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反乱

2202年 11月27日

国連本部 特別捜査室

ハイドム・オルト


「それで、作戦は失敗したと?」


睨むつもりは無かったのだが、自然と顔が強張るのが自分でもわかる。机の反対側では若干萎縮した部下が報告を続けている。


「いえ、あくまでもスタークの確保に失敗した訳でして全体としてはほぼ確保に成功しています」


確かに重要人物は9割方確保もしくは排除が出来た。しかし主目標であるスタークを逃している以上、成功とは言い難い。


「……それで、得られた情報は?」


「今の所、我々が掴んでいる情報と変わりがありません。ですがさらに聞き込みを続ければ……」


「黙秘しているのか?これは非公式な捜査だ。精神介入でも何でも使え」


精神介入捜査はかなり精度の高い情報を得られる反面、使用者の人格や精神に多大な影響を及ぼすとされ公式的には固く禁じられている捜査方法である。しかしこれは完全に非公式な捜査、何をしようが表向きには何も無い。


「それが、既に精神介入を使用してこの結果です。詳しくはこちらの方に」


部下から端末を受け取り報告文を読む。そしてある程度読み進めた瞬間、自分の中で何かが切れた。気づいた時には既に机の上には割れた端末が転がっていた。


「……課長?」


「こいつらはトカゲの尻尾だ。おそらく機密情報は知るまい。唯一、望みがあるとすればNo.2のリアスだろう」


しかし拙いぞ。何の成果も得られませんでした!では話にならない。ただでさえ多額の機密費を使っている現状、組織の存在すら危ぶまれる。しかしその時別の部下が息を切らしながら部屋の中へと飛び込んできた。


「課長、朗報です!」


「何だ!」


飛び込んできた部下は一旦深呼吸をして呼吸を整えた後、嬉しそうに報告を始めた。


「リアスが情報を吐きました。これをご覧ください」


部下が手渡してきた端末を受け取り、ファイルを開く。そこには様々な人物の名前や所属組織などの情報があった。


「……内通者のリストか?」


「はい」


さらにページをスライドさせながら目を通す。思いの外、量が多いのが気になる。


「……少し待て、さすがにこの量を処理するには大統領の許可がいる」


「わかりました。ですが監視は付けますが宜しいですね?」


「当たり前だ。逃亡しようとするのであれば秘密裏に逮捕して構わん。抵抗するようならば殺してもいい」


「了解です。ではその様に」


そう言い残すとその部下は捜査室を出て行く。これで少しは時間が稼げるはずだ。


「私は大統領のところに行く。君は引き続き情報の精査を行ってくれ。詳しくはこのメモリーの中にある」


「わかりました」


メモリーを部下に手渡すとその足で機密指揮センターへと向かう。しかしその足取りは、お世辞にも軽いとは言えなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


同日

機密指揮センター

スチュアート大統領


「……で?国連直轄省庁だけでもこれだけの内通者がいると?」


受け取ったデータを見た瞬間、思わず自分の目を疑ってしまった。軽く50人は超えており、中にはそれなりに重要な役職に就く者も含まれているのだ。いや、大臣クラスにいなかっただけマシなのか……。


「はい。つきましてはこれら不穏分子の排除の許可を」


顔を上げてオルトの方を見ると目が本気(マジ)である。排除とは即ち、極秘裏での拘束、もしくは殺害であろう。一気にこれだけの逮捕者を出すとなると内部に動揺が走る。かと言ってこのまま放置するのは論外である。どうしたものか…。


「大統領、残念ながら既に反乱は軍部にまで及び、市民にも認知されています。少なくとも国連トップは反乱者を排除した一枚岩である事を示すべきです」


ここで安全保障大臣からもオルトを支持する意見が来る。確かにそうだ。歴史上類を見ない国難に置いてトップがこれでは民草も安心できんな。


「……そうだな。よし、早急に組織の健全化を図るように」


「わかりました」


オルトは無表情のまま一礼をすると傍にいた部下になにやら耳打ちをする。軽く頷いた部下はこちらに向かい一礼をした後、早足で指揮センターを退出して行く。


「それから安全保障大臣、離反した部隊の詳細は掴んでいるか?」


「はい。こちらをご覧ください」


安全保障大臣はそう言うと前面にあるスクリーンに地球周辺の地図を映し出す。


「反乱が確認されたのは陸軍第33師団、34師団、38師団の計3個師団と本星防衛艦隊の一部です。34師団の方は隣接地区に駐屯していた第8師団並びに第3航空団により殲滅、残りも降伏してます。しかし残りの2個師団は奪取されたチベット地下都市に籠城中です」


