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鎮圧

2202年 12月1日


ラーシルク教徒の一斉反乱が発生してから5日間の間は、文字通り地球にとって激動の5日間であった。地上では大多数の反乱軍の制圧に成功するも、中国では少数ながらも統率の取れた反乱軍を取り逃がしている。また各地で敗退し、警戒線を張った国連陸軍による逮捕、射殺から逃れた反乱軍の残存兵がチベット周辺に続々と落ち延びてきており、一部では包囲網の隙を突かれてチベットへの合流を許している。一方でチベットの攻略を開始した国連軍であったが、その後に起きた一連の戦いで制宙権を損失し、現在は膠着状態に陥っている。期待されていた未離反艦による臨時部隊は、戦闘衛星が思いの外戦力にならず、集合前に強襲を受け各個撃破され敗北。臨時部隊の残存艦はこちらへ向かいつつある内惑星艦隊と合流すべく地球を離れている。地上から宇宙空間へ攻撃できる光学兵器は無く、ミサイル等はエウロパや火星、月基地へ優先配備していたため数が不足。警備艇数隻を破壊した他、駆逐艦等にダメージを与えるも全体で見れば攻撃に失敗している。


また、クライスラル帝国との戦いの帰趨を決する決戦を想定して奇襲をしかけた内惑星艦隊は、反乱発生の報告を受け土星宙域より26sknotという高速で駆けつけている。途中、反乱軍の規模について詳細な情報が入ったため全艦隊では戦力過剰と判断、第6、第8、第10、第11艦隊は木星軌道へと引き返し外惑星艦隊と共に警戒に当たっている。残った第7、第9艦隊はこちらへ退避してきた未離反艦隊と合流、隙をついてチベットより月基地へと消耗品や予備パーツなどを確保すべく出撃した反乱軍艦隊と対峙する事になった。


現在、内惑星艦隊は6つの艦隊を中心に構成されており、31隻の戦艦(BBS)を主力としている。その中でも第6艦隊はアメリカを主力とした艦隊であり、主軸たるBBSはなんと10隻。その他の艦艇も充実しており質、量ともに地球最強の艦隊と目されている。第7、第8、第9艦隊はそれぞれイギリス、日本、ロシアが主力であり、各4隻のBBSを主力として構成されている。規模では他の艦隊に劣るものの練度が高く、集団機動戦などを得意とする。第10艦隊はイギリス以外のヨーロッパ・アフリカ諸区で構成されており、雑多ではあるが第6艦隊に次ぐ規模を誇っている。また、第11艦隊は上記以外の区から成り立っており、インド、ブラジル、中国などのBBS3隻を主力としている。先の土星沖海戦では分派された第6艦隊の一部と共に万が一に備えてエウロパ警備に当たっていた。


その2個艦隊は4日という驚異的な速さで地球周辺へと到達。地球周回軌道に位置する反乱軍艦隊と睨み合っていた。


「11時の方向、約18万kmに反乱軍艦隊。依然として月を盾に地球周回軌道に位置しています」


第7艦隊旗艦「ヴァンガード」では報告を受けた司令官であるセラーズ中将が考え込む。18万kmでは既に荷電粒子砲の射程内ではあるが、このままの射線で撃てば月の表面を抉るだけである。


「一応降伏勧告をしてやれ。今ならまだ間に合う、と」


「わかりました」


厳しいとは思うがな。とセラーズは心の中で思いつつも、部下には降伏勧告をさせる。暫くの間、参謀長がやりとりを行っていたが、やはり応じないようである。


「ダメですな」


素っ気なく答える参謀長は通信文をこちらへ寄越す。それを見るとどうやら、降伏勧告に応じないどころか逆にこちらを反乱軍へと勧誘している始末だ。熱狂的信者というものは恐ろしいなと若干の哀れみの情を抱きつつ、如何にこちらの被害を減らしつつ制圧するかを考える。重装甲高火力の戦艦を前面に立ててのゴリ押し、高速の駆逐隊や巡航戦隊で上下左右を囲み、火力集中による殲滅、荷電粒子砲装備艦を二手に分け、どちらか一方が射線に着ける様にする……。


「やはり戦艦を中心として装甲に劣る小型艦はその補助、ですかね。第9艦隊には逆サイドから回り込んでもらいましょう」


隣に控える参謀長が見透かした様に話しかけてくる。何故こいつはいつも人が話そうとしている事を先に話すのだ。


「そうだな」


セラーズはぶっきらぼうに答えつつ、艦隊全体に配置命令を下す。装甲の劣る軽巡や駆逐艦は側面や上下を守る形で展開、荷電粒子砲を搭載している巡航戦隊は戦艦部隊の背後につき、狙撃の機会を窺う。


