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使者

西暦2018年 4月1日

アメリカ合衆国 ネバダ州 グルーム・レイク空軍基地


広範囲に広がる乾いた大地の上に作られたグルーム基地からは轟音と共に一機の航空機が近づいてくるのが見えた。その機はランディングギアを下ろし砂埃を巻き上げながら滑走路へと滑り込んでくる。それは、B2爆撃機などに代表される垂直尾翼が無い、いわゆる全翼機だ。だが今着陸しているそいつはB2では無い。航空機メーカーとして名高いノースロップ社が開発し、アメリカ空軍が試験運用を続ける新型爆撃機、LRS-Bである。

そのLRS-Bはやがて滑走を終え駐機場へと移動する。宇宙空間からの監視衛星の目が光る今日、秘匿対象である新型機はすぐさま格納庫へと収納された。


「ヘイ、アダムズ。調子はどうだい?」


駐機を終えコックピットから降りたテストパイロットを務めていたアダムズに同僚のパイロットが話しかける。


「まずまずだな。思ったより悪くない」


アダムズはそう答えると基地施設へ向けて歩き出す。


「報告があるんだ。また後でな」


「そうか、ご苦労なこって」


軽く返事をする同僚を尻目にドアを開ける。人気の少ない廊下を歩き、基地司令が待機する部屋の前まで行く。そしてドアをノックする。


「入れ」


返答は簡潔であった。もちろん了承の合図なのでドアを開けて中に入る。


「アダムズ中佐、報告に参りました」


机の前に立ち敬礼をしつつ答える。窓の外を見ていたスパーツ司令は椅子ごと回転しこちらを向く。その窓からは一機の航空機が着陸するのが見えていた。


「ご苦労。どうだね、新型機の首尾は」


「はっ、概ね問題は感じられませんでした。飛行性能も見た目に反して悪くはありません」


テストパイロットと言っても技術的なことは技官やコンピューターに任せるしかない。運用側からの不満を伝えるだけである。乗り心地の他にも様々な感じた問題を報告する。だがどれも大した問題では無かった。


「そうか。テストもほぼ終わりに近づいてきてるな。実戦配備は2020年の予定だがこの分なら早まるかもしれん。ご苦労だった。もう下がってもいいぞ」


「わかりました。それでは失礼します」


アダムズが一礼して部屋を出ようとした時、先ほど着陸した機が慌ただしく飛び立っていくのが見えた。


「はて、こんな急なフライト計画は無かった筈だが」


スパーツが疑問に思い呟いた瞬間、一人の士官が慌てて飛び込んできた。


「入る前にノックをせんか、馬鹿もの」


ノックもせずに慌ただしく駆け込んできた若い士官を軽く注意する。その士官は慌てて敬礼した後、こう報告してきた。


「も、申し訳ありません。ですが緊急の要件でして」


そう言いつつ士官は上層部から受け取ったであろう命令書を手渡す。それは電文ではなく封筒に入った書簡であった。


「これか。通信でないとは珍しい」


受け取ったスパーツはペーパーナイフでそれを開封し読み始めるが、命令書を持つその手は段々と震えていった。


「……これは、いつ受け取った?」


「はっ、先ほど到着したワシントンD.Cからの緊急便に同乗していました国防長官より直々に…」


「ワシントン?それに国防長官だと⁉︎それで長官は今どこに?」


「それが命令書を手渡すと直ぐに飛び立って行きまして……」


若い士官がそう言い終わらないうちにスパーツが椅子を蹴って立ち上がり命令を出す。


「総員に通達、至急第一級戦闘配置だ!だが命令あるまで発砲を禁止する。絶対に撃つなよ!また航空機の発着は即時中止。それから他の基地には知らせるな。今からこの基地を封鎖して外部に情報を漏らさないようにしろ!人員もだ、急げ!」


あまりの唐突な命令に部屋の中の2人が固まる。3秒後、我に帰った士官が疑問を投げかける。


「…戦闘配置なのに他の基地には知らせないんですか?それから封鎖と言うのは……」


「後で全体に向けて説明をする。とにかく今は急いでくれ。……これは大統領命令だ」


「は、はっ!」


スパーツが発した最後の『大統領命令』がきっかけとなって士官は直ぐさま命令を復唱、部屋の外へと駆け出していった。


「司令…、いったい何が」


唖然としつつ成り行きを見守っていたアダムズが恐る恐る声をかける。


「これを読んでみろ。ただし読んだら後には戻れんぞ」


冗談とは思えない目つきをしているスパーツが一枚の命令書を渡す。アダムズはそれを受け取ると食い入るようみ読んだ。右上にはデカデカとマル秘と書かれており緊張感を増す。

そして内容は要約すると以下の通りであった。


・現時刻を持ってレイク空軍基地を大統領直轄基地とする

・レイク空軍基地にのみ置いてデフコン1を命ずる

・基地全体に完璧な情報規制を敷くこと。別命あるまで外部と連絡を取ることを禁ず

・現時刻を持って人員の出入りを禁ず

・この警戒を破り基地に対し侵入もしくは脱走する者には即時射殺を許可する。また、基地周辺の半径30マイル内にいる一般市民に対し臨時の立ち退き命令を敷く。こちらも警告の後、破って侵入する者には射殺を許可する

