1 祭りの足跡が聞こえる
二週間以上空きましたが私は元気です。
あっという間に終わってしまった夏休みから、今日で二週間。
ちらほらと、涼しい日も出てきて、夏服の終わりを感じる季節。
ねぇ、長期休暇明けってあなたはどう感じる? 学校嫌だなぁとか、早起き面倒くさいなぁとか、色々あると思うんだけど、私はその逆でワクワクしていたの。
なんでかって言うと、うちの高校は、九月の間に、体育祭と文化祭の両方を実施することになっていて、イベントがこの月に密集してるからなのよね(二年生はしかも10月に修学旅行まであるんだって)。
つい先日、体育祭は終わったばっかりだけど、今週末にはもう文化祭が控えている。
なんだか、高校生って忙しいわね。
朝、クラスに入ると先週まではなかった多量の段ボールが教室の後ろに積まれていた。
こんなにいっぱい誰が運んだんだろ?
「お、アリス。おはよう」
「亮太。おはよう」
私が挨拶を返すと、亮太は先日の体育祭で真っ黒に日焼けした顔をニヤ付かせて
「アリスお前、鼻のさきっちょだけ赤くなってるぜ」
「なっ! うるさいわね! ほっといてよ!」
絶対に応援団をやらされたせいね……。やっぱり引き受けるんじゃなかった……。
「まぁ、あんだけ真面目に応援団やってたんだし、勲章だと思えばいいさ」
……これは亮太的に褒めてるんでしょうね。
「ねぇ、この段ボール亮太が持ってきたの?」
「ああ、正確には俺と太平の二人がな」
亮太は、席に座っている椎名君を指差す。
椎名君は、こっちに気づいて適当に手を振っている。
私はそれに合わせて適当に手を振り返すと、椎名君は、少し気まずそうな顔で踵を返した。
……なんとなく、なんとなくね? 夏休みが明けてから、椎名君は私に対してちょっとよそよそしい気がする。別に前から、特別仲が良かったわけではないけど、クラスで話したり、委員会でもフランクに話せていたのに、最近は会話が一言二言で終わることが多い。
なんか、失礼なことしちゃったのかな……。
「先生に聞いたら、もう今週末は文化祭だしってことで、教室の後にも段ボールとか色々置いて良いって話になったんだ」
「あ、それじゃあうちの部室に置いてある段ボールもこっちに移す?」
「いや、それはいい。準備期間になってからそっちの段ボールは運ぶことにするよ」
それならそれでいいんだけどね。
「おい、亮太、頼まれてたガムテープとか色々買ってきたぜ」
「お、サンキュー」
亮太は、クラスの男の子からビニール袋を受け取る。
もう今週末、文化祭なんだよね……。
恐らくだけど、うちのクラスは文化祭に対するモチベーションが高い。
それは、高校生活初めての文化祭だからってこともあるんだけど、なによりも、亮太の情熱にみんなが感化されてるからだと思う。
だって、真剣に頑張ってる人を応援できない人なんていないじゃない。
その理由を知ってる私は、なおさらね……。
昼休みになって、私と真衣は、部室でお弁当を食べていた。
「もう、今週末には文化祭なんだよね」
私が何の気なしにそう呟くと、真衣は
「本当ね。なんか落ち着かないっていうか、みんなソワソワしてる気がしない?」
「真衣もそうじゃないの?」
「そう見える?」
「なんとなくね」
「……文化祭で披露する手品は、別に難しい手品じゃないの」
真衣の言葉に嘘はないと思う。本当に真衣にとっては簡単な手品なんだろう。
「でも、それは本当にみんなが笑ってくれるのか、楽しんでくれるのか。それは分からないわ」
真衣は小さくため息をついた。だがすぐに笑顔になって
「当日のお客さん次第よね。そんなの」
と笑った。
「でも、盛り上がればいいわよね。私たちのステージも、うちのクラスのお化け屋敷も」
「そうだね。私たちはクラスのお手伝いはあんまり出来そうにないのが残念だけど」
「アリスは、無理して私の手伝いをしなくても良いのよ? クラスの方が気になるなら、そっちを手伝ってあげて?」
真衣は、優しくそう言った。
「……やだ」
「やだって……」
「出来る限り、両方手伝うわ。それが一番いいから」
「……アリスって、我儘よね」
「よく言われるわ」
私がそう言って笑うと、真衣も笑顔になった。
スーツ姿の男が二人、校門の前に立っていた。
一人はくたびれたコートにぼさぼさの髪の毛。
もう一人は、正反対の綺麗なコートに整った髪型をしていた。
「ここに来るのは久々か?」
くたびれたコートの男はたずねた。
「卒業式以来だ」
「そうするともう20年以上前かぁ。僕はついこないだ来たばかりだけど、中身は全然変わってなかったよ」
「……先生が待ってる。いくぞ」
「はいはい。相変わらずせっかちだなぁ」
放課後、私と亮太の二人は、亮太が段ボールの数を確認したいって言うから、部室に寄って段ボールの数を数えていた。
「段ボールでトンネルみたいのを作るって話なんだ」
「なんでトンネルを作るの?」
「トンネルで視界をまっくらにして、恐怖度をあげるってことさ」
「まっくらだと、危険じゃない?」
「来てくれた人には懐中電灯でも渡すってことになってる」
懐中電灯が必要なほど暗くするつもりなのね……。
「うーん、ざっくり数えた感じだと、段ボールの数は多分足りてると思うけど、ちょっと心配だな」
「また、蝉郎さんに頼んでみる?」
「うーん、どうだろうなぁ、あんまり一人に頼り切りなのも……一応夏美に聞いてみるか」
「うん……ねぇ、亮太」
「なんだ?」
「あんた……文化祭が終わったらどうするの?」
「え? 終わったらってどういうことだよ?」
「えっと……その、夏美に……」
もう! 鈍感な男ね!
「夏美に? 夏美に何の関係が……あっ……」
亮太はハッとしたのちに、俯いた。
「……答えたくないなら別に」
「文化祭がさ」
亮太は顔を上げて、口を開いた。
「うちのクラスの文化祭が、成功したらもっかい告白するよ」
「……どうなったら成功?」
「あ~、そうだな……皆が笑顔で終われたら成功じゃないか?」
「……」
「えっと、ダサかったか?」
「ちょっとだけね」
「そりゃどうも。あっ、でもそう言ってすぐさま夏美に頼み事するのって、マジダサじゃねぇか?」
「あー……マジダサかもね」
そんなことを言いながら、私と亮太は部室を出ると、亮太は
「あれ?」
急に素っ頓狂な声を出した。
「どうしたの急に?」
「いや、さっき、奥の方で蝉郎さんがいたような」
亮太はすぐさま走り出した。慌てて私も走り出す(廊下は急いでるとき以外は走っては駄目なのよね?)。
遠くを見ると確かにあのボサボサ頭は蝉郎さんだ。それで、隣にいる人は誰なんだろう。
蝉郎さんと、もう一人の人は、ある部屋に入っていった。
「あそこは……」
私と亮太は、少しだけ息を切らしながら、二人が入っていった部屋を確認する。
その部屋のドアは教室のよりも立派で、何故か、開けてはいけない雰囲気を出していた。
そのドアにはこう書かれていた。
「校長室……」
文化祭編、九月中に終わるといいですね。




