八
「えぇ、被害者はビジネス科三年の北条咲琥。後頭部に数回、鈍器で殴られた跡がありました。発見当時は意識不明の重体。今はまだ、病院で治療を受けている最中とのことです。近くを通った生徒の一人が犯人らしき人物を見たかもしれないと言っていましたが、ほかの生徒が見たとき、すでに犯人は逃げた後で現在は捜索中です」
「衣類に乱れていましたか?」
「少し、揉みあったと思われる状態です。部活に行く前らしく、近くには制服のボタンが一つ落ちていたので、被害者の制服を確認したら、ボタンと千切られた箇所と一致しました」
「凶器はわかったんですか?」
「はい。鈍器と言っても被害者がもたれていた木の幹に血が付着していましたので、おそらく犯人ともみ合っている最中、頭を木に打ち付けられたのだと思います。周囲にはありませんでしたし、正面から犯人と話をしていたのなら木の幹が凶器で間違いないという結果です」
「それなら、犯人の特定は難しいのでは?」
「えぇ、難しいです」
「一度、私たちも現場を見ておきたいのですが」
現場近くに着くと見張りの警官は二人いるのに近くには生徒が誰一人いない。朝同様、いたとしても先生に怒られるだけだから部活へ行ったのだと私は思った。
私が、周囲を見ていると滝原に呼ばれた。品川刑事にお礼を言って、規制線をくぐった大津警部が一人、難しい顔をしていた。
「大津警部、日向井さんを連れてきました」
「あぁ、ごくろう」
「あの桜の木ですか?」
「そうだ。あの桜の木によりかかっていた。病院からは先ほど連絡があって、手術は成功。今は病室で眠っているということだ」
「それじゃ、起きるまで時間はかかりそうですね」
「そうなる。北条君が早く起きてくれれば、犯人が誰かわかるが……。もしかしたら脳に異常が起きていてもおかしくないということだ」
「だったら、時間との戦いです。少しでも早く事件を解決しなしと、犯人はまた北条君を狙う可能性があります。次の犠牲者はもう出ないと思いますし……」
「慧君はこの事件は今回の傷害事件が最後というのか?」
「ほかにあの掲示板に書き込んだ人間がいないというのであれば、最後の可能性は高いです」
「もう一度、あの掲示板の書き込みを見直す必要があるようだな。慧君は現場を見るんだろ? 今は鑑識もいないし、好きなだけじっくり見ていきなさい。犯人逮捕に繋がる証拠が見つかるかもしれないからね」
私と滝原は現場の桜の木へ向かった。品川刑事の言うとおり、木の幹には私より少し高い位置に血痕が付着している。よっぽど酷かったのか、血痕が少し垂れているような気がした。滝原に聞いてみると。
「僕もそう見えます」
「普通、数回ぶつけられた程度ではここまでなりません」
いきなり、後ろから声をかけられて、私たちは驚いた。後ろには品川刑事が立っていた。
「理科室を見ているのならわかると思いますが、血痕が液体で飛び散ったときはこのようになります。しかし、被害者の怪我はそこまで酷いものではありません。犯人によって意図的にこうされたのではと思います。あと、ここにわずかながらルミノール反応がありました」
そう言って品川刑事が示すのは私の膝くらいの高さ。なにかおかしいと思っていた私より先に滝原が口を開いた。
「下にあるってことは寄りかかるように座っていたからじゃないですか?」
「違います。座っているならもう少し高い場所、このくらいかと。発見当時、被害者は頭を幹に預けるような……横になっている状態です。犯人がそうしたのだろうと思いますが……」
「え、そうなんですか……?」
「木に頭を打ちつけられたのなら、体の力が抜けて、座った状態になるでしょう」
「日向井さんの言うとおりです。普通ならそうでしょう」
「結局、犯人は未だにわからないから、北条君が目を覚ましたら聞くしかないんですよね……」
*
私たちは部室に戻ってきた。
私は麻井君と比奈田さんにさっき見てきた話しをした。
「二ヶ所に血痕がついていたのか……」