「展開完了しました」


部下からの報告に頷きつつ、改めてレーダーの様子を確認する。どうやら変わりは無いみたいだ。


「敵艦隊との距離、10万kmを切りました!未だ射線に入らず!」


「第9艦隊、左側へ回り込みます」


挟み撃ちをかけるように、第9艦隊は第7艦隊とは逆方向へと針路を向ける。戦力的にはほぼ互角であるため、どちらか一方が射線を確保できれば勝負は決まる。


「敵艦、エンジンからの放射エネルギー増大!加速します!」


「どっちだ!」


「……こちらです!」


どうやら敵艦隊も腹をくくったようである。重巡を先頭に巡洋艦や駆逐艦が単縦陣を組み、その周辺を警備艇が取り囲む。


「あちらから来てくれるのならば好都合。全艦、苦しまないように一撃で決めてやれ」


悲しくも敵対してしまった艦や仲間への、唯一の慈悲とも取れる命令を実行すべく、各艦は狙いをつける。データリンクも万全、狙いの重複も無い。


「射線確保まで残り10秒。……5、4、3……!?敵先頭艦の艦首に高エネルギー反応!」


「馬鹿な!?戦闘機動中の荷電粒子砲チャージだと?」


予想だにしなかった報告を受けたセラーズは直ぐに荷電粒子砲を疑うが、次の報告でそれも否定される。


「荷電粒子砲にしては反応値が小さすぎます!記録に無いエネルギー反応です!」


記録に無い、という言葉に一瞬思案するも、すぐに攻撃命令を下す。


「全艦攻撃開始!以下自由射撃」


周囲に展開した艦から一斉に青白い光線が放たれる。大は16インチから小は5インチまで、様々な口径の主砲が火を噴き、光線が敵艦隊へと突き進む。


「先頭の重巡に命中!……なっ!?敵艦無傷!」


「何だと!?」


またもや行われた予想もしていなかった報告に、今度は艦橋に詰めていた全員が驚く。


「16インチ砲を受けても無傷な重巡だと?どういう事だ?」


さらに第2射が放たれ、重巡以外の艦は次々と被弾、停止するも重巡とそれに単縦陣で続く駆逐艦は無傷でこちらへ突撃してくる。


「……電磁シールドか?」


とある可能性を思い浮かべたセラーズはふと呟くも、すぐに自分自身でそれを否定する。


「いや、重巡の機関出力で16インチ砲を防ぐシールドを張るのは無理だ」


「ですがそれ以外に考えられません」


参謀長がさらに否定するも、反乱軍が独自に高性能な電磁シールドを開発するとは考え難い。かと言ってそれ以外の可能性もほぼ無い。


「重巡を除く巡航戦隊および駆逐隊は四方へ展開、一気に押しつぶすぞ」


その命令を受けて各艦の姿勢制御スラスターが一斉に噴射される。急旋回した駆逐隊は魚雷攻撃を行うため、回避機動を取りつつ最大速度で敵艦隊へと向かう。さらにそれを援護する形で25X番台の巡航戦隊に所属する軽巡や、中央を突き進む戦艦、巡洋戦艦が牽制射撃を行う。相変わらず正面からの攻撃は通用しないが、シールドのエネルギー値は徐々に減少しており、このまま砲撃を続ければ耐えきれなくなるだろう。しかしその前に射点へとたどり着いた駆逐隊が魚雷を放つ。さらにそれに応射する敵駆逐隊との間に砲戦も発生し、互いに被害を負う。だが今回は艦の絶対量が違った。迎撃網をすり抜けた魚雷は次々と敵艦へ命中、敵艦は一隻、また一隻と落伍してゆく。逆に敵艦が被弾しつつも一矢報いようと放った魚雷は、そのほとんどが近接レーザー砲により迎撃され、さしたる戦果を上げる事ができなかった。そして戦いの火蓋が切られてから15分、敵艦隊は残すところ重巡1隻へとなった。さらに回り込んできた第9艦隊が後方より半包囲したことで遂に観念したのか、敵重巡は戦闘行動を停止した。


