三
今は志乃と登校中。今日は全校集会があるから登校日。私はまだ眠たい。夕べ、まだ読み終わっていないホームズの『緋色の研究』を読みふけっていた。気づいたら深夜一時半。寝たのはいいけど、やっぱり、目覚まし時計のアラームで私は起きることができず、また志乃に起こしてもらっていた。学校に着いたら時間の許される限り寝ると決めた。
校門から学校に入ると先週と同じ場所にまだパトカーが止まっていた。ただ違うのは救急車が三台サイレンを鳴らして学校から出て行くところ。部活の練習中に誰かが怪我をして病院で治療を受けることになったということなら私は安心だけど……。救急車の台数が多いし、少し胸騒ぎがする。
「お姉ちゃん」
「なに?」
「お姉ちゃんの携帯電話、鳴ってない?」
志乃に言われて気づき、画面を見ると着信がある。相手は滝原からだった。
「どうしたの? 滝原」
『さっき大津警部に会ったんですけど』
「何かあったの?」
滝原は少し躊躇いがちに小さめの声で答えた。
『詳しいことは僕もわかりません。また、誰か殺害されたそうです』
「で、滝原は今どこにいるの?」
『僕は今、理科室の近くにいます。人が多くて状況はわからないんですが、三階へ向かう階段の手すりから二階側に首吊りがあるというのは聞こえてきました』
「今からそっち行く!」
『え!? ちょっと慧せんっ……』
「志乃、後でちゃんとメールするから先に教室に行って!」
私は志乃が文句を言っているのも聞かずに、滝原がいる理科室近くの階段へ向かった。
「おい、慧」
「おはよう、拓哉。ごめん、私のカバン、置いといて」
途中、会った拓哉に無理矢理かばんを押しつけた。拓哉がなにか言っていたけど、今は気にしていられない。とにかく私は急いでいた。
理科室近くの階段は生徒でごった返していた。警察官に混じって、数名の男性教師が、生徒に教室へ行くように促していた。こんなに生徒がいると滝原を捜すのに苦労する。
「日向井、こっちだ」
後ろから声をかけられ、振り返ると麻井君と滝原がいた。
「認めたくないけど、これは最悪だな」
「滝原、あの後、なにかわかった?」
「こっちに来てください」
滝原の後をついていくとあまり人がいない場所に移動した。
「慧先輩に電話した後、大津警部に少し話しを聞きました。現場は外の女子トイレ、音楽室、さっき僕たちがいた階段です」
「同時に三ヶ所で……。それで、被害者は誰かとか聞いてないの?」
「そこまではまだ教えてもらっていない」
「大津警部から放課後聞くしかないか……」
私は諦めて教室へ戻った。廊下を歩いていたら教師に注意されるし、拓哉に怒られる。
教室に入ると拓哉はむすっとしていた。
「どこ行ってたんだ?」
「滝原から電話あったから行っただけ」
教室の扉が開く音が聞こえた。入ってきたのは浅比先生。先週と違って、表情は悲しそうな感じがした。さすがにそれは拓哉も気づいたようで私のほうを見ていた。私は気づかないふりをして、浅比先生の話を聞いていた。
「今日は全校集会だから終わったらすぐ体育館に遅れないで、行くように。後、部活の連絡は各顧問から話を聞くように。以上」
ほとんどのクラスメイトは友達と話をしながら、体育館へ向かっていた。
それからしばらくして、全校集会は行われた。教壇に校長が立った。話は先週、田中君が殺害されたことから。田中君がいた二年D組、ホッケー部の生徒からすすり泣く声が聞こえる。
「多分みなさんも知っていると思いますが、今朝、また三人の生徒が亡くなりました」
生徒がまたざわめく。マイクを持った教師が静かに! と二、三度言った。生徒が静かになった頃、校長が話を続けた。
