」
「そんなわけ……ないと思うけど……」
「ははっ、お前は知らないだけで、あいつら四人とも結構いい感じだったんだぜ」
「そうだったの?」
「ははっ、やっぱ愛奈は天然だな」
「も〜。わっ、わたしだって気付いていたし」
「はははっ。まあ、何はともあれ、あと七年だ。それまでにルフィスを徹底的に鍛えるぞ」
「うんっ!秀馬くん!」
★★★★★★★★★★
七年後…………
★★★★★★★★★★
「ん〜〜〜!!」
朝が来た。時刻にして午前五時過ぎ。僕は昨日ずっと空間魔法の練習をしてたからちょっと寝不足です。
そして昨日の模擬戦の筋肉痛やキズが腕や足に歩くごとに追撃してきています。
「いてて、やっぱりお父さんは物凄く強いなあ全属性使っていいって言われたのに一撃も入れられ無いんだもん……」
僕は階段を降り、外へ出ようとしました。お父さんとお母さんはまだ寝ていました。僕はいつも通りみんなより先に起きて、森へと出かけにいきました。早朝特有の肌寒さが僕の体を冷やしていきます。
僕はいつもの日課となっているとある場所へといこうとしていました。
それは僕が【神の庭】と呼んでいる場所だ。七年前くらい前にお母さんに連れられて来た場所ですが、あれ以来早朝に起きてはここへ来ています。
そのおかげか、僕は基本属性の中でも風属性が一番得意になりました。
湖の近くで動物…主に鳥などと戯れながら自然魔法の練習をして、木の葉のベットの上で朝の昼寝をしました。
★★★★★★★★★★
今日も日々の日課を終えた僕は家へと戻りました。
今日は僕が飛び立つ日。
そう、今日から僕はとうとうシルバー王国へと向かう事になったのです!それに、学校に通う事にもなりました。それもあの名門学校【レンブラント魔術武術学術総合学園】にです。
勿論。まだ決定したわけではありません。入試試験をクリアしないと入学はできません。
【レンブラント魔術武術学術総合学園】はシルバー王国が直接手掛けている学園で、初等部、中等部、高等部の三つに分かれており、其々、受けられる年齢が
『九歳』『十二歳』『十五歳』と異なっています。
もし仮に、初等部から入学している人が、三年間を過ごし、初等部を卒業することとなれば、もう一度、今度は中等部の試験をしっかりと受けないと、入学できない制度です。
つまり、初等部から入学している人は合計三回の試験を受けなければならないのです。
それに、試験は春に一度しか無いので、その年を逃せば、例外がない限り、三年間待たないと学園に入学出来ないという、ある意味恐ろしい学園なのです。
それでも入学さえすれば、そこはもう史上最高の学園であり、食事はおいしいと評判で、最先端技術を使った設備など、東西南北各地方から来た天才学者や魔法師がいるといった、将来的にも保険がかかっている物凄く人気がある学園です。
なので、必然的に試験などは他の学校とは比べ物にならないくらい難しいらしいです。
ちなみに僕は中等部の試験を受けます。
「ただいま!」
「おかえりルフィス」
家に戻るとすでにお母さんは起きていました。
お父さんは…うん。まだ寝ているのだろう。
「今日のご飯はなんですか?」
「今日はルフィスが学園に行く日だから特別に【キングドラゴン】のステーキよ!!!」
「ほっ、ほほほ本当ですか!?!?」
「ふふふ、お父さんとお母さん頑張ったんだからね」
「あっ、ありがとう!」
キングドラゴンはその名の通り竜の王。
リトルドラゴンとは比べ物にならない位大きく、強く、凶暴で、何より美味しいのです!
