十
「鍵は持っている先生に忘れ物をしたなどと適当な理由を言って借りるくらい簡単でしょ」
「そうなるとほかの犯行現場の教室の鍵も同じ条件で借りれますよね」
日向さん、三芳さん、日比野さんは時間をずらして呼び出し、日向さんはトイレで後ろから頭を押し込み、溺死。場所は外だから、使う人は限られているからすぐに見つかる心配はない。三芳さんは音楽室で後ろから弦で首を絞めた。音楽室のピアノは鍵盤が廊下から見えない位置にあるから遺体を置いてもすぐに気づかれない。日比野さんは呼び出した後、睡眠薬で眠らせ、男子トイレの用具入れに首吊り状態にして、閉じこめた。朝になってから階段に移動すれば、発見当時の状況と同じ状態になる。
「どこも、見回りの警官が細かいところまで調べなければ、すぐに見つからない」
森君は体育館付近で睡眠薬を嗅がせて眠らせる。絞殺をしてから時間は経っていたので、バスケゴールの上に乗り、ロープをゴールに結び、わかりにくいように隠した。
「元柔道部で、人一人は楽に運べるだろうし、ゴールの上に人を乗せるくらい簡単でしょ?」
体育館は鍵を借りられないと思うから、開いているときにこっそり忍び込むしかない。出るときは少し古い体育館なので、下にある小窓の鉄格子を引っ張れば、簡単に外れる。
最後に北条君は校庭近くの桜の木に何度か頭を打ち付ける。
私が話し終わってから、藤崎は笑い出した。
「なにかおかしい?」
「いいえ、まさか、俺の犯行を見破る人が出てくると思わなかったので、笑ってしまいました」
藤崎はズボンのポケットから折りたたみ式のナイフ。
「本当なら、俺はここで自殺を考えていましたが、やめます。貴方にここで死んでもらいます」
そう言って、私に迫って来た。逃げ切れる自信がない。もうダメだと思って、目を瞑った。しばらくしても私の体は痛みもなく、代わりに何かが床に落ちる音が聞こえた。
「藤崎悠大。殺害と傷害の罪で逮捕する」
「慧先輩! 大丈夫ですか」
私はわけもわからず、後ろにいた、大津警部の方を見た。
「品川がいたからよかったものの、滝原君は自分の危険を顧みず、慧君の前に出たんだ」
「僕、以前、空手をやっていたので、体が無意識のうちに動いたんです」
「人は見かけによらずって言うけど凄いなぁ」
「嘘だー!」
「事実です! というか、僕が空手辞めた理由、慧先輩が原因ですからね!」
「さぁてなんの話しだか」
「警部、先に署へ連行します」
「あぁ、頼んだよ」
藤崎は品川刑事に連れられ、警察署へ行った。
*
事件解決から三日後、大津警部から詳しい事情が聞けた。病院に入院していた北条君が、一年前の転落事件の話しをしたと。
一年前、六人は掲示板で知り合った。三芳さんと北条君とクラスは違うが同じ学校ということがわかり、他の四人は同じ学校を目指していると知った。実際、週一で会うようになり六人は仲良くなった。
当時、三芳さんは合唱部で伴奏を担当していた。元部員の友里先輩が音楽室に来ては合唱発表で歌う曲の伴奏を三芳さんよりも上手く弾くので、どんなに練習しても上手くいかず、落ち込んでいた。その頃から掲示板で、仲良くなっていた北条君に勇気づけられ、練習を続けた。
数日後、三芳さんに会い、人通りの少ない道を歩いているときに、後ろから田中君と森君に睡眠薬を嗅がされ、どこかの廃ビルへ連れて行かれる。目を覚ました頃、三人、特に三芳からバットで殴られ、体中、打撲、傷をつけられる。最後は高いところから転落死に見せかけて殺害。原因は三芳の嫉妬。他人から見れば小さな嫉妬だけど本人からしたらとても大きいことと私は思った。
*
職員会議の結果、夏休み明けの授業は通常通り九月からとなった。今回の事件を話すと……。
*
事件が解決してから二週間が経過。私は久しぶりに図書室に来ていた。なにを読もうかと思って、本棚の本を見ていたらどこかで、本が落ちる音が聞こえた。なんだろうと思い、音がした場所へ行くと誰もいなかった。床に落ちていた本は今回の事件の元になった藤崎友里先輩の作品が掲載されている文芸集。図書室は冷房が効いていて扉はしまっている。扉を開けた音は聞こえなかった。今、この図書室にいるのは私一人だけ。
終