九
「そう思って、事情を聞いてきた刑事の話しによると被害者全員の写真を見ても、田中笙以外にはなんの反応を示さなかったと」
「かなり自信があるようですね。自分は犯人じゃないと」
「ですが、犯行時刻が深夜なので、アリバイはないです。証言を踏まえると黒に近いかと」
証拠が少ない今、藤崎悠大が犯人と確定するには少し、難しい。
「藤崎悠大は以前、柔道部にいたんですよね? 部活を辞める理由あったんですか?」
「麻井先輩、それって聞く必要ありますか?」
「わかんないだろ。本当に犯人なら部活辞めたのがきっかけで、誰か恨んでいるのもありえる」
麻井君の言うとおり、本当に犯人なら可能性のひとつとして考えられる。
「藤崎悠大の退部の理由は今年の三月の末に上級生に暴力事件を起していたということで、強制退部と一ヶ月の自宅謹慎を言い渡されたそうです。謹慎後の学校生活は態度が一気に悪くなったと。それまではどこにでもいる普通の生徒で部活に熱心で、学業も真面目に取り組んでいたとのことです」
「もしかして、その暴力事件の被害者の上級生というのは……」
「傷害事件で病院にいる北条咲琥です」
「日向さんと日比野さんもどこかで接点があるようですね。退部のきっかとなった暴力事件の原因はまだわからないですが、今回の事件の鍵はすべて、掲示板にあるはずです」
「掲示板でしたら調べ済みです。一つだけ、鍵のかかっているスレッドがあったので、多分それだと思います。パスワードはわからないので、内容は見られません。事態が一刻を争うので被害者の北条に話しを聞けたらいいと思っていましたが、無理ですね。私は警部に今の話しを伝えに行きます」
*
「警部! 先ほどのことすべて話しました。我々と考えは同じようです」
「そうか……。慧君」
「はい」
「慧君は今回の事件の原因はなににあると思う?」
「ひとつの可能性としては北条君を殴った理由が原因かと」
「ワシも同じことを考えた。しかし、その理由がなにか。それだけが不明」
一人の警官が大津警部に近づいた。
「警部、阿佐宮拓哉という少年が話したいことがあるそうです」
「拓哉、どうした?」
「おじさん、彼女、俺たちと同じクラスの大宮。三芳のことで思い出したことがあるって」
「あ、あの……私、さっき刑事さんに聞かれたときに思い出して話せばよかったんですけど、れいのことで、言い忘れていたことがあるんです。五月の終わりぐらいの放課後、れいに用事があって、音楽室に来た子がいました。その子と二人でどこかへ行ったみたいですが、しばらくして、れいの怒鳴り声が聞こえたんです。なにを話していたかまでははっきり覚えていないんですが、「あんたはなにもしていないんだし、なにも知らない。それでいいじゃない」と言っていたのだけは覚えています」
「その子の名前は知らない?」
「……確か、アキって言っていたと思う」
「日向さん?」
「多分、そうだと思うけど……。後、れいが一年の終わり、丁度、卒業式が終わった後だったと思うけど、「これで、私は不安になることはなにもない」ってよく言ってた。それがなんなのかわからないけど、れいが言い始めた日くらいからよく、合唱部に来ていた先輩がまったく来なくなったの。後からわかったことだけど、廃ビルで亡くなっていたって……」
「廃ビル……。事件当時、ここの在学生で、確か全身に打撲が多数見つかり、直接の死因は転落したさい、頭を地面に強打したと……。確か名前はー……」
「一つ上の藤崎友里先輩です」
私はこの名前を最近、どこかで見た気がする。どこだろうと見たものすべてを思い出した。
「藤崎って先輩、もしかして、文芸部にいた?」
「うん。二年の時から文芸部にいるって話しは聞いてる」
「お前、なんで、そんなことがわかるんだよ」
「最近、過去の文芸集にその人が書いた作品が載っていたから読んだだけ。大宮さんありがとう。少しずつだけど、事件が解明できるよ」
「うん。日向井さん、れいを殺した人、早く見つけてね」