そのように説明を行いながら地図を拡大する。それを見ると第8師団の駐屯地区は中国南部であり、北部に駐屯していた第33、34両師団は第8師団と戦闘を行いながら内陸部を南下、チベットへ侵入しているようだ。ラーシルク教信者に初動を妨害された第8師団はチベットへ向かう反乱軍の殲滅に失敗、そして今に至る。さらにインド北部に駐屯していた第38師団もチベットへと移動している。現在はこれを追って第8師団が北東部より、第9師団が南部から包囲をかけている状況だ。さらに第338旅団が西部から駆けつけている。


「その他の地区は?」


すると今度は中東付近が拡大される。ここでは正規軍の反乱は起こっていないが21世紀の第5次中東戦争以来、地球上では比較的不安定なままである。


「この地域では本格的な武装組織による蜂起は無かったものの、非武装の反体制派市民がデモ……、いや、暴動を行っています。それゆえ使用できる武器も限られ、警察と協力して鎮圧と首謀者の確保を行っています」


そう言いながら安全保障大臣はちらりと内務大臣の方を見る。それを受けて内務大臣も報告を始める。


「安全保障大臣の言われる通り、周辺の機動隊を全て投入して鎮圧を図っていますが何分数が多すぎまして。また、中国でも南下してきた反乱軍との間に小競り合いが発生、少数ながらも死傷者がでています」


「そうか……。すまないが警察や陸軍にはさらに負担をかけることになりそうだ」


「わかっています。それが彼らの、我々の使命ですから」


軽く答える2人であったが、その目にはしっかりとした決意が見られる。


「ところで安全保障大臣、宇宙軍から反乱した艦隊は?」


ここで情報大臣が疑問を呈する。確かに地上の反乱に気を取られ過ぎてうっかり失念していたが、そちらも大問題である。


「そちらも集計が終わっております」


安全保障大臣はそう言うとスクリーンに情報を映し出しながら説明を始める。


「以前に速報でお伝えした通り、月基地にて反乱を行った艦隊は離反しなかった艦に攻撃を加えた後にチベット基地へと逃げ込んでおります。規模は重巡3隻、軽巡5隻、駆逐艦18隻、警備艇33隻です」


「多いな。ドローンコマンドで削ったのではなかったのか?」


思わぬ数字にそう聞き返すも、安全保障大臣から帰ってきた返答はあまり聞きたくないものであった。


「削った上でこの数字です」


この言葉に指揮センター内部が重い空気に包まれる。しばらく沈黙が続いた後、場を取り直すように安全保障大臣が説明を付け加える。


「ですが未離反の艦艇のうち、各コロニーに停泊していた艦や定期哨戒、訓練等で基地を離れていた艦は無傷です。現在はそれらを統合し臨時部隊を編成、チベット上空の封鎖に当たっています」


「その臨時部隊の規模は?」


「重巡1隻を旗艦に軽巡4隻、駆逐艦17隻、警備艇27隻です。さらにこれに加えて各戦闘衛星がありますので戦力的にはほぼ五分です」


「と言うことは内惑星艦隊が帰還するまでは何とかなりそうだな?」


「はい」


ならば良かった。制宙権を奪われたら優勢な地上戦すら覆されかねない。


「あと問題なのは……」


「地下都市です」


ここで思わぬところからツッコミが来た。そう、農林水産大臣である。彼女は以前の会議以来、地下都市での食料問題解決のために奔走していた1人である。


「地下都市?それなら既に包囲をして…」


「いえ、問題はチベット地下都市が使えない事です」


その場にいた者はその言葉の意味を考え込み、次の瞬間、急激に顔が青ざめていった。そう、チベット地下都市は国連が建設している中でも最大級の物なのだ。そこが使えないとなると……。


「うーむ……、これはまずいですぞ」


内務大臣が唸る。もともと地下都市計画は内務省が主導していたものだが、この一連の騒動ですっかり失念していたようだ。


「内務大臣、他の地下都市で分散受け入れは出来ないのかね?」


「詳しく調べてみない事にはなんとも…」


「現状ではほぼ不可能です」


返答に詰まる内務大臣の声に被せて農林水産大臣が凛とした声で答える。


「どうしてかね?」


「農林水産省では作成した食料確保計画に基づいて既に長期保存食の搬入を進めていました。そして既に15億人が5年食いつなげるだけの量をチベットに搬入しております」


思わぬ問題に思わず頭を抱え込む。よりにもよって最大級の拠点に来なくても……と言うのが正直な気持ちだ。


「15億人……か。他に分散して収容できたとしても食料が足らんか」


「1日2食で配給制ならば何とか…」


「無理だな、閉じ込めた上配給制では暴動必至だ」


再び重い空気が支配する指揮センターだったが、さすがに今度ばかりはここで悩んでいても仕方がないので各々は安全が確保されたのを確認した後、各省庁へと戻り各種対策に奔走するのであった。




なにやら地球上での話が続いておりますが、次回(もしくは次次回)より舞台は宇宙へと戻る予定です。

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