しかし、キングドラゴンを直接見たことのある人はほとんどいません。
そもそも、一度の人生でキングドラゴンを見る事自体が奇跡。いや、幻に近いことです。
キングドラゴンは山奥の洞窟にいるといわれているので、人里に下りてくることは滅多にありません。
それも百年単位の話です。
「街への準備はできたの?」
「はい!全部この中です」
僕は何も無い空間に黒い渦を作って見せるとそこから服や武器などを取り出してみせた。
「ふふふ、どうやら準備万端みたいね」
「はい!この魔法は本当に便利です」
僕がやっとの思いで神級魔法を覚えてから始めに覚えた魔法が【無限収納】です。
お母さんがいつも使っているのを見て、絶対に使えるようになりたい!と思ったのがきっかけです。
といっても、時間魔法の方が下手でお母さんのように上手にはできませんでしたが……
「ご飯ができるまでまだ時間はある?」
「ええ、まだまだかかりそうね」
「それじゃあちょっとお父さんを起こしてきます」
「うん。分かったわ」
僕はお父さんの部屋へと向かった。
お父さんの強さは今でも計り知れないほどです。
当然です。だってお父さんはあの白銀の勇者なのですから……
勿論…今もこれからもお父さんは白銀の勇者としてではなくお父さんとして見ていくつもりですし、僕が知っていることを教える気もありません。
そんなお父さんは幾千もの修羅場を通ってきている、そんな強い人。
お父さんは一度寝るとなかなか起きないタイプの人なので、起こすのには苦労する……と思いますが、お父さんは戦いに慣れています。そんな戦いに慣れている人物を起こすのにとっておきの魔法があります。
僕はそぉっとお父さんの部屋に入り、その魔法を使いました。
「ーーー【殺気拡散】」
「!?」
僕が魔法を使ってからわずか0.1秒足らずでお父さんは起き上がり僕に殴りかかって来た。
それを僕はちょっとスレスレながらもかわしました。
寝起き早々一発目に繰り出すパンチがこれというのは、なんとも怖い話です。
「おはようございます、お父さん」
「はあっ…はあっ…おはよう。てゆうか、もっとマシな起こし方があるだろ、体が反射的に起き上がっちまうんだ」
「お父さんを起こすにはこれが一番良いんです」
【殺気拡散】はその名の通り自分の殺気を周りに飛ばす魔法です。
闇魔法の魔法ですが、闇魔法は単なる補正に過ぎません。熟練の人ならば闇属性を持っていなくても使える人がいるでしょう。
効果は様々で、主に格下の相手には威嚇効果。格上の相手には挑発効果があります。
二人以上で格上の魔物と戦う時はまず一人が【殺気拡散】を使い、標的を自分に向けるといった使い方ができます。
「お父さん!今日こそは絶対に勝ちます!」
「おっ!それは楽しみだ」
そして、今日こそは……今日こそはお父さんに勝つ!
お父さんを起こしてから僕は玄関に置いてある木刀を手に取り外に出た。お父さんも同様、木刀を手に取り外へと出た。その様子を見て、お母さんはにっこりと笑っていました。
家の裏へと周り、いつも模擬戦するときに使っている少しひらけた場所へと行き、僕たちは向かい合い、真っ直ぐと剣を構えた。
「さあっ、勝負は一回だぞ」
「分かってます。その一回で……お父さんに勝つ!」
僕は地面を蹴った。それだけで砂埃が舞う。だがお父さんはまだ一歩も動いていない。それどころか、いつものように笑っていた。僕はすぐさまお父さんの背後に周りお父さんの足をめがけて木刀を振った。
しかしお父さんはそれを後ろを見ずに木刀ではじき返した。
「やっぱりお父さんは凄いですね…気配を完全に消していたはずなんですが……」
「まだほんの少しだけ残ってるからな。それでもここまで気配を消せるのは流石だな」
「今度こそ……
ーーー【魔力分身】!」
「うおっ……」
僕は【魔力分身】を使い体を三つに分けた。
この魔法は神級魔法。霊魂魔法の応用技で、一人を本体として、他の分身を自分に似せた魔力の塊で偽造するものです。
魔力が足りない場合は、霊魂魔法で補う人もいるそうです。僕にはあまり必要ありませんが、特訓のため、何度か使ったことがあり、その技の熟練度も上がってきており、魔力分身は僕が霊魂魔法で一番得意な魔法となっています。
そして今、一人は本物で、二人は偽物という状況になっています。
そして、この魔法のポイントは魔力の使い方です。
魔力の塊で自分の体を作るのはそこまで難しくはありません。
ただ、相手が戦い慣れている人なら、生きた人間との魔力の流れの違いを見破られてすぐに本体が分かってしまいます。霊魂魔法を使っているのなら尚更のことです。そして、分身体の命の役割を果たす魂を見破られて終わりです。
なので、見破られ無いようにするためには魔力の流れや、骨格から筋肉の質。魂の位置などを再現する必要があるのです。なので、この魔法は本当に難しいです。
僕はまず二人で挟み撃ちし、同時にお父さんに木刀を振り下ろしました。
同時に振り下ろされたと思われた木刀は、たった一本のお父さんの右手に握る木刀に『ひょいひょい』っと遇らわれました。
そして今度は一歩も動かなかったお父さんが反撃へとでてきました。二人はあっという間に倒されその姿を消しました。残る一人は一度引き、体制を整えました。そして、猛スピードでお父さんのところへと走る。そして、お父さんの一歩手前で空に向かってジャンプしました。そして上空からお父さんへと切りかかりました。お父さんも目線を上に上げ、姿勢を整えました。
ーーードゴォォオン!!
