接触
一週間後と言ったな……あれは嘘だ!
というわけで書き終えたので投稿します。さすがに1日1話はこれ以上無理ですね…
次の投稿は週末にはなんとかしたいですね。
2202年 9月2日 (木) GMT10:30
冥王星宙域 外惑星艦隊旗艦アラスカ
提督 オルデン ルーカス中将
『提督、後30分で冥王星軌道です。ブリッジへお越しください』
部屋の中に無線が響く。ベッドから体を起こし制服を羽織り、無線に返答する。
「わかった、今行く」
部屋を出てブリッジへ向かう。やはり無重力空間、擬似重力があるとは言え少し体が軽い。さほど広くはない艦内を進み、艦橋のドアを開ける。ブリッジには既に艦長のロバート以下主要スタッフ全員が揃っていた。
「すまん、遅れたな」
「いえ、まだ時間はありますので」
傍で待機していた参謀長から端末を手渡される。それに目を通しながら色々と確認を行っていく。
「先遣隊からの報告はないか?」
「まだ何もありません」
「艦隊の状況は?」
「全艦異常なしとの報告が来ています。問題ありません」
などと一通り確認を終えて自分の席に着く。艦橋の真ん中、一番眺めが良い代わりに責任も重い。外惑星艦隊65隻の運命を背負っていると思うと緊張で冷や汗がにじむ。
「冥王星軌道まで後10分」
レーダー員の声が響く。統合作戦本部からの情報だとUFO共はこっちに向かっているらしいが…。
会敵……今から敵と表現するのはマズイか。奴らに接触したとしても言語はどうなのだろう。そもそも相手に言葉という概念があるのかどうか。何一つ情報がなく、判断のしようがない。
「左舷11時の方向、冥王星視認」
色々と考えあぐねていたところに報告の声が割って入る。その声に反応し外を見てみるとちょうど薄い黄色地の冥王星が見えた。木星や土星となると今までに数え切れないほど見てきたが冥王星となると話は別だ。ここに来るのはコロンビアの艦長として探査船の護衛をした時以来か。
「異星人って…どんな奴らなんですかね」
「さあな。人型ならまだ良いが…。タコみたいな奴らだったらどうする」
「そん時には『タコヤキ』にでもしてやりますか!」
「ははっ、そりゃ名案だ。ソースを忘れるなよ?」
「「あはははは」」
艦長と航海長のくだらないやり取りを聞いて笑いが起こる。まったく、こいつらときたら…。
呆れつつも自然と顔がほぐれるのがわかった。まあ、人間適度にリラックスしないとな。
「提督はどう思いますか?」
なんだ、まだその話続いてたのか。やれやれと思いつつ返答をする。
「そうだな、俺は2足歩行だと信じたいね。タコとか虫とかに似てたらと思うと…な?」
「確かに想像はしたく無いですね。デカイ虫。…うわ、想像したら鳥肌立ってきた…」
やめろ。こっちまで想像しちまったぞ。と内心ツッコミを入れる。
「この話は終わりだ。相手は2足歩行。人類とそっくり。いいな?」
「その方がロマンがありますからね〜。美女揃いの異星人とか!」
「いい加減終われ。作戦宙域に入るぞ」
航海長が副長に注意される。いつもの事だ。そんな何気ない日常の風景に和んでいた時、艦橋横の無線が鳴る。
「先遣隊、探査船ロゼッタより入電。『我未確認船団を探知。2時の方向。距離3万』です!」
いよいよ来たか。まだ戦闘と決まったわけではないが、やはり緊張はする。
「こんごうより入電。…先ほどの電文の転送です」
こんごうか。確か小牧が乗ってる船だな。あいつも律儀な奴だ。
そしておもむろに立ち上がり命令を下す。
「全艦に通達。進路変更0-3-0。我に続け。各艦戦闘準備、別命あるまで発砲は禁ず」
「了解。、おもーかーじ30」
艦体側面の姿勢制御エンジンが軽く噴射し船体が回る。海の上の船と比べると段違いの旋回速度だ。
「ロゼッタより追加電文。『我当該船団を視認。該船に武装らしきものを確認。戦闘艦艇と推測される』。映像来ます」
「拡大投影」
艦橋前部のスクリーンにロゼッタからの映像が映し出される。青紫が基調のずんぐりとした船体に砲塔らしき物が付いているのが見える。やはり戦闘艦艇のようだ。見たところ我々の概念とさほどかけ離れていないように見える。
「ロゼッタへ通信。よくやった。戻ってこい。以上」
「了解。送ります」
その瞬間、凄まじい雑音と共に映像が途絶えた。
「どうした⁉︎」
「わかりません!強力な電波が割って入ってきます!」
すぐに雑音は消え映像が復旧した。だが、そこに映し出されているのはロゼッタからの映像ではなく「青い」ヒトだった。
「…我はクライスラル帝国外征艦隊提督のビバルディンである。そなた達はチキュウの者か」
クライスラル…帝国とな。やはり知的生命体のようだ。しかもヒト型か。
「私は地球連邦所属、国連宇宙軍外惑星艦隊司令のオルデンだ。如何なる理由で太陽系に訪れたのか、答えていただきたい」
ほんの少しの静寂の後、ビバルディンが口を開く。
「我がクライスラル帝国の要求はただ一つ。我々の乗る移民船を受け入れること。その為にチキュウを明け渡せ。回答期限はチキュウ時間で24時間後。一切の遅れは認めない」
一方的に言い終わると通信は切れた。あまりの唐突さに呆気にとられる。そして徐々に怒りが湧いてくる。最初に爆発したのは航海長だった。
「ふざけるな!地球を渡せだと⁉︎馬鹿も休み休み言えってんだ!」
「いったい何様のつもりだ!提督、こんな奴らの要求をのむ必要はありません!」
「だいたい何なんだ!いきなり現れて地球を寄越せだと⁉︎図々し過ぎる!」
各自が怒りを爆発さている。正直なところ俺もキレていた。しかしこれは俺が一人で判断できるレベルの話ではない。
「通信長、さっきのは録音してあるな?」
「はい、バッチリです」
「よし、統合作戦本部に送れ。ありのままを伝えるんだ。それから全艦に通達。気持ちはわかるが此方からは決して発砲するな」
通信士が無線に向かい交信を始める。
「艦長、統合作戦本部からの返信です。『挑発に乗らず監視を続行せよ。攻撃を受けた時のみ反撃を許可す」
「ほう…。あれだけの侮辱を受けておいて監視のみとはねえ…」
「航海長落ち着け。こっちから手を出しても何もいいことはないぞ」
艦長がなだめに入る。航海長も優秀な奴だがやはりまだ青臭いところがあるようだ。
「各員第二級戦闘配置のままだ。24時間後とは言えいつ攻撃を受けるかわからん。気を抜くなよ」
命令を告げ席に座る。クライスラル帝国か、全くふざけた奴らだ。上層部の方針が決まらない以上こちらとしても下手に動けん。とりあえずはできる限りの情報収集だな。そう思い今後24時間の計画を練ることにした。