五
「大津警部、なんでここに……」
「さっき部下から連絡があった。日比野由羽の体内から睡眠薬が検出された」
大津警部はさっき、三芳さん以外、衣類を含めて、乱れたところはないと言っていたのを思い出した。日比野さんが後ろから犯人にロープで首を絞められて殺害されたとしたら、彼女の首にも吉川線があってもおかしくないと今、気づいた。睡眠薬なら、時間が経てば眠ってしまう。それなら、抵抗されることなく、彼女を殺害できる。今、思ったことを大津警部に伝えた。
「その通りだ。現状では犯人が誰か絞れていない。殺害動機も見えてこない。このままでは捜査が行き詰るのは目に見えている」
「私も今のところはなんとも言えないです。次、新たに殺人が起きるかどうかもですし……」
「ワシとしてはこのまま、なにも起こらなければいいだけだ」
「それは私も同じです。殺人事件なんて小説の中だけで十分です」
リビングにいた母さんに事情を説明して、自室に戻った。私は着替えずに、ベッドに寝転がり、今日、起きた事件を整理することにした。
日向さんの体に抵抗の痕はあっても、目立つ外傷はない。三芳さんの首には索条痕と吉川線があった。日比野さんの首には索条痕はあったけど、吉川線はなかった。その代わり、体内から睡眠薬が検出された。
次々と殺人が起きたせいか、考えれば考えるほど、なにがなんだかわからなくなる。
ノートパソコンを立ち上げた。学校の周囲にマスコミらしき車、人は見当たらなかったけど、いつも見ているインターネットサイトのトップページのニュース覧に載っていた。
学校側と警察側、どちらのコメントはそんなに長く載っていないし詳しく書かれていない。これからしばらくの間どちらも大変だなと私は思った。部活のために学校は毎日、開いている。もちろん校門には警備ということで、常に三人の警官がいる。
だから、外部の特にマスコミは校門で警官に門前払いされることになっている。
夕方、私は急いで、滝原に部活はやるけど、来るのは自由。滝原は強制とメールを送った。
読み終わった『緋色の研究』を本棚に片付け、『四つの署名』を片手に私はベッドに寝転がった。気づけば時刻は十九時を過ぎていた。母さんに怒られたことを気にしないで夕食を食べた。
食後、自室へ戻った。私の携帯電話の受信ランプが点滅していた。メールの相手は大津警部。内容はあの後、四つの事件に進展はなし。
その代わり、校舎内を調べていたら、気になるところが見つかったと書いてある。私は大津警部に明日、学校へ行くので、ミス研の部室に来てくださいと返信した。
大津警部にメールの返信をした後、私はメモをすべて見ていた。見たところ特に不審なところはみつからない。私は完全に悩んでしまった。今、わかっているのは現場の見回りはしていた。死体を別の場所から現場に置くのなら、鍵が開けられてから部活の朝練が始まるまでの間。一体どこからどうやって、運んだのか。いくら女子生徒と言っても、運ぶのは簡単じゃないはず。見つかれば、自分が犯人だとばれてしまう。犯人はなぜ、リスクを犯してまで、犯行を重ねるのか。私にはわからない。被害者の田中君、日向さん、三芳さん、日比野さんと犯人になにか共通点があるのか。今は検討がつかない。
*
「お姉ちゃん。起きて、朝だよ」
朝か……。私はあの後、いつの間にか寝ちゃったんだと今、気づいた。
「今日って、学校、行くの?」
「うん……行く。」
私はそのまま、洗面所へ行き、顔を洗って、リビングに行き、朝食を食べてからまた簡単に顔を洗った。今日は思っていた以上に眠気が感じられた。
自室でのんびり眠気を覚ましながら、私は制服に着替えて、学校へ向かった。
学校に着くと、警官が三人、門の前に立っていた。
部室へ行くと、すでにいるらしく、声が聞こえた。
「はよー」
「おはようございます。今日は僕たちだけで、ほかは来ないだそうです」
部室にいたのは麻井君、滝原、比奈田さん、三ツ井君の四人。
「慧先輩。今日はなにをするんですか?」
「大津警部から昨日メールがあったから今日も来てもらうことになってる」
「……そうですか」