・上層部からの許可が無い航空機の発着を禁止する

・総員退去準備を進めること


などなど物騒な事ばかりが書かれていた。


「これは…いったい」


「私にもわからん。だが……」


スパーツがそう言いかけた瞬間、先ほどの若い士官がまた飛び込んできた。


「何度言ったら分かるんだ。ノックをしろと!」


「す、すいません!ですが、あれを!」


そう言いつつ若い士官は窓の外を指差す。ちなみにこの窓からは滑走路の大半を眺めることができとても見晴らしが良い。そしてよく見るとこちらへ向かってくる機体が見える。


「ん?ブラックホーク?オスプレイまで来てるじゃないか。さっき発着禁止命令を出したばかりだぞ?」


スパーツが訝しる中、若い士官は声を張り上げて報告する。


「デルタです!デルタフォースが来たんです!」


デルタフォース。アメリカ陸軍の特殊部隊であり公式には存在しない事になっている。対テロ特殊部隊として設立され、現在は多岐にわたる任務に就いているが未だに秘密の部分が多く真相は明らかになっていない。


「なぜデルタが……。何が起こるんだ!」


あまりの唐突な出来事にスパーツが狼狽している中、デルタフォースを乗せたヘリは次々と着陸し、抱えていた隊員達を吐き出している。


「代表者に話をする。二人とも付いて来い」


正気に戻ったスパーツに従えられ、アダムズと若い士官は滑走路へと向かう。途中、幾度も隊員から質問にあったがそれには一切答えずに待機を命じ、滑走路から人を遠ざける。

やがて外に出た時、向こうからも指揮官と思しき人物らが数人こちらへ向かってくるのが見えた。互いに敬礼をかわす。


「私は基地司令のスパーツだ。いったい何が起こってる」


自己紹介もそこそこにいきなり核心をつく。しかしデルタの指揮官はそれに答えない。否、答えられない。


「残念ながら我々もこの基地の守備を命じられただけでな。そちらの方が情報を持っていると思っていたのだが、どうやら違うようですな」


「一応命令書ならあるが具体的な指示が書いてあるだけで何が起こったかは何もわからん。戦争か?」


「わからん、だが大統領がこちらへ来る予定だからその時に何かわかるかもしれん」


「大統領が来る?今はG8が開催されてるからシアトルにいるんじゃないのか?」


ますます訳が分からなくなる。


「取り敢えず私共としても警備を任されているので、そちらの警備主任の方と面会したいのだが。どこにいるのだ?」


「ああ、それなら基地の中にいるだろう。こいつに案内させるから付いて行ってくれ」


そう言うとスパーツは若い士官を引っ張りデルタ指揮官の前に出す。若い士官はかなり緊張した様子で敬礼をし、案内を始める。

そして残されたスパーツとアダムズはまた話しを始める。


「大統領が来られるとおっしゃっていましたが……。それ程重要な任務なのでしょうか」


「だろうな。だが大統領が直々に出てくるとなると普通の任務では無さそうだぞ」


「しかしデルタフォースまで来るとは……。この分ですと他にも増援が来そうですね」


「これ以上何が来るんだ。取り仕切るこっちの身にもなってくれ」


などと話していた時、またもやエンジン音が聞こえてくる。どうやら大型機のようだ。


「今度はなんだ!B52か!B2でも来るのか!」


もはや驚きと半ば諦めが混じったような叫び声だった。だが目に入った機体は爆撃機ではなかった。否、空軍機でも無い。米軍機でもない。それは複数の民間機であった。先頭に見える機体はA310、それに続きA340やB747が見える。しかし普通の民間機とは様子が違った。


「司令……、先頭の機体のカラーリング、見慣れないですね」


よくわからない様子のアダムズと違い、スパーツはそれらの機体が意味する事がわかったようだ。もはや驚くこともなく惚けた様子で話し始める。


「先頭のエアバスは恐らく…カナダ政府専用機、それに続いてドイツ政府、日本政府の専用機だ。特に日本のはわかりやすい。赤のラインが入ってるのが見えるだろう。その後ろの機体もよく見えんが政府関係者用の機体だろう」


「……って事は各国首脳がここに揃うと?」


「どうやらそうらしいな」


スパーツはそう言うと懐からタバコを取り出し火をつける。


「どうやら戦争どころの話では無いらしいな。この国…。いや、世界を大きく変えるような出来事が起こるかもしれん……」


事の重大性を理解し唖然としているアダムズを尻目にスパーツはそう呟くとタバコを噴かす。そして二人の前では各国の政府専用機が続々と着陸していくのであった。


そしてその1時間後、ほぼ全ての人員が退去したレイク基地で各国首脳や政府高官が見守る中、正午ちょうど、僅かなズレも無しに、『それ』は現れた。














時に西暦2018年4月1日 午後零時。人類が初めて地球外生命体と接触した瞬間であった。





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