大宮さんは音楽室に戻った。拓哉は事件のことが気になるようで、なかなか戻らないから、大津警部に言われて、部活に戻った。
「悪い、遅くなった。阿佐宮の奴、落ち込んでいたみたいだけど、なんかあったのか?」
「ちょっとね。大津警部、藤崎友里について、もう少し知りたいんですが……」
「あぁ、構わんよ。品川、すまないが、一年前の事件について、調べてきてくれないか? あれは未解決のはずだから」
「わかりました」
*
品川刑事が戻ってくるまでの間、ほかの刑事さんが、職員室にあると思う名簿のコピーを見ていた。私の思っていたとおり、家族構成の覧に藤崎悠大は藤崎友里の弟と書いてあった。
一時間後、戻ってきた品川刑事の話しによると遺体発見当時の状況はさっき、大津警部が言っていた通り、全身打撲で、死因は頭部強打。発見者は今回の事件の被害者の一人でもある日比野由羽。偶然近くを通りかかったら遺体を見つけたと調書に書いてあると……。実際のところはどうなんだろうと私は思った。
「慧先輩、なにかわかりましたか?」
「なんとなくではあるけど被害者六人が、転落事件についてなにか知っているとしたら、藤崎雄大本人は納得しているとは限らない。動機のひとつとしてあり得るね」
*
それから私たちは深夜、図書室の隣にある図書準備室に隠れて、犯人を待つことにした。準備室にいるのは私、大津警部、品川刑事となぜか私について来た、滝原、麻井君、比奈田さん。
そんなに大勢はいらないような気がするけど、もしもの時のためにと大津警部は言っている。
私たちが待ち伏せを始めて五時間ほど経過した深夜十一時。誰かが廊下を歩いている音が聞こえて来た。あらかじめ鍵は準備していたのか、すぐに鍵は開けられた。
その場から動くことができず、気づかれないように、中の様子を探っていた。大津警部の合図で、ゆっくり準備室から出て、図書室の前に行った。大津警部が扉を勢いよく開け、私は電気をつけた。図書室の中央に立っていたのは写真で見た藤崎雄大。
「やっぱり、ばれちゃったか」
「自分が今回の事件の犯人と認めるんだな」
「そうです。俺があいつら全員をやりました。北条先輩だけはあの女を止めようとしたみたいなんで、生かしておきました」
今にも殴りかかりそうな勢いの品川刑事を無言で制する大津警部。私は話しを切りだした。
「あの女と言うのは三芳さんのことだね」
「そうです。あの女が姉貴を殺した実行犯だから」
「マジかよ……」
「以前、三芳れい、田中笙、森瑛弘と言い争いをしているのを聞いたという証言があるが、それも事実だな」
「はい。はぐらかしたのはあの女一人ですけど、他の二人は動揺していました。北条先輩に全部話しを聞きましたから間違えないんです」
「北条君を殴ったのはその話しを聞いてついカッとなってしまったから……」
「ちゃんと止めてくれりゃよかったのにって今じゃ思うくらいです」
「だからって殺すことはないと思うけど? 新たな憎しみを生むだけだろうし」
「そうだとしても、俺は許せなかったんですよ! 姉貴を殺したあいつら六人を……」
「だからと言ってチェーンソーで人を殺すのはどうかと思うけど」
「姉貴を殺したんですからそれ相応の殺し方があっていいでしょ? それに俺は全員に復讐したんだから、もう、思い残すことはなにもない。俺が五人をどうやって殺したかわかってるんでしょ?」
ここまで来て、わからないとは言えない。事件のトリックはわかっているから問題ないけど。
「七不思議にしたのは友里先輩が生前最後に書いた作品と知っていたから」
全員に共通しているのは事前に呼び出しをしていること。
まず、最初に殺害された田中君の死体が置かれていた位置は本来なら人体模型が置いてある場所。あらかじめ、移動させた人体模型はチェーンソーでお腹を刺したときに飛び散った血痕が飛んでも返り血を浴びない位置に置いてあった。犯行後、壁に飛び散った血を拭いて、理科室の鍵を閉めて帰った。
「理科室の鍵はどうするんですか? どこにあるかわからないのに」




