飲み会
同僚の酒井が声を掛けてきたのは、退社時間が三十分程に迫ってきた頃だった。
「悪い三宅クン! メンバーが足りなくなった! また頼んでいいかなぁ?」
「別にいいけどよ、お前ホンット好きだよな。いつか体壊しても知らねえぞ」
「ははは、心配すんなって! 俺にとっちゃ酒はガソリンみてーなもんだからさ」
んじゃ、後でな。そう言うと酒井は軽快な足取りでデスクに戻り、猛烈なスピードで仕事をこなし始めた。そのエネルギッシュな性格は少々鬱陶しい面もあるが、三宅成治にとってどこか羨ましくもあるのだった。
多分に漏れず、今日も合コンだった。五対五で、相手は有名企業の社員。どこにそんなツテがあるのか三宅が尋ねても、酒井はいつも「ふっふっふ」と腕を組んで笑うだけだ。
「そういえばこの前、大丈夫だったのか?」
「へ? ああ、新見のこと? 何か骨折ったらしいけど、詳しくは知らん。酔っ払って足でも滑らせたんだろ」
「余所の会社の奴にまで声掛けてるもんな。そのバイタリティーをもっと仕事に活かせよ」
「へいへい。営業成績一位の三宅サマのお言葉、ありがたーく頂戴致しました」
男性陣はこの日も、三宅と酒井以外は別の会社の人間だった。
適当に名刺交換を済ませ、女性陣を待つ。どういう訳か酒井の選んだメンバーは、皆そこそこ顔が整い、話上手な者が揃っている。人数合わせに過ぎない三宅でも、気持ち良く酒を飲めることが多かった。
女性陣が揃って到着すると、さっそく幹事の酒井がメニューの注文を始める。
集まった全員の顔を眺め、今日はハズレかもな、と三宅は思った。もっとも、当たりが続き過ぎても困ったことになるのだが。
「よぉ~し、今日はもう一軒行っちゃおう野崎くんの奢りで!」
笑いが起こったその隅で、三宅はいそいそと帰り支度を始める。それを見ても、酒井は何も言わない。酔いが回っているのもあるし、そういう気遣いはできる奴だった。
解散するとすぐに、女性が三宅の肩を軽く叩いた。一緒に飲んでいた女性だ――名前は確か園田と言ったか。
「一緒に帰りません? 送りますよ」
園田はつまんだ車のキーをゆらゆらと振ってみせる。まさかの当たりだ。三宅は「悪いなぁ」と即答する。
「ちょっと三宅さんのこと、気になるし?」
この馬鹿女は一体何を言っているのだろう。もう三宅に躊躇する心はなくなっていた。
園田はふらつく足で、近くの駐車場に向かう。
飲酒運転していた車に巻き込まれ、三宅は家族を失くしていた。両親、そして妹、祖母。
こいつは殺してもいいよな? 問いかけるように三宅は暗い夜空を見上げた。




