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Apprentice Witch  作者: Phony
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1 始まりの閃光

プロローグとほぼ同時投稿になります。

拙い文章ですが、良ければ読んでやってください。

 入学式当日、僕は重い足取りで急勾配な坂道を上っていた。辺りにヒラヒラと舞うピンクの花弁はまるで僕らの入学を祝っているようで、逆に不安を掻き立てられる。

 というのも、僕は本命の高校受験に失敗し、滑り止めとして受けていたこの高校に入学した。一緒の高校に行こうとしていた友人たちは皆合格してしまったのだ。

 人間関係を築き上げるのが苦手な僕にとってはとても大切な友人たちだった。それが全て消失し、また一から始まる。考えただけでかなり憂鬱な気持ちになってしまう。


「はぁ……」


 大きな溜息が出た。徐々に視界にその姿を現す校門は、まるで地獄への入り口のように感じられた。

 始まろうとしている新環境に僕の気持ちは更に沈んでいく。

 校門を抜けて、校舎を仰ぎ見る。廊下を歩く上級生たちが窓から見えた。ふと、その中の一人に目が止まる。彼女は長い黒髪を優雅に揺らしながら廊下を歩いていた。遠目から見ても、何となく綺麗な女性なのだとわかる。それは彼女を振り返る男子が多かったせいかもしれない。

 突然、彼女が足を止めた。顔を窓側に向け、校門の方を見る。僕はその動作に見蕩れていたのか、動けないでいた。しばらく見回すように小さく首を動かしていた彼女だったが、僕と視線を交わせた瞬間、しっかりと動きを止めて見つめ返してきた。慌てて視線を外し、正面の下駄箱を見る。突然見つめられたことに動揺を隠すことができなかった。不自然に前方を見つめたまま、僕は下駄箱へと歩いて行った。



 教室は見知らぬ顔ぶればかりだった。まぁそれは当然のことなのだが。

 黒板に書かれた自分の席へと行き、座る。辺りには新環境に心を躍らせた同級生たちがワイワイと騒いでいる。今なら僕と同じ境遇の人もいるだろう。勇気を出して、一言話しかけるだけでいい。それができれば僕の高校生活は安定するかもしれない。

 席を立って、手近なところにいる男子に近付く。それから息を吸い込み、声にしようとした瞬間、詰まった。餌を前にした金魚のように、僕は口をパクパクさせてしまう。肺から空気が出てこない。どう力を込めても、出てこないのだ。ぐっと口を閉じ、僕は早足で教室から出て行った。


 廊下に飛び出した僕は行くあてもなく彷徨う。と言っても廊下をウロウロしているだけなのだが。

 ここは校舎の一階で、一年生である僕らの教室がある。上級生の教室は二年生が二階、三年生が三階となっている。職員室は一階廊下の突き当たりに設置されていた。

 僕は職員室の近くにあるトイレの方へと歩いていく。その時、職員室の扉がガラリと開いた。気にすることなくトイレに入ろうとしていたのだが、出てきた人物に僕は驚いて固まってしまう。

 それは手に紙を持った彼女だった。つい先ほど見上げたあの上級生。長い黒髪を揺らしながら、職員室の方に向かって「失礼しました」と言い、こちらを振り向く。再び、僕と目が合った。彼女は「あっ」と言ったあと、ニッコリと笑う。僕は固まったままだ。愛想笑いさえできない。

 近くで見る彼女は、先ほどよりも美しく感じられた。整った顔に浮かべられた柔和な表情、スラリとした身体に、長く細い指先。こんなにも美人だったのか、と心底驚いた。


「あなた、新入生よね?」


 彼女のその一言に僕の身体がピクリと動き、やっと自由に動かせるようになる。


「あ、えと、はい……」


 視線を泳がせながら僕は答えた。「そっか」と言い、彼女はゆっくりとこちらに近付いて来る。僕はどうしていいのかわからず、とりあえずトイレの扉から離れた。


「初めまして。私は二年の天原麗歌あまはられいか。あなたは?」

「えっと、上浦薫かみうらかおるです……」

「上浦薫くん……。良い名前ね」


 そう言って天原先輩は笑った。この名前は僕の祖父が付けてくれたものだ。祖父が大好きだった僕は、少しばかり嬉しくなる。


「えっと、それで、何か用ですか……?」


 僕は何とか声を絞り出して、天原先輩に用件を尋ねる。先輩は慌てた様に「そうそう」と言って、手に持っていた紙を僕に渡した。


「良かったらうちの部活に入ってくれない?」


 受け取ったその紙には「超常現象研究部」と書かれていた。とてつもなく胡散臭い。先輩の方を見る。ニコニコと嬉しそうに笑っていた。僕は愛想笑いになりきれない苦笑いを浮かべることしかできなかった。

 人は見かけによらない。良い勉強になったと思った。


「放課後、遊びに来てね。私、待ってるから」


 そう言って先輩は僕から離れて行く。同時に新学期が始まる合図が学校内に響き渡った。



 放課後。僕は帰り仕度をしていた。クラスメイトに何度か話しかけられたが、上手に受け答えができず、結果的に友達になるまでは至らなかった。自分の不器用さに苛立つ。同時にこんな自分の性格を作り上げた祖父が恨めしくも思った。

 鞄を持って、教室を出る。下駄箱の方へ向かい、靴を履き替えようとした。そこで天原先輩のことを思い出す。あの笑顔を無視して帰るべきか。しかし、チラシに書かれていた教室に向かったところで上手に話せるとも思えない。

(帰ろう……)

 そうして僕は下駄箱の靴に手を伸ばした。


 目の前の扉には『超常現象研究部』と書かれている。僕の足は下駄箱から自然と指定された部屋の方へ向かってしまったらしい。先輩のあの言葉と笑顔を無視できなかったせいか、今更ながら自分を変えたいと思ったせいか、理由はわからない。それでも僕は今、この部室棟にある一室に来ている。

 コンコンコン、とノックをしてみた。しかし、中から返事はない。扉に手をかけてみると、どうやら鍵は掛かっていないことがわかった。「失礼しまーす……」と言いながらゆっくりと扉を開く。その時だった。突然青白い光が僕の視界を包み込む。


「わっ!」


 驚いた僕はその場に尻餅を付いてしまった。そして中からは「誰っ!?」という声と共に誰かが駆け寄ってくる音がする。

 扉がガラリと開かれ、チカチカしている僕の視界には天原先輩が映った。


「薫くん……」

「えっと、部活の見学を……」


 僕はここに来るまでの間に用意していた言葉を言った。それしか思いつかなかったのだ。


「今の、見た……わよね?」


 先輩は確認するかのように僕に問う。僕はどうしたらいいのかわからず、とりあえず首を縦に振りながら「見てません」と答えた。


 この日から僕と先輩の奇妙な高校生活は始まったのだった。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

良ければ感想やアドバイスなどをくれると嬉しいです。

不定期の連載となるので、更新速度はあまり速くないと思います。ご了承ください。

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