七
丁度、鑑識さんは終わったのか、道具の入ったかばんを持って、次々と外へ出て行った。
「では行こうか。慧君」
「はい」
大津警部と一緒に現場を見ていた。バスケゴールは出ている状態になっている。閉じた状態だと、壁との隙間はそんなにないはずだと私は思った。
そんな小さい隙間へ犯人は一体どうやって、死体を隠したのか私には不思議だった。
「慧君、なにかわかったかな?」
「なんとなくです。犯人はこのバスケゴールへ被害者の首に結んでおいたロープをつけて、壁にもたれる様に隠した。私はそう考えられます。聞き忘れていましたが、死因は絞殺ですか?」
「いや、まだ報告の連絡が来ていない。死亡推定時刻は二日前の夜だったよ。昨日もここで、バスケ部とバレー部は練習していたようだが、誰も死体を見ていないと言っていた」
「だとしたら、あそこにある用具入れのどこかに隠したということも考えられます。授業でしか使わない用具もあるんですし……」
「だったら後で調べるように鑑識に言っておこう」
「ここには特に不審な点は見つかりませんね。これから滝原たちを呼んで話をしようかと思いますが、大津警部はどうします?」
「ワシはここに残らなければならんが、時間ができたらまたミス研の部室にお邪魔しよう」
「わかりました。それでは後ほど」
私は体育館を出てから、滝原の携帯電話に電話をかけた。
『もしもし……なんですか。慧先輩』
「今から学校に来てくれるかなー? もちろん麻井君、三ツ井君、比奈田さんも呼んでね。私は部室で待ってるから」
電話の向こうで、滝原の文句を無視して、電話を切った。今はきっと、文句を言いながら、三人に連絡をしているだろう。みんなが来るまで暇な間、『恐怖の谷』を読むことにした。
十分ほど経った頃、滝原からメールで三ツ井君は家の用事で来ることが出来ないとき来た。返信をして、読書を再開した。
滝原からメールが来て、三十分か四十分が経った。廊下から足音が聞こえた。部室に入ってきたのは大津警部。
「思ったより早く終わってね。司法解剖の結果も来ているよ」
「滝原と比奈田さんと麻井君がそろそろ来る頃だと思うんですけどね……」
結果を聞くなら、三人が来てからでも遅くないと思った。
「そうか……。一人足りないが?」
「三ツ井君は用事があるそうです」
大津警部が部室に来てから五分ほど経って、滝原と比奈田さんと麻井君が来た。
「また体育館で事件が起きたよ」
三人は予想通り驚いていた。私はさっき大津警部から聞いたことを話せるところまで話した。
「まさか、忘れた頃に起きるとは」
「そうだけど、犯人はすでに四人を殺している。警察が学校内を警備しているかもしれないときに次の事件を起して、自分が逃げる前に見つかったりしたらと思って、間を空けたんじゃないかと思うんだ。それに夜は人が少なくて目立たないと思うし」
「その仮説なら俺も納得ができる。でも、わからないんだろ? 亡くなった五人の共通点は?」
「今のところ四人はわかってる。週に一度、自宅へ帰った後、どこかへでかけている。そうでしたよね、大津警部」
「そうだ。それと、森瑛弘の死因は首に索条痕があったことから絞殺された。体内から睡眠薬が検出された。気を失った後に殺害されたと結果がでている」
「しばらく起きていなかったから、犯人はかなり用心をしていたのかもしれませんよ。私なら、そうします。いつ、誰に見つかるかわからないです。被害者を呼ぶなら、方法も気をつけます」
「もしものときのことを考えて連絡を取るなら俺はネットカフェだな。あそこなら、多少の証拠は隠せるから警察の目くらましにもなると思うし」
麻井君の言うとおり、たとえ、ネットカフェで多少の証拠を隠したとしても方法によっては簡単に見つかることもある。今の私には犯人と被害者五人の共通点がわからないし、犯人がこの学校の人間ということ以外、たいした情報は掴めていない。
