六
「い、今のって……本当なんですか?」
「私の仮説。まだ確証じゃないよ」
「これからどうするんですか?」
「みんなで図書室へ行って、捜す」
「なにを?」
「この学校の七不思議について」
私は滝原と麻井君だけでなく、三ツ井君と比奈田さんにも手伝ってもらい、七不思議について調べることにした。
「久しぶりにここへ来たけど、相変わらずの蔵書量だな」
「麻井先輩、あまり来ないんですか?」
「本屋で探すのが多いからな」
この学校の図書室の蔵書量は県内一で、半端ないくらい置いてある。三割はビジネス科、情報科、福祉科関連の本が中心。五割はどこの学校にでもありそうな小説や旅行関係の本、歴史などがある。一割は誰がこんなの読むんだ? と思われるマニアックな本。残りの一割はこの学校の歴史、卒業アルバム、部活の記録などがある。中には文芸部が文化祭の時にまとめて出した文芸集も去年の文化祭に出した分まである。
私は入学してからすぐ、ずっとここで、本を読んでいる時間が多く、図書室に置いてあるミステリーは全部読んだ。その中に何冊か学園ミステリーものの小説があり、七不思議が題材にされている小説はあった。
私たちは学校関連の本棚の前に立ち、一冊一冊出しては中をパラ読みしていた。探し始めてから約二時間が経過。三ツ井君が私を呼んだ。
「部長。これ、そうじゃないですか?」
三ツ井君が私に渡してきたのは一年前に発行された文芸部の文芸集。三ツ井君が示すところにはあとがきのページ。最後の行に書かれていたのは「この学校で以前から噂のある七不思議をテーマに書いた作品です」と。私はこのあとがきを書いた人の作品を読んでいた。
二十分ほどして、読み終わった。
「日向井、さっきからなに読んでいるんだ?」
「三ツ井君が見つけた文芸集。これに七不思議について書いてあったからね」
「で、感想は?」
「今回の殺人事件。今のところ現場がこれに出てきたのと全く同じ」
「マジかよ。犯人はなんらかの形で、この学校の七不思議を知って、殺人をしたってことか?」
「そうなる。とりあえず、私はこの作品のところだけ、コピーさせてもらって、大津警部にみてもらおうかと思うんだけど」
「無理だったらここに来てもらうしかないだろう」
「ちょっと行ってくる」
私は文芸集を片手に隣にある図書準備室へ入った。丁度、司書の先生がいたので、だめもとで頼んでみたら、あっさりコピーをしてくれた。
携帯電話を取り出し、大津警部に今、どこにいるか聞いた。どうやら今、外で、話を聞いているようだった。私は終わったら部室に来てもらうように言って、部室に戻った。
さっきコピーしてもらった小説を何度も読み直した。この小説に載っていたのは理科室の人体模型が移動する。夜、トイレの奥の個室の天井から水が落ちてくる。音楽室のピアノからエリーゼのためにが流れてくる。夜、どこかの階段の段数が増える。体育館からドリブルする音が聞こえる。校庭の桜の木が狂い咲く。夜、図書室の本が勝手に棚から落ちてくる。私は七不思議のところだけ、ペンで印をつけた。
「あの、部長。今回の殺人事件ってここに書いてある順番で起きていませんか?」
「多分、犯人はなんらかの形で、この七不思議を知った。そのときにここに書いてある順番で起こしたのかもしれない」
何度も読んでいたから少し疲れてしまった。思いっきり体を伸ばしていると、飲み物を買いに行かせていた滝原が大津警部と一緒に戻ってきた。
「おまたせ、慧君。それで、なにか見つかったのか?」
「これです。これは一年前の文芸部が出した文芸集に載っていた作品の一つです。この作品のあとがきに噂として流れていた七不思議を題材に書いた作品と書いてありました。さっき、比奈田さんとも話をしていたんですが、今回の事件、この七不思議と同じ順番で、起きています」
「そうなのか!?」
「はい。今のところ被害者である彼らの関係は見つかりましたか?」
「今のところはまだだ。通っていた中学は田中笙と三芳れいは同じだが、日向亜樹と日比野由羽は違うということしかわからん」