二つの木刀が交わった。
たった一撃で森全体にその波動は伝わった。木にとまっていた鳥も今の衝動でほとんどが飛び立っていった。
やはりパワーではお父さんに勝る事は無かった。本体はお父さんのパワーに敗れその体を木刀で打たれ……
打たれる前にその姿を消した。
「!?」
流石のお父さんも少しびっくりしています。
すかさず僕はお父さんの背後をとらえた。完全なる不意打ち。
(もらった!!!)
ーーードゴオオオオオオン!!!
★★★★★★★★★★
「いたたたた……やっぱり今回もダメでしたか……」
「ははは、まだまだだな。でも戦略としては十分良かったぞ。分身と見せかけた最初の二人が戦っている間に、俺にバレないようにさらに分身を作っておき、自分は気配を完全に消す。そして、最後の本体と思わせた分身を倒した隙に背後を取る。俺はてっきりお前の得意な風属性で来ると思っていたんだがな」
「風属性を使うことは、お父さんならすぐ分かると思いましたので。今回は不意を打つことが目的でしたので」
「流石、ルフィスは戦略家だな。でも、念には念をだな。自分の手札は何重にもして隠すものだ。そして、その手札を絶対にバレないようにすること。まあそんなことは、ルフィスなら分かっていると思うがな」
「はい!」
最後の模擬戦を終えた僕とお父さんはお母さんとキングドラゴンが待つ家へと向かった。今日の朝ごはんはご馳走だから僕とお父さんはやや駆け足になっていました。
「「ただいまッ!」」
家に入った瞬間、その匂いは鼻の中に入って来ました。リトルドラゴンとは比べ物にならない、それこそ王者。僕とお父さんは喉をゴクリと鳴らしてしまいました。
僕はすぐさま模擬戦で汚れた手を水魔法で洗い、駆け足で椅子に座っりました。
「よーし。今日はご馳走よ!なんてったって今日はルフィスとの最後の朝ごはんなんだから!」
僕たちの目の前には、いつも食べていたリトルドラゴンとは比べものにならないほど大きなステーキがどんっ!と置いてありました。
鉄板の上では、『ジュー』という音をそれぞれ奏でており、このステーキが出来立てということを示しています。
「最後だなんて、いつでも一緒に食べれますよ」
「ははっ、そうだな…」
「うんうん。でも、このご馳走はルフィスの入学祝いでもあるのよ」
「いっ、いえ、まだ決まったわけでも無いのに…」
「ふふふ、どうかしらね、ルフィスなら確定だと思うけど」
「そうかな…」
「まあっ、とりあえず食べよう!」
「はいっ!…「「いただきます!」」」
僕はすぐさまかぶりついた。最初は作法などナイフを使うことも忘れてかぶりつきました。
リトルドラゴンとは比べ物にならない肉厚、肉汁。そして味付けも完璧!舌の上でまるで溶けるような感覚で口の中にどんどん入っていく。
一口噛むと肉汁が溢れ出し、二口噛むと美味しさが倍増し、三口噛むころにはすでに肉は溶けて無くなっていた。まさにジューシー……
自分の顔がとろけているのが分かりました。お父さんとお母さんも同様でした。
「おかわり!」
「はいはい。まだまだいっぱいあるから好きなだけ食べてね」
「やったー!!!」
★★★★★★★★★★
結局僕は一人で五皿も食べ、自分の部屋へと戻りました。
自分の部屋との別れは寂しく、少し名残惜しいですが、いつでも【空間転移】で帰ってこれますので……
「そろそろ行こうか」
シルバー王国には夜までにはついておきたいのでできるだけ早く出発はしたいです。ここからシルバー王国までは馬車で約二週間かかるとお父さんとお母さんが言っていたので今から走ればなんとか夕方までには間に合うと思います。