私は悩んだ。無意識のうちに傾いたイスに気づかず、そのまま後ろへ倒れてしまった。
「日向井……推理に集中しすぎだ……」
比奈田さんと三ツ井君の手を借りて、私は起き上がった。考えているときの癖で、無意識のうちにイスを動かすのが悪かった。
「日向井の涙目って貴重だなぁ」
カメラの音が聞こえて、見ると麻井君は「おーよく撮れてる。阿佐宮にも送ろーっと」と言っている。私が全力で阻止しようとすると「悪い。もう送った」と笑顔で言われた。もちろん私は急いで拓哉の携帯電話に麻井君からのメールは見ないで消してとメールをした。多分、見るだろうけど……。一発、麻井君のすねを思いっきり蹴って、私は推理に集中した。
「大津警部、森君以外の四人って、最近もどこかへ出かけていたという話はありませんか?」
「第一の被害者・田中笙が亡くなる三日前が最後だ。それ以降は一度もないと聞いている」
「中学からの同級生がなにか知っているというのは?」
「今のところ、被害者と特に親しい友人数人からの話だと、ある掲示板にはまっているとのことだが、それがどこの掲示板かというのかそこまではわからない。掲示板は個人で簡単に作ることができる。数が多すぎて、絞りきれない。もう少し、情報がないとなぁ……」
「もしかしたら、森君と犯人もその掲示板が絡んでいるのかもしれないですね。その掲示板でなにかトラブルが起きていたとしたら、犯人にとってはそのトラブルの原因は重要なことと思って、殺人を起しているのかもしれません」
「ワシもそうだと思って、被害者五人の携帯電話からのアクセスを調べてもらっている」
「そのアクセス記録がわかれば、犯人は絞れる!」
「うん。いつだったかな。以前、IPアドレスについて少し、調べたことがあるよ」
「IPアドレスってインターネット上の住所のことですよね?」
「そう。本人の携帯電話からアクセスして、投稿をしているなら、持ち主がすぐにわかるはず」
「だからと言って、見つかる可能性は低いだろう。今ならネットカフェがあるからそこからでもアクセスできるやつはあるだろうし」
麻井君の言うとおり、全員が全員。自分の携帯電話からアクセスしているとは限らない。誰か一人くらい別のところからアクセスしていてもおかしくない。それが、犯人かもしれない。
また一人で考え事をしていると、部室の扉が豪快に開いた。
「おぉ、品川。どうした?」
部室に入ってきたのは朝、私を迎えに来た若い刑事さん。この人、品川って言うんだ。
「どうしたじゃありません」
品川刑事は大津警部の耳元でなにか話している。
「本当か!」
大津警部は品川刑事と一緒に廊下へ出て行った。五分ほどで戻ってきた。
「さっき、慧君が言っていたとおり、掲示板の書き込みから被害者が使用していた携帯電話のIPアドレスと一致するものがでてきた」
「本当ですか?」
「あぁ、掲示板に書き込んだ人間は七人。そのうち、五人は被害者。残り二人がネットカフェからの書き込みと判明した」
「え、二人?」
「二人です。どちらかが犯人という可能性は高いです」
話しを聞いて、殺人が続くようなら、保護すると私は思っていた。IPアドレスで犯人を特定しようにも、二人とも最初から予測していたかのようにネットカフェからの書き込みでわからない。結局、捜査は振り出しに戻るのかなと思っていたら、品川刑事の携帯電話が鳴った。
「はい……。わかりました。私も警部とすぐに向かいます」
「どうした」
「傷害事件です。校庭側の桜の木に頭から血を流した男子生徒が倒れているそうです」
同一犯の犯行? 大津警部はまた後で来ると言って、出て行った。
「なんだったんだよ。今の」
「後から教えてもらえると思うけど」
その後、私たち四人は大津警部から連絡が来るまで自由にしていた。お昼を過ぎた頃、品川刑事が入ってきた。
「大津警部に頼まれて、代わりに私が来ました」
「なにか、わかりましたか?」




