生い立ち
夏の日差しと暑さが容赦なく、部屋を照りつける。
半分寝ぼけながらゆっくりと起き上がった。
窓を開けると、部屋と変わらない暑さが襲ってきた。
「・・・・蝉がうるせぇな・・・」
今日は、仕事が休みだ。 何をするでもなく夜が来るのを待っていた。
ただ、腹が減ったら飯を食い、洗濯、買い物で日常が過ぎて行く。
俺は今年で21になる。施設を出て3年になる。
子供の時、住んでいたアパートの前を、暴走した車が突っ込んできた。
タバコを買いに出た親父が、アパートからすぐのタバコ屋から帰る途中で跳ね飛ばされた。
「父ちゃん!!」大声で叫んだ。
声を聞いた母親が俺を抱きかかえ、二人共車に轢かれた。
気が付くと白い天井が目に映った。全身に痛みが走る。
「母ちゃん」母親の返事は無かった。
「気が付いたのね、俊之君!! 良かったぁ」
「誰?」
「ここはね病院、俊之君は1ヶ月意識が無かったの 私はここの看護婦の岸本よ。」
「今、先生呼んでくるね」
暫くして、中年の医者が来た。「俊之君、痛みは有るかな?どこが痛い?」
「あちこち痛い」
「君はね交通事故に巻き込まれて、頭の中に血が溜まってそれを直すのと、あばらや両足の骨が折れる
大変な怪我を負ったんだ。 でもこうして助かった。本当に良かった。」
「母ちゃんは? 今何処」
「お母さんはね・・・違う病院に運ばれたんだ。今怪我を治そうと頑張ってるから、直ぐには逢えないんだ逢えなくて辛いだろうけど、君は怪我が早く良くなるように頑張るしかないんだよ。また来るから」
そう言い残すと、中年の医者は部屋を後にした。
「まだ、親は来ないのか!!自分の娘が死んで、孫まで大怪我をしてるってのに!!」
中年の医者が声を荒げた。
「それが、先生あんな親の言う事も聞かず、ろくでもない男と結婚した娘は家の娘じゃないの一点張りで
孫が直ったら施設でも何処でもやってくれって・・・請求書だけ送れって電話を切っちゃうんです。」
「まったく・・・やってられんぜ」
入院して半年が過ぎ、順調に怪我も快方へ向かっていた。医者やリハビリでのスタッフや、多くの看護婦が、まるで自分の子供の様に俺の面倒を見てくれていた。中でも入院当初から面倒をみてくれていた岸本さんは、母親と逢えない辛さを幾分紛らわしてくれた。
「岸本さん、母ちゃんいつ逢いに来てくれるの?」
「・・・・」
「どうしたの?何で泣いてるの?」
「ごめんね」
「そうだ、今日ね大垣さんと板橋さんていう方が俊之君に会いに来るんだよ」
「ふーん、会いたくないな」
「そんな事言わないの。いい人だよ」
「うん・・・分かったよ」
「じゃあ、3時だからね。お部屋で待っててね。」