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猫神様  作者: 瑠威
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多分恐らく見間違い。

猫神様



ある日目が覚めるとうちの猫の尻尾が増えてた。





何年前かの寒い夜。

専門学校からの帰り道に学食のお姉さんに温めてもらった肉まんを頬張りながら自転車を押して帰る。いつもと変わらない毎日。


近くにコンビニもないし、バス停はあるがバスが来ない。

もう一駅隣ならどれだけ良かったことか。病院にマッ○クにミ○スド、ココイ○チなんてのもあるしコンビニなんて何軒もある。

何も無い道。暗い道。電灯があるだけまだマシだ。

ただ、この先を右に小さな公園がある。

何の変哲もない、人の寄り付かなくなった小さな公園。

ただ一つ何かあるとしたら隣の建物が廃墟の屋敷だってことくらい。


電灯が有るだけの人通りの少ない暗い道、おまけに廃墟の屋敷なんてものが近くにあっちゃ夜なんて出歩く人は珍しい。


そんな事を考えながら歩いていると一匹の猫が視界の端で啼いた。


『…にゃ、』


てとてと、と弱々しく此方に寄ってくる薄汚れた猫。

猫語とまではいかないが、にゃあにゃあと声を掛けて自転車を置いてしゃがみ込む。

どうやらこの猫捨てられた猫らしく、身体が小さくて息も弱い。このまま朝が来れば生きている保証はない。

段ボールは遥か向こう、電灯を頼りにあるいてきたようだ。


『…うーん、…ウチ、来る?』


どうせ家に帰れば一人だ。

猫の一匹増えたところで何も変わらないだろう。

目の前の猫をひょい、と抱き上げると自転車の籠に居眠り用タオルを敷いてその上に優しく乗せた。


……ところで家、ペットオッケーだったっけか。




家に帰る途中でコンビニに寄って猫缶と自分の晩御飯を買った。

こいつが食べられるか分からないが一応。


猫についてはまた明日にでも調べて何か買えばいいし今日は食べるものと寝るところを用意して、それから身体を洗ってやればいいだろう。

…なんて事を考えているとすぐ家に着いた。


安いアパートの二階建て、ウチは一階の一番右端5号室。

昔は此処で色んなことをした。

専門時代の奴と一緒にアパートの一階全部を占領して住んだり、はたまた当時付き合ってた子と同棲したり。

思い返せば色々あって、最後に残ったのが俺だった。

もう少し綺麗な所に引っ越していったり、別れたり、色々あった。

…そう言えば猫アレルギーの奴が居たな。

そいつはウチの裏の猫の溜まり場になってる場所に気付いて引っ越して行ったんだっけ。

”猫なんて嫌いだ”なんて吐き捨てて。…ぶん殴ってやろうかと思った。


犬派か猫派かと聞かれれば断然猫派であり、動物に好かれやすい体質なのでこれまた家に動物をよく連れて帰った。

この猫もその中の一匹。

元気になれば外にはなしてやるが、戻ってくる子も多かった。

そんなことの繰り返して今の家は元・家族が入り浸る事も屡々。

煩わしくも無いし然程困ることも無いのでこの状態で良いと思う。昔思い描いた理想通りだ。


と、まぁこんな感じで新しく拾って来た小さな猫を自転車の籠から毛布ごと出せば家の中に入れてやる。


まずは身体を洗わないと。


温水を出せば優しく身体を洗ってやる。

手元の猫は大人しくしている。抵抗する気が無いのか、それだけ弱っているのか。

わしわしと優しく洗ってやればドライヤーを使って乾かしてやって。


毛が乾いてもふもふする頃には手の中の手の中の猫はだいぶ綺麗になっていた。見違えるくらい。


拾われた事に安心したのか、にゃあにゃあと啼く姿は弱々しいが先程よりか元気なようで安堵した。

ミルクもきちんと飲める子で、尚且つ綺麗な毛並みのこの猫は何故捨てられたのか。

それだけが引っ掛かった。

ミルクを飲み終えると、けぷっと満足そうな息を洩らして眠りに落ちる猫。

明日は病院に連れて行くべきか、なんて考えていたが目の前で心地良さそうに寝るこの子を見ると一日の疲れで自分自身も眠りに落ちた。


そんな出会いからもう数年、元気になるが中々出て行こうとしない。

此方からも強制野生送還と言うわけにもいかず、猫と同棲してもう何年になっただろうか。


そんな日のことだった。


その日も寒い日で、布団から出るのが嫌だったので顔だけだして猫を見た。



…うちの猫の尻尾が増えてた。


冒頭の通りだ。

目もこすったし頬も抓った。痛い。

電気も付けたしカーテンも開けた。眩しい。


何度も言うが、朝目が覚めるとうちの猫の尻尾が増えてた。

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