歴史①
核融合、それは21世紀初頭の人類が夢見たエネルギー。その研究に大幅な進歩をもたらすとされているヘリウム3。これがNASAの探査衛星により月に眠っていることが2018年に判明した。この資源を巡りまた争いが発生することを恐れた国連は各国が独自に進めている宇宙開発を国連の元に一元化することを決定する。アメリカ、ロシア、EU、日本、中国など宇宙開発先進国が早急に合意したため、その他の国も追従せざるを得なくなってしまう。そして宇宙開発の歴史は大きく動き始める。
宇宙へ進出する際にあたり大きな問題となったのが地球周回軌道上に散乱するスペースデブリであった。まず初めにこの除去計画が開始され比較的地球に近い軌道にあるデブリの除去が行われた。これには小型の回収衛星を用いる方法とガスを使用した減速方法が取られた。一方距離が遠い静止衛星軌道にあるデブリは一旦墓場軌道に乗せ一定量をまとめて回収、大気圏突入時に燃やす方法が取られた。また、それと並行して火星有人探査、軌道エレベータ、月面基地計画など宇宙開発計画が次々と制定されていく。2034年の火星有人探査、2042年の軌道エレベータの完成、民間宇宙旅行の開始などを経て2053年、念願の月面基地が完成する。これにより持続的なヘリウム3の供給源を確保することができた。またその2年後、月からの資源輸送船護衛のための初めての常設国連軍である国連宇宙軍が設立される。しかし現状では宇宙空間で使用できる兵器を保有している国は少なく、その保有国すべてがこの計画に参加しているため大気圏内での活動が主であった。
そして内惑星系が一通り探査され終わった2058年、ついには外惑星系へ向けた本格的な探査が始まる。まず国連が目をつけたのが木星であった。ここにはヘリウム3の存在が有望である他、その衛星を含めると様々な資源が豊富にあるとされている。月の開拓により美味しい思いをした人類はその手を木星にも伸ばすことになる。
2059年、木星からの資源調達計画が始動。しかし木星は遠い。ここから資源を得た上採算を取るになんとしても必要だったのが核融合推進の宇宙船である。ヘリウム3が手に入った後も様々な問題が浮上しており開発が難航していた核融合技術だが、ついに2065年、開発が完了。また、2062年に行われていた木星探査でも必要資源が大量にあるのが確認されていたことから2066年、木星開発計画がスタートする。国連は手始めに木星開発の為に火星、エウロパに中継基地を建設することを決定する。
2068年には火星基地着工、また2073年には核融合発電が本格稼働を開始、世界のエネルギー事情は大きく好転することになる。しかしここでまた大きな問題が発生する。
核融合発電の実用化により中東一帯の石油輸出国が大打撃を受け、第5次中東戦争が勃発。さらにその混乱が東アジアへと波及、かねてより緊張状態にあった南シナ海でASEAN諸国と中国が武力衝突を起こす。圧倒的質と物量を持って戦いを優位に進めた中国はその戦線を台湾、東シナ海へと拡大した。しかし国連安保理では拒否権を持つ中国の為有効な手を打てずに終わる。この侵略行為に対し当事国である日本、韓国、台湾、ASEAN諸国、さらには日米安保によりアメリカが参加、さらにはオーストラリアやカナダが後方支援に着いての多国籍軍が結成された。ちなみに、難民問題で疲弊していたヨーロッパ諸国は先の中東戦争に介入しており、東アジアにおける動乱へ介入する余力は持ち合わせていなかった。なお、ロシアは傍観をしており隙を見て有利な陣営に参加するものと見られていた。
東南アジアでは海・空軍力の差が激しく、南沙諸島を始めとする群島はすべて陥落。フィリピン、ベトナムなどの主要軍事基地は空爆にさらされている状況であった。
しかし、東アジアでは共産党の悲願であった台湾併合を試みるも台湾側の粘り強い抵抗とそれに伴い生じた東シナ海海戦と台湾海峡海戦により海自、第7艦隊、台湾海軍の統合艦隊が勝利したことにより制海権を損失、後退することとなる。また、時を同じくして行われた尖閣及び先島諸島への上陸作戦も、一度は上陸を許したもののこちらも海戦の敗北により補給線が途切れる事となる。残された中国軍は住民を盾に取り防戦を行うも、陸海空3自衛隊による統合部隊の攻勢の前に遂には降伏、日本は先島諸島及び尖閣の奪回に成功する。
この敗北に続き予てより係争中であったカシミール地方の中国領へインドが侵攻、さらにはロシアが国境周辺へ軍備を集中させている事となどから中国内部にて和解派と抗戦派による争いが起こる。
中国にとって踏んだり蹴ったりとなるが、この戦乱に乗じて密かに多国籍軍から支援を受けていたチベット、ウイグルなどの各自治区でも一斉蜂起が相次ぐ。さらにはこれに民主化戦線も加わり、126年に渡る共産党の一党独裁体制が崩壊する事となった。そして短期の内乱を経て中華共和国など5つの国家に分裂することになるが、それはまた別の話である。
さて、話を戻そう。
極東の動乱が収束し、中東戦争も終わりが見える中、国連はこの争いを機にこれまでの世界統治機構を大幅に改革することを決定する。始めに行われたのが現在の国際連合の解体である。そしてより強制力の高い国際連邦を設立。また、この組織を世界統一政府の設立へ向けた公式的準備組織と位置づける事が決まった。常任理事国は中国を除く旧4ヶ国に加えて日本、ドイツ、インド、ブラジルが加盟。さらにはその3年後に香港、福建、広東など南部を中心に建国された中華共和国が加わり、計9ヶ国が揃う。
また、来るべき太陽系外への進出のため、今までの多国家惑星から惑星国家への変換をすることを決定。その布石として全世界をヨーロッパ、西アジア、東アジア、東南アジア、北米、南米、オセアニア、アフリカの8つの州に分類。国という概念を無くす。それまでの国家は、例えば日本の場合、東アジア州日本地区と表せられる。また、治安維持組織を除く各国軍隊は国際連邦の管轄下に入り、正式に国連軍として活動を始める事となる。また、新安保理にて認可された国際連邦憲章はそのまま総会でも全会一致で可決、これを地球としての正式な最高法規とし、『地球連邦』という国家が誕生することとなった。ちなみに各国元首、とりわけ皇族、王族は廃止するわけにはいかなかったので、各地区における民族の象徴として今尚君臨し続けている。
この様な大きな政変があったが、太陽系内の開発は滞りなく進められており、主要惑星だけではなくその衛星等もくまなく探査されていった。2092年、土星の衛星エンケラドゥスにて未知の金属を発見。現在地球で使われているあらゆる金属、合金よりも強度、耐熱性などが高く重量も軽いという画期的な金属であった。これにより従来のエンジン ーー火星〜冥王星間を2ヶ月半ほどで航行するーー の2倍近い性能のエンジンを開発することが可能となり、地球のさらなる発展に寄与するのであった。