「そうですか……。塾や習い事をしていたというのは?」
「四人とも全く違うところへ習い事をしていたというのはわかっている。ただ、昨日、三人の自宅へ聞きに行った部下の報告によると、毎週一回、夕方から夜の時間帯、どこかへ出かけるというのは聞いている。最初の被害者、田中笙も同じだ」
「どこに行くかということについて家族は誰も知らないということですね」
「そうなる」
「もしかしたら、四人の共通点というのはそこに隠されているかもしれないですね」
「あぁ……。慧君、これを借りて行ってもいいかな?」
「いいですよ。私はもう、この作品の内容を覚えましたので」
「あまり遅くならないうちに帰りなさい。親さんも今回の事件で心配しているだろうからね」
*
それから三週間後、世間では夏休みに突入した七月下旬のある日、私は課題をやっていた。
「モデル化とシミュレーションってこんなに難しかったっけ……」
私は先に情報教科の課題からやっていた。私は息抜きがてらにほかの教科をやろうと積み上げられた課題を一つ一つ見ていた。
ベッドの上に置いてあった私の携帯電話のバイブレーターが振動しはじめた。急いで画面を見ると大津警部から。事件の進展でもあったのかな? 私はそう思って、電話に出た。
「はい、慧です」
『慧君。すまないが、今すぐ学校に来てくれないかな』
「なにかあったんですか?」
『昨夜また殺人が起きた。場所は来てから教える。今、部下を迎えに行かせたから』
私は急いで、支度をした。自室を出ると隣の自室から志乃が顔を出していた。
「志乃、私、学校に行ってくる。早めに戻るからって母さんに言って」
支度を済ませた私が玄関を出ると近くに停まっている車から一人の若い男性が降りてきて、私に近づいてきた。
「日向井慧さんですね。私は大津警部に頼まれてあなたを迎えにきました」
若い男性——刑事さんの車の助手席に私が座ったのを確認すると刑事さんは車を動かした。車内は会話がなく無言。普段より長く感じたけど、すぐに学校に着いた。
校門の近くにいた大津警部のところへ行った。
「現場は体育館だ。また、首吊りの死体が見つかった。被害者は普通科一年A組の森瑛弘。発見者は体育館で、準備をしていた体育教師だ」
「警備の配置はしていなかったんですか?」
「いや、していた。七不思議は事件と関係ない。もう事件は起こらないだろうと上の判断で、配置の人数を減らした」
「とにかく現場へ行きましょう」
私は体育館へ向かった。体育館の扉はブルーシートで覆われて、規制線が張ってある。そこは生徒の野次馬でごった返していた。近くでは二人の先生が「早く部活へ行け!!」と言っている。ほとんどの生徒は彼らが生徒指導でうるさい先生だとわかると、蜘蛛の子を散らすかのように逃げていった。私は校舎の影から見ていたので、気づかれることなく体育館入った。
体育館は普段、多くの生徒がいるのと違い、広く感じた。ステージ側には鑑識さんがいた。私は大津警部と一緒に体育館の後ろからその様子を見ていた。
「大津警部、首吊りと言っていましたが、どこに吊るされていたんですか?」
「今、鑑識がいるバスケゴールの下に首吊り状態で発見された。発見当時、揺れていたそうだ」
「揺れていた?」
「あぁ、揺れていたそうだ。発見した教師の話によると、最初、体育館に入ったときは死体がなかった。そのときすでに、バスケゴールに死体は置かれていたんだろう。ゴールを出した後、体育館の中を見たら、死体があった」
「大津警部、私、ずっと気になっていることがあるんです。理科室、音楽室、この体育館の鍵って盗まれた、紛失したという話はありましたか?」
「いや、そういう話はなかった」
「そうですか。どの教室も窓を割られた形跡はなかったです。もしかしたら、事前にこっそり鍵の型を複製して作ったと考えられたので……」
「そういう場合は鍵屋などの鍵作りをしている人に頼まなければならない。個人が勝手に複製をするというのは鍵の種類によっては難しいものもあるからね」




