金髪碧眼ツンデレ系少女エリザ と記号化 3
見失った!
冗談じゃないぞデート開始早々、地図もしらない癖に勝手に出歩きやがってエリザは帰ってこれるのか。そもそも携帯すら持たせてない。失敗した、俺の携帯をエリザに渡しておけば最悪おれは自分の家がわかるからどうにかなったものの。
というか、だいたい
「なんで全く追いつかないんだよ、くそ」
長年の引きこもり生活の恩恵をもろに受けた俺の運動スペックは貧弱そのものだ。長時間動かそうにも全く言うことを聞いてくれない、100メートルばかし走ったとことからもう息が荒れている。のどが痛くて身体がふわふわしてきて足が痛い。だいたい大事なことを忘れている気がするぞ、なんだったか。このくそ暑い中汗でシャツがへばりついて気持ち悪い、頭もゆでダコみたいになってきてて思考がまわらない。人がこんな風に苦労しているのに俺を外に叩きだした当の本人はエアコンきかせて麦茶の一杯でもよろしくやっているんだろう。
あれ……そういえばあいつ……。
『ちょっとちょっと誰が出したと思ってるの、そんじょそこらのちんちくりんが出したものとはわけが違うわよ』
ちがう、そこじゃない。
『ぎりぎり作家志望なんだから好きに設定しなさいよ。つくも神でも女神でも幽霊でも宇宙人でもアンドロイドでも夢オチでもタイムリーパーでも並行世界の自分でも何でもありでしょ?』
違うそこでもない、あいつもっと何か重大なことを言ってた気が……。
『いい、こいつはあなたが作ったキャラクターそのものよ?今から出しっぱなしにしておくから出来るだけ何かを吸収して作品に反映させなさい。』
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こいつはあなたが作ったキャラクターそのものよ
「それだ!」
しまった、エリザの設定を書きなぐってたとき初めて作るキャラクターだからって余計なことを書いた気がする。これは誰しも経験があることだ、つい張り切って何の役に立つかもわからない設定をとりあえず走り書きしておく。最終的に使わなかったけどなんか消しちゃうのももったいないとか消すの面倒だし後から使えるかもしれないからいいやなんて調子に放置してしまうのだ。汗でべたついた手で素早く携帯を操作し、目当てのサイトまで飛んでいく。もちろん小説投稿サイトの設定資料のメモ書きだ。
エリザ・・・金髪碧眼の典型的ツンデレ、料理は不得意。164cm Eカップ、身体能力は日本人平均男性の10倍。
身体能力は日本人平均男性の10倍、もう一度言おう。10倍である。
待て待て、日本人の高校生の100mの平均タイムがたぶん14~15秒くらいだから、本当は計算方法違うんだろうが単純に10倍速いと考えると秒速70m……。
「ゴルフボールかよ、追いつけるかぁ!!」
おれをボール大のサイズにしてグラブでひっぱたいてもらわないと追いつかない速度である。さすがにコンクリートやガードレール、電柱や通行人にぶつかるのは避けるだろうからもう少しスピードは緩めていると思うが。どおりで全く姿が見えないはずだ、こうなるともう他に手段はない。
意を決して俺は目の前のサラリーマン風の男に話しかける。暑い中かけずり回っている営業職の青年にみえた。
「すいません、この辺で金髪の外国人の女の子見かけませんでした?」
正直話しかけて若干後悔した。今みたいに、なんでもないただ道を尋ねるだけならできるんだよな。別に仲良くなるわけでもないし、一回こっきりの仲だ。申しわけなさそうに聞けば知ってることは意外と教えてくれる。日本人はわりかしお人よしが多いと思う。でも、いざ仲良くなろうと思うと踏み出せないのも日本人なんだよな。
いや、それはおれみたいなヒッキー野郎だけか。
「ああ、あのすごい勢いで走ってたこかな?それなら向こうの商店街とかあるほうにいったけど」
ナイーブになっていた気分を青年は明るく力強い口調で吹き飛ばしてくれた。この人に聞いたのは正解だったらしい。ありがとうございます、とお辞儀をしながら礼を言ってすぐさま追いかける。汗と一緒にこのもやもやした何かも出ていってくれないかなぁと無駄なことを考えながらおれはエリザを追いかけた。流れていくのは当たり前のように汗だけだった。