「部長、さすがにミス研らしく、ミステリーの研究のほうが俺はいいと思うんですが……」
「それは三ツ井君と比奈田さんに任せる。私たちは大津警部と一緒に新たな現場検証!」
「それって僕も含まれているんですか!」
「当たり前でしょ。滝原がいなかったらどうなるの?」
「僕がいなくてもいいような気がしますが……」
「困るよ。滝原は副部長という名の私のパシリなんだから」
「……わかりました」
私の後ろで扉が開く音が聞こえた。入ってきたのは大津警部。
「慧君、すまないね。毎日」
「いえ、そんなことありませんよ。わざわざ、部室まで来てもらっているんですから。早速、案内をお願いします」
いつもと変わらず、私たち三人は大津警部が昨日、メールで言っていた気になるところへ案内された。場所は三階の男子トイレ。
「ここ、現場の階段の隣ですね。理科室もすぐそこですし。なにがあったんですか?」
「昨日、部下から連絡があって、一番奥の用具入れを見てほしい」
言われたとおり、私は用具入れの扉を開けて、中を見た。中にはあまり物が入っていない。壁がところどころ汚れている。
「事件前日――一昨日の夕方。ここの掃除を担当している教師によると、そのときはまだ壁は汚れていなかったそうだ。物ももう少し入っていた。ここにスリッパの後があるだろう。それを昨日発見された三人のスリッパと照合したら、日比野由羽が履いているスリッパと一致した。これはワシの推測なんだが、犯人はここへ睡眠薬で眠らせた彼女をなんらかの形で閉じ込めたのかもしれない。ある程度の時間が経って、彼女の首をロープで絞殺し、一晩放置して、朝、あそこへ吊り下げたとワシは思う」
「その可能性は捨てきれないとです。この学校のトイレにある用具入れは勝手に開いてしまうタイプなので、扉に鍵をつけています。中に閉じ込められたとしたら、中からは出られません」
「そうか……」
「でも本当に犯人がやったことなら日比野さんが階段で首吊り死体として発見されるまでの間、運が良ければ、誰にも見つかることなく、運ぶことが可能になります」
「それはワシも思った。次、起きるかもしれない。しばらくは警官を何人か見回りのために配置することになっている」
私たちは部室へ戻った。
「なんか可哀想ですね。あんなところに入れられるなんて……」
「確かにそうだな」
「隠せそうな場所はいくらでもあったはず。それなのになぜ、トイレに入れたのはわからない」
私は消化不良な状態で、部室に入った。残っていた三ツ井君と比奈田さんは課題をやっていた。そういえば、私も早いうちに課題を終わらせないとなぁと思った。
だけど、今は事件のことが気になってそれどころじゃない。いつ、事件が解決するかわからないけど、大津警部も早期解決を望んでいる。
「ねぇ、滝原」
私はふと、今、思ったことを滝原に話した。
「え? 七不思議……ですか?」
「うん。今、思ったことだけどね。過去に読んだ本を思い出してみたんだ。学園ミステリーは七不思議を題材とした作品が多数あるからね」
「慧先輩は幅を広げて、読んでいますからね。それで、七不思議がどうかしたんですか?」
「気づかないの? この学校にも七不思議があっても不思議じゃない。OBである大津警部に聞いてみようかと思ってね。本当はさっき気づいて、聞けばよかったんだけど……」
私はスカートのポケットに入れていた携帯電話を取り出し、大津警部の携帯電話に電話をした。数回のコール音の後、大津警部の声が聞こえた。
『どうした?』
「実はさっきひとつ思い出したことがあるんです。大津警部がこの学校に通っていたとき、七不思議の話をきいたことはありませんか?」
『七不思議……』
大津警部が思い出そうと考えている。
『あぁ、ワシはあまり覚えておらんが、昔からよくある七不思議の話だったよ。それがどうかしたのか?』
「私が思った仮説のひとつなんですが、犯人はもしかしたら、七不思議に似せて殺人を犯したのではと考えられます」
『そうか……。多分、図書室に行けば、なにかあるかもしれん』
「そうですか。ありがとうございます」
携帯電話を片付けた私は四人のほうを向き直った。




