表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/28

突入

長らく間を空けてしまって申し訳ありませんでした。本日より再開いたします。

登録番号:001275


名称:ラーシルク教


教祖:ヴェルダン・スターク


総本山:名目上はニューヨーク、実質的な本部は不明


信者数:135,280,000人 内過激思想者750,000人程度と推測


種別:新興宗教


概要:23世紀初頭より頭角を現してきた新興宗教である。全知的生物の平和的共存を訴え、クライスラル帝国の受け入れ並びに共存を主張する団体。起源は不明であり、特に上層部が謎に包まれている。ここ数十年に及ぶ平和的期間に躍進した平和団体や、クライスラル帝国の侵攻に恐怖する人々の指示を取り込み急速に勢力を拡大、信者数は既に1億人を突破していることが確認されている。大半の信者は非武装非暴力を訴えているが、支持団体の中に過激派暴力団や武装組織を複数擁する点は見逃せない。第二級要監視対象の一つでもある。


追記:2201年11月1日を持って第一級要監視対象に引き上げ


〜統合情報局宗教課 第3類機密事項 各宗教概略冊子より〜


2202年 11月26日

情報部特殊部隊

チームオメガ 部隊長 霧崎 健二



大自然がもたらす静寂と闇が辺りを包み込む中、よく目を凝らして見るとその闇の中に蠢く影が一つ二つと確認できた。彼らは情報部所属の特殊捜査部隊。通称ISIUと呼ばれている。その任務は敵性組織の内偵や潜入調査、さらには実力行使までと幅広い。その彼らが現在潜入しているのはラーシルク教の秘密アジトの一つである。既に陸軍の特殊部隊も含めて複数の部隊が展開しており突入のタイミングを伺っている。また他の判明している拠点にも部隊が展開しており、全世界でタイミングを合わせての同時突入に備えている。ちなみに今回の作戦では、内務省管轄の警察特殊部隊は動いていない。情報漏れを恐れた第九課の根回しによりそもそも存在自体が機密の情報部特殊捜査部隊と普段から機密任務についており、地球上はおろか太陽系のどこにいるのかすら不明と評判を持つ国際連邦軍特殊部隊が参加している。状況、物的証拠を抑える作戦には軍が、重要参考人を抑える作戦には特殊捜査部隊が当たることとなっている。


そもそもの発端は土星宙域にて戦闘が行われる半月前であった。電波傍受に当たっていた情報部第9課が地球上から発信される暗号電波を捉えたことだ。その暗号はかなりの指向性を持つ電波で発信されており、運良くその課が運用する探査船(民間の遊覧船に偽装)が捉えたから良かったものの、普段なら決して傍受できなかったであろう代物だった。不審に思った情報部は空軍に内密に協力を依頼、発信源付近の航空偵察を行うも一帯は森林地帯で人工物は何も発見できなかった。次の発信を待つもそれ以降全く捉えられず、迷宮入りするかと思われた。しかし状況は思わぬ方向から進展する。以前より内偵が進められていた各省庁で摘発された不穏分子に極秘裏に精神介入捜査を行って情報を引き出したところ、思いもよらぬ計画が明らかになったのだ。


その計画とはラーシルク教徒による地球全土での一斉蜂起と言うものだった。これに驚愕した情報部第9課はさらに捜査を進め、以下の情報を手に入れている。


・目的は旧先進国が主体である現在の統治体制の転覆

・クライスラル帝国人の人道的受け入れ

・期日は未定、追って通達


この情報に対し第9課は先手を打ってラーシルク教の上層部を確保、連絡網の遮断を試みるも部隊展開が終わる前に蜂起が始まってしまった。


『オメガ06よりオメガ01、侵入口の確保に成功』


『オメガ01よりオメガ06、しばし待機だ』


『オメガ06了解』


骨伝導イヤホンを通じて部下から配置完了との報告が来る。さらにその情報は手元の端末で集約されゴーグル内に映し出される。


(これで全ての部隊が配置完了だな。あとは行動開始時刻まで待機だな)


しばらくの間待機する事になったので、一昨日に行われたブリーフィングの内容を再度頭の中で反芻する事にした。


今回の作戦目的はこの拠点に居ることが確認されているラーシルク教の実質的なNo.1、ヴェルダン・スタークの確保もしくは排除であり、時間が無いなりにも3つの作戦計画が建てられてた。プランAは敵拠点に秘密裏に侵入、警備を無力化しターゲットを死なせずに確保する事だ。このプランの場合はターゲットに接触するまで見つからずに行く必要があるため高度な技量が要求されるが、その点は我々ISIUにかかれば問題ない。むしろ問題なのは事前準備期間が無きに等しかった事だろう。それに対してプランBは侵入後に見つかった場合に発動され、ターゲットの逃亡を阻止することが第一目標となる。そのためプランBではターゲットの殺害も視野に入れつつ行動することとなる。さらにプランCでは何らかのミスで侵入前に見つかった場合に発動される。この場合は付近に展開している班はすぐに撤収。その後、空中待機している空軍の爆撃機がバンカーバスターを用いた爆撃で施設もろとも周辺を更地にする予定である。

いずれの場合でもターゲットの無力化が目的となっているが、作戦後に得られる情報のことを考えるとプランAがベストととなる。特にラーシルク教内部のスパイによるとラーシルク教上層部がなんらかの秘密通信を行っており、クライスラル帝国との内通も疑われている現状、ヴェルダン・スタークの確保は重要となってくるだろう。


今作戦では既に先行チームが通気口と思しきものを発見しそこからの侵入路を確保、さらには各種探知機の無力化準備も済んでいる。作戦開始と同時に敵施設の管理コンピューターにウイルスを流し警備装置の無力化並びに各種モニターへ録画記録を流す手筈となっている。