「敵艦艦首のエネルギー反応、急速に低下!機関部のエネルギーも同様に低下します!」


その報告を受けて艦橋内に安堵の空気が流れる。しかしセラーズ中将以下、参謀一同は全くもって安堵する事ができなかった。


「……完全に包囲しろ、臨検隊を送り込む。何か動きがあれば直ぐ撃沈して構わん」


「臨検隊……ですか?」


ダメコン指揮を執っていた副長や、戦闘が下火になり一息ついていた艦長が驚きの声を上げる。


「そうだ。例の電磁シールドの謎を解明せねばならん」


「わかりました。コスモホークの発艦準備急げ!」


各部署より陸戦訓練を受けた隊員をかき集めるとともに、艦後部に搭載している航宙汎用輸送機、SUH-60D(コスモホーク)の発艦準備を始める。これは2178年に正式採用された汎用艦上機であり、人員や物資の輸送、漂流者の救助、各基地でのワークホース的役割を担う万能機である。さらにC型からは大気圏内での本格的な活動も可能となり、正面切っての攻撃行動こそ不得手なものの、それ以外の任務では高い性能を発揮する傑作汎用機となっている。現在「ヴァンガード」にはこのコスモホークが6機搭載されており、その内4機は既に救命モジュールを装備して辺りを飛び回っている。今回の臨検では残った2機を使用すべく、密航船対策のために開発された強襲モジュールへの換装作業を行っている。このモジュールでは完全武装の兵士25名や各種ドローンに加え、自衛火器としてのミサイルポッドとレーザー砲を備えている。


そして行動を停止した敵重巡だが、現在は全く動きがない。機関出力も艦の維持に必要な最低限のエネルギーを確保できるラインまで落ちている。本当に抵抗の意思を無くしたのか……。などとセラーズが考えていた時、敵艦より通信が入ってきた。


「……お久しぶりですセラーズ中将」


映像がない、音声のみの通信だったがその声は明瞭に聞こえてきた。


「……すまないが、どちら様ですかな?」


セラーズがそう聞き返すと相手は一瞬沈黙した後、はっきりとした声でこれに答えた。


「元本星防衛艦隊、第2方面隊司令のムブディ少将です」


「ムブディ少将か。……たしか前に合同演習で同じ部隊になったな」


「はい」


またもや沈黙が支配する。艦橋内で通信を聞く者は一言も発することなく2人の会話を見守る。


「地球を守る最後の砦であるはずの君達が、なぜ反乱を起こしたのか。君達が入隊時に誓った言葉は嘘だったのか?」


「いえ、我々は今でも地球を守るべく行動していますよ」


「この反乱が、……地球が初めて地球外生命体の侵略を受けている時に起こした反乱が、本当に地球の、人類のためになると思っているのか?」


苛立ちを抑えつつも強気でまくし立てるセラーズ中将。しかしムブディはこれに対しフッと一笑した後、これに答える。


「地球外生命体の侵略(・・)……かどうかはさて置き、貴方方が人類のためを語るとは片腹痛いですな」


「なんだと…?」


「正義や民主主義を謳い、来たるべき宇宙進出へ向けて統一国家を作る。表向きはとても素晴らしい。だかその実態は?旧先進国による上層部の独占、地球国内(・・・・)の貧富の差。いつも貴方方はそうだ。正義や人道を謳いつつ他所の庭を荒らし、実利が無くなったらすぐさま手のひら返し。大航海時代から何も変わらない」


「さらには、あたかも自分たちが地球の正当な支配者である様な振る舞い。まあ私も、悲しくもその一員でしたので大きな声では言えませんがね。ですが私達は真実を知った。そして変わった!」


徐々に演説口調になるムブディは息をつく暇もなくまくし立てる。


「貴方方もやがて知ることとなるでしょう。真実を」


怒りを超え、こちらに対し憐れむような口調で話しかけるムブディに対し、遂に参謀長がキレた。


「真実?貴様らが勝手に信じている与太話のことか?いい加減にしろ!貴様らの思い上がりでどれだけの命が失われたと思ってる!」


「フッ、まあいいでしょう。やがて真実を知った時が楽しみですね。それではさようなら」


「まだ話しは終わっていない……」


参謀長がそう言いかけた瞬間、一方的に通話が切れた。そして次の瞬間、包囲されていた重巡が一瞬輝いたかと思うと、凄まじい閃光と共に爆散した。





この物語もだんだん佳境へと差し掛かってきました。物語の根幹(と言っても大した設定ではないが)が明らかになるのもそう遠くはないでしょう。

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