四
「どういう状態だったんですか?」
「頭を便器の中に入れた状態で発見された。後ろから顔を押し付けられたようだ……」
「死体の状況はどうだったんですか?」
「抵抗した痕が何ヶ所も見つかった。特に目立った外傷はない」
私は黙って現場を見ていた。
「ここの扉は開いていたんですか?」
「開いていた。朝練前にここへ来た二人の女子生徒が発見した」
犯行時刻は特定できたとしても昨日の夜から部活の朝練が始まる前。もう少し、絞る必要がある。私はそう判断した。
「死体の硬直具合から見て、殺害されたのは昨夜二十二時頃から深夜零時の間だそうだ」
「二時間とは意外にも狭いですね。私は死体を見ていないのでわかりませんが、犯行時刻はてっきり、朝練前の六時頃だと思っていました」
「ワシも最初はそう思ったが、さっき、司法解剖の連絡があって、間違いはないだろう」
私たちはそのまま、音楽室へ向かった。
「三芳さんはどこにいたんですか?」
「そこにあるピアノのイスに座って、ピアノにもたれかかった状態で、彼女と同じ、合唱部の生徒が発見した。首には索条痕があり、凶器は首に巻きついていた糸を調べたら一致した。糸を調べたら、弦楽器に使われる合成繊維の弦とわかった。ここの管理をしている教師に聞いたところ、吹奏楽部が使っているコントラバスという弦楽器に使っているそうだ」
「あーあれか。前に一度、吹奏楽部の先生に見せてもらったことがあります」
「慧先輩って楽器に詳しいんですか?」
「違うよ。ホームズがバイオリンに長けていたから調べていた時期があるの。そのときにコントラバス、チェロ、ビオラって調べたことあるだけ。今じゃ記憶に残っている程度しか覚えてないけどね」
「さすが、シャーロッキアンだな」
「シャーロッキアンといっても自称だけどね」
大津警部が見せてくれたのは袋に入った凶器の弦。うっすら染みがついている。
「この染みはルミノール反応があった。被害者のもでない。犯人のものと思われる」
「ということは、首を絞めるとき、手を怪我したか、怪我をしていることを忘れて付いた。二つのうちどちらかですね」
「多分そうだ。計画性のある犯罪なのか、無計画の犯罪なのかわからん。もしかしたら犯人が証拠を隠滅し忘れたのかもしれない。どれが事実なのかはワシにはわからん」
「これで、だいぶ絞れましたよ。この凶器についている血液の人間」
「でも、まだ、内部か外部かわからないじゃないですか」
「内部でしょ。外部からだったら遅い時間に校内にいたら怪しまれる。それに教室に鍵がかかっていたなら、鍵を作らなきゃいけない。それができるのは内部だけ。理科室で田中君を見つけた事務の先生が鍵を開けて中に入ったんだからそうですよね?」
「慧君の言うとおり、聞いたところ、鍵は盗まれていないと言われた。最初に両方の線で捜査をしたが、怪しい人物の目撃情報はなかった。時間が時間ということもあり、誰も気づいた人がいないということも考えられる」
「たとえそうだとしても内部が強いです」
「なんでそう思うんですか?」
「死体の状態。私たちは死体を見ていないから断言できないけど、大津警部の話を聞いて考えると、死体には争いの跡がない。そうすると犯人はこの学校の教師か生徒。誰かに頼んで、話しがあるからと呼び出せば、人にもよるだろうけど、疑いなく来る人もいると思う。まぁ、これが事実かどうかそれは後々わかるけど」
「死体に争いの跡がなかったというのは本当ですか?」
「あぁ、そうだ。衣類に特に乱れたところはなく、小さな怪我はなかった。田中君には治りかけの傷は何カ所か見つかったが、部活で作ったものということが判明した」
「凄いです。慧先輩」
本当の事件に遭遇はしたことないけど、監修されたミステリーを読んでいれば、多少はわかる。滝原は感動しているようだけど私は無視をして、話しを続けた。
「ほかの死体も乱れたところはないんですよね?」