「亡くなったのは一年F組の日向亜樹さん、三年E組の三芳れいさん、二年A組の日比野由羽さん。先週、理科室へ近づかないようにと担任の先生から聞いていると思いますが、音楽室、外のトイレ、理科室近くの三階へ行く階段。この三ヶ所にも近づかないでください。今、警察の方々が捜査をしているので、邪魔になるようなことはしないでください」
最後にと校長が今年は全部活の大会辞退を告げると文句が聞こえた。マイクを持った浅比先生が生徒に事情を話してなんとか治まった。教師が教室に戻ったら担任の指示に従うようにとだけ言って全校集会は終わった。教室へ戻る途中、複数の生徒が泣いているのに気づいた。中には私たちのクラスメイトもいた。
「あいつら、確か、三芳と仲いいやつだったよな?」
「そうだよ」
三芳れい。私たちと同じクラスの生徒。情報科はこの学校に全学年あわせて三クラス。
一体、なんの理由があって、殺されたのか私は知らない。だからと言って、人を殺すのは酷い。悲しむ三芳さんの友達三人はとてもつらそうだった。
授業は夏休みが終わる頃までない。部活はあるらしいけど、大会出場はなくなってしまった。
しばらくの間、授業がないのは殺人事件が起きてしまった学校の教師にとっても生徒にとってもいいのか悪いのか私にはわからない。
ただ、今、私がやるのは大津警部に頼まれるだろう事件解決と思った。今日もまた大津警部の同伴で、捜査しないと……。
ホームルーム後、かばんを持って、部室へ行った。部室に入ると志乃がいた。志乃がいきなり抱きついてきて、泣きはじめた。私は志乃の頭を優しく撫でた。
「慧先輩、志乃ちゃんと帰ったほうがいいと思います」
滝原は志乃を気遣うように声をかけてきた。
志乃と同じクラスの日向亜樹。志乃と特に仲のいい友達で、同じ調理部にいると私は何度か志乃から話を聞いていて知っている。二ヶ月前の四月の半ば、何度かうちに遊びに来ていたから私は知っている。
「そうしたいけど、一度話しを聞いてしまった以上、なんとかしたいんだ。志乃、母さんに迎えに来てもらう? 先に帰って休んでいてもいいんだよ?」
「帰らない」
小さい声で言った。そうとうショックを受けているようで、無理をしている。
「お、遅くなりました!」
「大丈夫だよ。またなにか頼まれたの?」
「はい……。田中君の事件について、部長がなにか知っているのではと言われて……」
「知ってる。これから話すよ」
志乃を近くのイスに座らせて話しはじめた。
「全校集会で知っているけど、田中君は昨日、何者かに殺された。詳しいことは言いたくないけど、かなり酷かったよ。ねぇ、滝原」
「はい。僕は気分が悪くなるぐらいでした」
「今日、亡くなった三人については大津警部から教えてもらえる話になっている」
タイミングよく、大津警部が入ってきた。
「やぁ、慧君。志乃君、大丈夫か?」
「大丈夫です」
「ならいいが、あまり無理しないように」
「大津警部」
「そうだったな。志乃君がいるからあまり詳しいことは言えないが、今朝亡くなってしまった三人は発見の報告があった順に外にある女子トイレで日向亜樹、音楽室で三芳れい、理科室付近の階段で日比野由羽」
隣で座っている志乃が私の手を掴んだ。
「志乃君、すまない。こんな話をしてしまって」
「大丈夫です。つらいのは私だけじゃないですから」
「詳しいことは現場で教えてもらえませんか?」
昨日同様、私、滝原、麻井君は大津警部と一緒に外の女子トイレへ向かった。
「男子トイレは使えるんですか?」
「使えるが、捜査の邪魔になったらということでまとめて封鎖するようにと校長から頼まれた」
「興味本位で近づく奴って多いですから」
私たちは昨日同様、現場を見ていた。
「日向さんが亡くなった場所ってどこですか?」
「一番奥だ」




