第三話:男の夢、双子の霊峰。山の名は、乙と杯。
――異世界時間4/2 AM:07:12:37――
翌日、優伸が目を覚ますと脇腹のあたりに自分以外の感触を感じた。柔らかく、しっかりとした重みがあり、心地よい人肌のぬくもりを孕んでいる。
未だ、覚醒しきらぬ意識で、その感覚のある場所を見やると見覚えのない女が一人いた。体に触れているのは、その女の、最も女らしさを詰め込んだ部分である。時に優しく、時に暖かく、時に生命を育むそれは、男の飽くなき欲望をこれでもかと詰め込んだ双子の霊峰。その、深い谷のそこで、息もできず、命からがら逃げ出す男も少なくはない。
そんな厳しさを帯びてなおも、その双子の霊峰は男たちを強く惹きつける。それは、恵みと、巨大な母性と、その美しさが原因にほかならない。双子の霊峰から注がれる、柔らかな温もりはいついかなる時も男たちを癒し、我が子を支え続ける。
その霊峰は、女性の最も女性らしい場所。端的に言えば、胸部の二つの膨らみ、それを称しておっぱいと云う。
少しずつ、その双子の霊峰が放つ圧力が強まっていく。持ち主の女が、今にも完全に脱力し倒れ込もうとしているのだ。
「おっと。」
思わず、小さな声を上げながら、今にも倒れ込もうとする女を優伸は受け止めた。それは、倒れ込む勢いで起きてしまっては、可愛そうだと思ったからである。
優伸は、それを受け止めると、自分の寝ていたベットに優しく横たえ、自分が使っていた毛布を彼女にかけた。
静かな部屋の中、女性らしい静かな寝息だけが鳴り響く。巨大な双子の霊峰の持ち主は、腕で頭を支えさせてなおその長い青のまつ毛がベッドに届きそうに思える。まつげの色とお揃いの、襟の辺りでその多くが切り揃えられている。僅かに切り揃えられていない部分は、長く腰のあたりまでの三つ編みになっていて、少し不思議な髪型だ。
伸行は、時間を確認するためにも窓のすぐそばまで赴き、カーテンを開けた。東から差し込む朝の日差しが、優伸の瞳を起きろ、起きろと刺激する。あまりに、眩しくて少し目がくらんで、すぐに部屋の中に視線を戻す。
先ほど、寝かせた女の髪に太陽の光が当たり、まるで天使の輪のようにすら見えた。
「ん……んう……。」
女はほんの少しうめき声を上げると、瞳をこすりながら薄く開いた片目で辺りを見渡している。
「起こしてしまいましたか?」
優伸は、初対面の、それも自らより少し年上に見える女性に対し少し緊張していた。故に、礼節を重んじ、嫌な思いをさせまいと気を使っていた。
「う~ん……はっ! ……マサノブ様ですよね?」
彼女の声は、どこか優しげな透き通った声だった。それが、優しげな口調で紡ぐ言葉はまるで慈母神の慰めが如く心地いい。
「はい、僕が優伸ですよ。」
笑顔を絶やさぬよう、きっと看病してくれたであろう女性に不快感を与えないように注意しながら優伸は答えた。
「良かった、元気になられたのですね!? 私は、エレアノール・リデル。国王陛下より、あなたを手助けするよう仰せつかっています。不束者ですがよろしくお願いします。」
エレアノールと名乗った女は、それを真剣な表情でまっすぐと優伸の目を見ながら言った。
優伸は、あっけにとられ一瞬沈黙した。だが、その言葉を脳内でしっかりと噛み砕くと優伸の顔は徐々に赤みを帯びる。
「よ、嫁入りですか!?」
またしても、一瞬の沈黙が流れた。その間も、赤面しつついたたまれない表情を浮かべる優伸。
やがて、エレアノールも自分が何を言ったのか理解したかのようにその頬がリンゴのように染まっていく。
「ごごご、ごめんなさいっ! そんなつもりなかったんです。私ってば、いつもドジで……もう! もう!」
エレアノールは百面相した。不安げな表情や、恥ずかしがったような真っ赤な顔。顔を伏せたかと思えば、今度はそれを左右にブンブンと振って全力で違うと主張する。
「まぁ、そうですよね……。」
優伸は内心とても残念だった。目の前にいるエレアノールは、クリスティアナのような美少女ではない。だが、その肢体には程よく熟れた魅力があり、それは絶世のをつけても差し支えない美人なのである。どうせだったら、このまま嫁にもらってしまいたいと思ったのだ。
「嫌だってわけじゃないですよ! そうじゃなくて、初対面ですし。おかしいですよね……?」
エレアノールは自分が犯した失態を重く受け止め、半ば涙目になっていた。それもその筈、勇者とは神の使いであり、尊いものなのだ。だからこそ、無礼がないように昨夜必死で考えた自己紹介だったはずが、いらぬ言葉を付けたしまったのである。から回ってしまったのだ。
「そうですよね、初対面だから。改めて、苗木優伸です。よろしくお願いしますね、エレアノールさん。」
気にしていないと言わんばかりに、優伸はエレアノールに手を伸ばした。優伸にとって、それは明暗だった。露骨に態度を変化させることによって、エレアノールをからかったことにするのだ。そうすれば、彼女も気にしなくて済むだろうと思ったのだ。それは、優伸がこれまでに主に、平面上の世界で獲得した恋愛知識によるものである。
「からかわれてしまいましたか? フフッ、ありがとうございます。これからよろしくお願いしますね?」
エレアノールは、優伸の明暗に気づいたのだ。それは神の啓示に近い、なおも罪の意識を抱くべきではないと言う免罪の啓示である。ならばこそ、神の免罪に喜び微笑んだのだ。彼女は、敬虔な信徒であった。
その時、扉をノックする、小さく、そして硬質な音が静かな部屋の中に響き渡った。
おっぱいに力を入れすぎたことを反省しています。ですが、不思議と後悔はありません。