「この後行く、階段で発見された日比野由羽の死体も含めて特に乱れたところはなかった。それ以外だと、三芳れいの首に索条痕と吉川線があった」
「吉川線?」
「吉川線というのは首を絞められたときに被害者が首から犯人の手、凶器を外そうとしたときに爪を立てて首に引っかき傷ができるもの。大正時代、警察庁で鑑識課長をやっていた吉川澄一が発見したことが由来」
「慧君の言うとおり、なぜ、知っているんだ?」
「以前読んだ本に何度かでてきたので、調べたことがあるんです」
「日向井って周囲が呆れるミステリーオタクだな」
麻井君を睨んだ。隣にいた滝原が怯えていたけど、無視した。大津警部に言われて、理科室付近の階段へ向かった。
現場は周囲から見えないようにブルーシートが張られている。ここは校舎の二階で、側には理科室がある。ここから一階へは行けるけど、三階へ行くなら遠回りしなければならない。私は大津警部に呼ばれて、ブルーシートの中へ入った。
「あそこにロープがあるということはあそこから吊るされていたんですね」
「そうだ。日比野由羽の死亡推定時刻は昨夜二十二時から零時の間。学校が施錠された後、交代で、警官に見回りと警備をするように指示はしていた」
「ところで、死後硬直はどうなんですか?」
「それは今、報告待ちだ」
「ここなら、夕べのうちに見回りの警官に見つかってしまいますね。今日の朝、校舎の鍵が開いて、生徒が登校するまでの間も見回りはしていたんですか?」
「あぁ、見回り担当の教師と一緒に」
「そうですか……。近くのトイレは見回りが入らなければ気づかれないですし、音楽室は扉の窓から中は見えるから場所によってはすぐに気づかれます。ここは通ればすぐに気づかれます」
「可能性としては朝練までの登校時間ですね」
「うん……。三人の死体を隠すのは大変だし、運ぶのも大変。運動部で、体力、腕力に自身があるというのなら別だろうけど」
「俺の考えは夕べのうちに殺して、どこか気づかれにくいところに隠す。朝、鍵が開いてから運ぶ。俺が前に読んだ本で、死後硬直はある程度の時間が経過しないとならないんだろ?」
「一般的に二時間くらいで硬直はすでに始まる。そのときの状況によるだろうけどね」
「慧君は本当によく知っているなぁ」
「気になったので全部、調べました」
「なぁ、滝原。オタクの上ってなんだと思う?」
「……また慧先輩に睨まれても知りません」
麻井君は小声で、滝原に話しているようだけど、話しの内容は聞こえている。
麻井君のことはほっといて、再度、現場を調べ始めた。調べ始めてから十五分ほど経った。
「特に気になるところはないな……」
「あったとしても死体を吊るしていたロープ付近ですか?」
「うん。でも、どうやって死体を吊るしたのか不思議だよ。一歩間違えたら、見つかるのに」
「そうですよね。僕もさっきからそのことばかり考えていました」
「どこか近くの教室に隠しておくならできそうだけど……。夜は夜で警察の見回りがあるし、でも、よく調べたね。見回りの時間と被らないように殺人をするって」
「関心はしますけど、複雑ですね。相手が殺人犯なんですから」
「こうなってしまった以上、次は殺人が起こるかどうかまでは予測できないけど、警備を強化するしか方法は今のところはないと思う。私が気になるのは四つの現場になにか意味はあると思う。それがなんなのかさっきからわかんないんだよね。滝原、麻井君。なにか思いつかない?」
「……僕はなにも」
「俺も」
私は大津警部にお礼を言って部室へ戻った。
「部長、もう終わりましたか?」
「一通りね。志乃は?」
「さっきから寝てます。泣き疲れたんだと思います」
「ありがとうね。比奈田さん」
「いえ、そんな。私は何もしていないです」
少し照れた表情をする比奈田さん。私は志乃を起こして、帰る準備をした。志乃のかばんを持って、滝原たちと帰ろうとすると、門の近くに大津警部が立っていた。




