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奇病 ショートショート

作者: 松本

ぱっと頭に浮かんでぱっと書いたお話。所々でおかしい部分があったらごめんなさい。

ある田舎町で、不思議な病気が生まれました。病名はありません。なんせ、生まれたばかりの病気ですから。

どんな病気かというと、笑ったら死んでしまう病気です。自覚症状はありません。笑ってみるまで気づきません。ほんの少し、笑みをこぼしただけでも死んでしまいます。治療法は確立されていません。感染率も非常に高く、政府は非常事態宣言を出しました。

マスメディアの記事は規制され、暗いものが多くなりました。人々の顔からも、笑顔が消えて、涙が多くなりました。笑うと死んでしまうのだから、仕方ありません。

長い間、国から笑顔が消えました。明るさが消えました。人々は、笑いこそ悪だ、悲しみこそが絶対だと決めつけ、それに従っていました。そんな中、ある町で殺人事件が起きました。大きな教会が見える美しい街での、霧雨の降る、明け方のことでした。

2人の老夫婦の内の妻が、夫に殺されるという事件でした。2人は近所でも、とても仲の良さそう(といっても、二人の間に笑顔はないが)な夫婦だったともっぱら話題でした。では、どうして夫は、最愛の妻を殺してしまったのでしょうか。

随分昔のことです。例の奇病が流行る前、妻はまだ若く、感情表現が豊かで、とても明るい少女でした。笑うこと、笑わせることが大好きで、彼女はみんなの人気者でした。夫である彼も、その当時から明るい妻が大好きで、お互い幸せな時間を共に過ごしていました。そろそろ結婚式を挙げよう、と2人で決めていた矢先病気が流行し始め、人々から笑顔が消えていきました。彼女はもう二度と、笑い合うことが出来ないという事にひどく嘆き、悲しみました。けれども、いつか病気のワクチンが開発される、みんなの笑顔もすぐに戻ると信じて、暮らしてきました。希望を捨てずに、と頑張ってきたけれど、自分が病気を発症しているかもしれない、という恐怖心に耐えながら、いつ完成するかもわからないワクチンの供給を待ち続けるのはもう限界でした。長い長い年月が経ち、2人は歳をとりました。笑顔が大好きだった妻の泣き顔を見るのも、もう限界でした。そこで、彼は決心しました。一緒に死のうと。

どうせなら笑って死にたいと思い、大昔のエンターテイナーの映画を見ながら最後を迎えることにしました。怖くはありませんでした。やっと好きなだけ笑えると思うと、むしろ幸せな気持ちになれました。妻が映画の45分辺りの場面で笑い、先に旅立ちました。自分もすぐに、笑って逝こうとしたけれど、映画の終りを迎えても、夫は笑うことが出来ず、死ぬことができませんでした。妻だけが笑い、死んでしまったのです。どうして彼だけ笑うことが出来なかったのでしょうか。(笑わなかったのかもしれないけれど。)

その後の裁判で、夫はこう言いました。

「長いこと笑っていなかったから、表情筋が動かなかったのでしょう。もう感情も、表情も、私の中にはありません。直接手をかけていなかったとしても、妻を殺したのは私です。どんな罰でも受けます。それぐらいしか、私にはできない。」

そう言った後に、彼は自分に対する嘲笑なのか、はっと鼻で笑ったかと思うと、そのまま息を引き取りました。

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