そして、できれば、シルバー王国の首都である【王都シルバー】にはついておきたいのですが、流石に距離がありすぎるので、今日は違う街で宿を取るつもりです。
本を読むたびに思うことなのですが、とにかく……
白銀の勇者の影響力ヤバええええ……
国の名前から街…しかも首都の名前まで、連想されるのは白銀の勇者。
それほど、大厄災というのは恐ろしかったということだと思うのですが……
僕は最後に無限収納の確認をさて、家の外へと出ました。外に出るとすでにお父さんとお母さんが待っていました。
「準備はバッチリか?」
「はい、バッチリです」
「そうか、あっちに行っても特訓を怠るなよ。なまった体はなかなか元には戻らないからな」
「分かっています。お父さんに言われたことはしっかりするので、安心してください」
「ルフィス……あっちに行ったら友達をちゃんと作ってね」
「大丈夫です!」
「…うん」
「それじゃあ……行ってくる!」
「まっ、待って!」
僕はその声で今使おうとしていた魔法【身体強化】の使用をやめた。
「なんですーーー」
僕が、要件を聞く前に僕はお母さんに抱きしめられていた。
「辛いことがあっても苦しいことがあっても良いように、必ず、大切な人を作るんだよ」
それはお母さんの愛情。僕は改めて“別れ”というものを知った。今までは寂しくなったら、苦しくなったら帰りたくなったら【空間転移】で戻れば良いと思っていた。
でもそうじゃ無い。【空間転移】をするのはこちらの勝手ですが、
もし僕がこの旅の中で死んでしまったら……
もし僕が学園で虐められていたら……
そんなことがあれば、お父さんとお母さんは気が気じゃないでしょう。
いくら僕が十二年間頑張って、強くなったとはいえ、親として、この瞬間を黙って『いってらっしゃい』の一言で贈るわけにはいかないでしょう。
つまり、お母さんたちからしてみればこの瞬間は、次、僕に会えれるか分からない。といった状態なのだ。
そうなった時、人はどうするか。決まっています。その時間を延ばそうと、大切なこの時間がずっと続いて欲しい。そう思うはずです。
そのことを僕はまだ理解していなかった。
「う"っ、うん……」
ーーーガシッ
「うっ、おとう…さん…」
「何泣いてんだよ。お前が会おうと思えばいつでも会えるのによ。ルフィス、あんまり無茶すんなよ、自分の力を過信するんじゃねぇ。だからって大事な時に力を使えないのはダメだぞ」
「うっ…うん……」
「…それじゃあ、元気出して行ってこい!!!」
「またねルフィス!」
「うっ、うん………行ってくる!!」
俺は涙をぬぐい、その表情を隠すように背を向け、【身体強化】を使った。
途中何度も手を振り返した。
本当に……本当の別れというのは悲しいものだ。
(お父さんとお母さん。泣いてたな……)
僕は何回も本を見て覚えた地図を思い出しながらシルバー王国へと向かった。お父さんとお母さんの温かい愛情を胸に感じ続けながら……
★★★★★★★★★★
「行ったね……」
「行っちゃったな……」
「成長したね」
「成長したな……」
「頑張って…欲しい、ね」
「頑張ってほしいな」
「ねえっ…別れるのって……やっぱ、寂しいね…」
「寂しいな…」
「う”っ……うん…」
「愛奈……」
ーーーギュッ
「ルフィスは頑張れるやつだ。俺たちはそれを応援してやろう」
「うん……ぐすん…。久々に、泣いちゃった」
「仕方がないさ。俺たちの子だもん」
「うん。そうだね……」
「頑張ってきてね、ルフィス……」
「頑張ってこいよ、ルフィス……」