「そう」
「お前ら出て行った後、比奈田と二人で話してたんだけど、これって顔見知りの犯行だよな? 知らなかったら、もう少し衣類は乱れているだろうから」
「うん……それは私もわかってた……。だけど、犯人含めて、相手は誰かわからなかったと思うよ。何度か会ったことがあるというのなら話は別だけど」
私は一人で、すべての事件現場の状況が記してあるメモを見直した。何回、読み直しても、おかしいところはない。携帯電話のデータフォルダに入っている現場の写真を一枚ずつ見直した。小さなところも見逃さずに注意しながら見ていた。何度見ても、おかしいところはない。
「……三井君が見つけた文芸集に載っていた作品に今回の事件現場と同じ場所が出てくる。順番も同じだということですね」
「そう。後、残っているのは図書室だけ。これはなんとしてでも阻止しないと……」
*
私は滝原だけ連れて、事件が起きた順に現場を調べなおしていた。すんなり現場へ入れたのは大津警部の配慮のおかげ。三時間くらいかけて、すべての現場を再度見直した。
何度見ても、不自然なところはない。怪しいところもなにもない完璧なくらい、なにひとつ証拠は現場で見つからない。わかっている 証拠は弦についていた血痕と掲示板の二つだけ。掲示板の方はアドレスを教えてもらって、どんな内容が書かれていたのか一度、見る必要がある。
「やっぱり、現場検証した後だから、なにも見つからない」
「そりゃ、そうですよ。何度見ても変わらないと思います。扉の鍵穴はこじ開けられたような形跡はまったくなかったんですし」
「バレるのは時間の問題。たいがいミステリーじゃ、最後に犯人が自殺のときもある」
「じゃ、犯人は自殺するかもしれないと?」
「確証はできないよ。あくまで可能性のひとつ」
「大津警部に確認をした方がいいんじゃないですか?」
「先に電話をして、現在地を聞いてからの方が……」
「日向井さん、滝原君、こちらにいましたか……」
「どうかしたんですか?」
「例の被害者六人がアクセスしていた掲示板なんですが、一時間ほど前に新しいスレッド立てられていました。先ほど確認をしたので、そのスレッドの内容を印刷しました」
品川刑事から渡された紙に書かれていた内容は『次ですべてが終わる』と……。この書き込みはおそらく犯人のもの。
私はさっき、滝原と話していたことを品川刑事に話した。
部室に戻ると麻井君が少し驚いた表情をしていた。
「先ほど、日向井さんに見せましたが、こちらは掲示板に書かれていたスレッドの内容です。おそらく犯人は今日、明日中に最後の犯行を行うだろうと我々は判断しています。大津警部はそのことで現在、手が離せません」
「そうですか……。品川刑事が先ほどおっしゃっていた新たにわかったことはなんですか?」
「柔道部の生徒の証言です。以前、同じ柔道部に所属していたという二年E組の藤崎悠大という生徒がおかしなことを言っていたそうです。彼らの話しによると、彼は「あいつらが悪い」とよくつぶやいていたそうです」
私たちの前に藤崎悠大の写真が出された。
「あいつらというのは被害者のことですか?」
「多分、そうだと思います。別の日の放課後、廊下で、藤崎が被害者の田中笙、三芳れい、森瑛弘と言い争いをしていたそうです。話しの内容は一部ですが、「お前らのせいで」、「いつか復讐してやる」と藤崎が言っているのを聞いたそうです」
「本人に話しは聞いたんですか?」
「えぇ、中学時代、田中笙と同じ塾に通っていたので、その時から知ってはいるが、仲のいい友達という間ではなかったそうです。入学してからはお互い会う機会がなかったので、話していないと言っていました」
「他の被害者五人のことは?」
「会ったこともなければ、名前も知らない。はじめて知ったと」
「おかしいですね。田中君はともかく、三芳さんと森君の二人とは以前、話しをしたことがあるなら、名前は知らなくても、会ったことはあるはずですよ?」




