勃発
少々遅れましたが次話投稿となります。
艦隊編成表も一緒に投稿しましたのでご覧ください。各艦の諸元については後々投稿していきます。
2202年 9月3日 GMT11:45
外惑星艦隊 重巡洋艦こんごう
第3艦隊司令 小牧 誠少将
「アラスカより入電、『各艦別命あるまで現陣形のまま待機せよ。発砲は禁ず』です 」
通信士が報告をしてくる。クライスラル帝国艦隊との睨み合いが始まって1日と少しが経ったが、現在も冥王星軌道を挟んでの膠着状態が続いている。
「後15分か。各部署は最終確認ののち報告、整備に万全を尽くしておけ」
「了解」
艦長の命令のもと各部署のリーダーが確認に奔走する。そしてしばらくの後、次々と報告が入ってくる。
「こちら機関部、異常なし。いつでも全速でいけます!」
「こちらCIC、全火器共に問題なし!」
「レーダー、通信機器共に異常なし!」
各部署共に問題はないようだ。士気の方も上々、抜かりはない。
「さて、やっこさんどんな反応しますかねえ」
参謀の一人である山崎が話しかけてくる。彼は士官学校出身ではなく下士官からの叩き上げなので俺よりも年齢が高い。しかし、長年培ってきているであろうその知識と経験には全幅の信頼を置いている。
「十中八九仕掛けてくるでしょうね。上手く対応できるといいがな」
「オルデン提督もかなりの切れ者と聞いていますし大丈夫でしょう。それよりもそろそろ時間では?」
確かに、時計を見ると期限の1分前だった。こちらからの通信はアラスカが一括して受け持つことになっているので交渉が終わるまではこうして待機するしかない。
「…クライスラル帝国艦船からの通信を傍受。『通告通り1日が経った。貴国の返答を述べよ。返答次第では実力行使も辞さず』です」
遂にきた、と思うと思わず身震いが出る。しかもかなり強気の言い様だ。
「実力行使も辞さず……ですか。こりゃあやっこさん本気ですね。こちらも集中してかからないと」
「そうだな。通信士、こちらからの返答は?」
こんな要求、呑むはずもないが念のため聞いてみる。
「『貴国の要求は不当かつ横暴なものであり決してみとめることのできないものだ。要求を撤回しない場合、我々は断固としてこれに対抗する意思がある。なお退去する場合は必要資源、物資を常識的や範囲内で供給、支援する用意が有る。我々も無益な殺傷は好まない。貴国の賢明なる判断を期待する』だそうです」
「ふむ、予想通り蹴ったな。CIC、クライスラル帝国艦隊の様子は?」
「今のところ動きはありません。……訂正、二手に分かれて包囲してきます」
この報告に緊張が走る。敵は殺る気だ。
「アラスカより通達。『現在を持って我が艦隊は防衛権を発動する。発砲を確認し次第応戦を許可す。第1、第3艦隊は右翼、残りは左翼の敵に当たれ』との事です」
現在、外惑星艦隊は5つの艦隊によって編成されている。アメリカ艦が主力の第1、第2艦隊、アジア主力の第3艦隊、ヨーロッパ主力の第4、第5艦隊である。
戦力的にはアラスカ級巡洋戦艦が4隻の他、重巡6隻、軽巡8隻の第1艦隊が一番である。その次は巡洋戦艦4隻、軽巡8隻のヨーロッパ艦隊もとい第4艦隊が来る。第3艦隊は重巡4隻、軽巡8隻。第2艦隊は重巡2隻、軽巡6隻。第5艦隊は巡洋戦艦2隻、重巡4隻、軽巡4隻。その他にも探査、偵察が専門の調査船団が所属しているがこちらは非武装なので直接的な戦力にはカウントできない。しかしこれらが装備している探査機器類はかなりの性能であり、先の電波観測でもかなり役立っている。
「頭を抑えられると厄介だ。第3艦隊各艦へ通達。その場で回頭、機動戦に移行する。351巡航戦隊の指揮は伊吹へ一任する。301巡航戦隊はこんごうに続け!」
「いいんですか!?第1艦隊に続かなくて」
艦長が驚きの声で訪ねてくる。本来ならばそうするべきであろう。しかし今回ばかりは別だ。
「いいか?火力、防御力共に十分な第1艦隊ならば同航、反航戦でも戦えるだろう。しかし我がアジア艦隊の艦艇……というか日本艦艇は火力と機動力を重視しているから真正面からの殴り合いは苦手だ。相手の性能がわからない以上こちらの得意分野で戦わないと不利になるだけだぞ」
ううむ、確かに、と艦長が唸る。そこに山崎も賛同する。
「小牧司令のおっしゃる通り。真正面からの殴り合いはアメさんに任せておきしょう。我々には敵艦隊を撹乱する方が向いてますしオルデン提督もそれをわかっているでしょう」
「なるほど。そうと決まれば全艦、発砲され次第全速だ!」
艦長が命令をする。発砲され次第、というのも変だがあくまでも戦争を仕掛けたのはクライスラル帝国側という立場を崩してはならない。
「CIC、敵艦隊の艦種識別はできるか?」
「向こうに艦種、という概念があるのかは知りませんが小型艦40隻に大型艦20隻。小型艦がこちらの軽巡程度、大型艦は巡洋戦艦以上です!」
そうなると火力ではこちらが劣るかもしれん。あくまで相手に第一撃を撃たせる以上、荷電粒子砲での奇襲もできん。
「クライスラル帝国艦隊より入電。『地球艦隊に告ぐ。直だちに武装を解除せよ!』」
「一応は降伏勧告する理性も持っているのだな。で?こちらからの返信は?」
「アラスカより返信、内容は…『バカめ』!?以上です!」
「は?」
オルデン提督……挑発しすぎです。
思わず苦笑しかかるが慌てて気を引き締める。既に戦闘は始まろうとしているのだ。
「敵艦発砲!!」
見張り員からの報告が飛ぶ。
「全艦回避の後反撃開始!ECM作動開始!」
敵艦隊から緑色のレーザーが伸びてくる。警戒していただけありほとんどの艦が回避に成功した。しかし被弾した船もある。
「サンタフェ被弾!炎上中です!…グアムも被弾した模様。ですが戦闘に支障は無さそうです」
「やられっぱなしで済ませるな!撃ちかえせ!」
こちらからも応戦の青白いレーザーが伸びていく。そのうち幾つかは外れてしまうがその他は次々と命中した。
「着弾!……!?敵損害軽微!20センチ以下の砲が効いていません!」
「なんだと!?」
見ると敵艦に当たってはいるものの弾き返されているものもある。第1艦隊所属の巡洋戦艦が発射したもののみダメージを与えているようだ。
「抜けないのなら近づくのみ!全艦突撃!」
艦長の号令が飛ぶ。艦体各所の姿勢制御エンジンが噴射して艦の向きが変わるのか感じられた。
「前部VLS発射!突入したミサイルに倣って敵艦隊に突入!」
前方にあるVLSが開き次々とミサイルが飛翔して行く。それを受けて敵艦隊からは迎撃のレーザーが放たれ、それに絡め取られたミサイルが次々と爆発を起こす。
「今だ!全艦突撃!」
そう言った瞬間、艦体にズンッと思い衝撃が走った。