今回は地下施設への突入のため狙撃部隊が使えないのが残念だが仕方がない。


『突入1分前』


本部からの短い通信が来る。事前調査を行っている2名と若干離れた場所でドローンの類を操作する2名を除いた14名は各々目を合わせると最終準備を始めた。作戦区域から少し離れた所で待機しているドローンを扱う隊員は既に蚊に擬した自立思考型偵察機を放ち、その映像を調べて逐一報告してくる。現場にいる隊員は身体各部に装着された各種補助装置を起動し、武器の最終点検を行う。自己診断装置、自身による点検、結果はどちらもオールグリーンだった。


『10秒前』


通気口の左右に2人づつが展開し、その中の一人が左手首に付けた端末を敵施設のネットワークに接続する。後はタッチ一つで警備システムを無力化出来る。


『作戦開始』


その音声が聞こえると同時に、端末を接続していた隊員によってウイルスが注入され、敵の警備システムをが無力化された。


「OKです」


小声で伝えてきた隊員からの報告に頷くと、すぐ様ほかの隊員にハンドサインを送る。合図を受けた隊員たちは警戒しながらも素早い動きで作動を停止した赤外線探知機の隙間を縫って潜り込み、フィルターと思しき物体の前で一旦止まる。


「どうやら新型の遮熱、防音フィルターですね。光学迷彩も併用しているようです。どうりで空中偵察でも引っかからない訳だ」


「全面が覆われてるが、侵入路は?まさか爆破する訳ではないだろうな」


「彼方にある整備用のハッチをハッキングしました。既にドローンで監視済みです」


しかし事前に調査していた隊員が指差す方向には目視では何も見えなかった。しかし今付けているゴーグルはこの様な光学迷彩をも見破ることができるためさしたる問題はなかった。案の定、対光学迷彩機能を作動させるとはっきりと入口が見えた。


「行くぞ」


音を立てないよう慎重にハッチを開けると地下に向かって伸びる巨大な通風孔の横にエレベーターシャフトと思しき縦穴が伸びており、最下層にはエレベーターらしきものが見える。ざっと見たところ深さは100m程あるだろうか。よくもまあこんな立派な施設を作ったものだ。


『最下層エレベーターホールに敵影無し』


「よし、降りるぞ」


そして本来ならばロープか何かでの懸垂降下を行うべき状況だが、ここにいる16名は何とそのままシャフトの中へ順番に飛び込んでいった。やがてシャフトの中頃で手首の装置からワイヤーを打ち出し減速を始める。体にかかる強烈な負荷も、現在身に付けているパワードスーツのおかげで何てことはない。始めにエレベーター上部に降り立った隊員は素早くワイヤーを回収、ゴンドラ上部の蓋を開け中へと侵入する。1人目が中に入ると同時に2人目が着地、先ほどの隊員と同様に中へ入る。そして16名全員が入り込むまで1分もかからなかった。


『未だエレベーターホールに敵影無し。センサーの類は確認できず』


「了解」


そして一応は警戒しながらもエレベーターの扉を開ける。情報通りエレベーターホールに敵影は無く、ただ無機質な部屋が広がっているだけだった。そしてその部屋の端に扉が確認できる。どうやら出口はあそこだけらしい。


「オメガ01よりHQ、内部への侵入に成功」


『HQよりオメガ01、施設情報を確保の後送れ』


「オメガ01了解」


「ウィルソン、管理コンピューターにアクセスしてこの施設の見取り図を引き出せ」


「了解、1分程下さい」


「手早くやれ」


ウィルソンは部屋の端にあった外部端末にすかさず駆け寄ると手持ちの端末と接続する。それと同時に他の隊員はホール内のトラップなどを制圧、すでにドア前で待機している。その間にもアクセスは順調に進み、予定より早い40秒で完了した。引き出されたデータは途中に設置してきた中継機を伝ってHQへと転送され、そこでの解析結果が送られてくる。


「データ来ました」


送られてきたデータが3D化され空中へ投影される。どうやら現在いる階層は最上層から3つ目のようだ。そして目標がいると思われるコントロールルームはここから更に3つ下の階層である。


「コントロールルームへはこのエレベーターでしか通じていません。ですがそのエレベーターには高度なセキュリティがかかっているでしょう」


「無理にこじ開けると流石にバレるだろう。どうしたものか……」


少し思案するが有効な解決策は見出せなかった。このままでは埒があかないので、ひとまず現場へ向かう事にする。


「とりあえずコントロールルームに通ずるエレベーターホールまで進もう。現物を見ないことには対策も立てれん」


「了解です」


その後も警戒しながら慎重に進んで行くが、不思議と敵の姿や警備ロボットさえも見かけなかった。


(何かが怪しい……)


そう思いつつも進んでいると、部下の一人が通信室と思しき部屋を発見した。


「隊長、これはかなりのお宝です」


「そうだな。よし、アダムズと鄭はここを調査して情報を本部に伝達してくれ。何かあれば先に脱出するんだ」


「了解です」


2人と別れた残りのメンバーは更に奥へと進んで行き、やがて目標のエレベーターホールにたどり着いた。


「セキュリティはどうだ?」


すでに端末を接続して調査に取り掛かっているウィルソンに問いかける。


「それが……かなり簡易的なものです。8桁のパスワードだけです」


「パスワードのみ?ふむ……取り敢えず解除はできるか?」


「5分ください。8桁程度ならそれで十分です」


「わかった。他の者は周囲の警戒だ」


やがて4分が経ち解除は終わったが、やはり敵は一向に現れなかった。


「……罠かもしれんが、降りないことにはわからん。先に7人だけ降りて確かめる。ギャリソン、ここを頼む」


「了解しました。お気をつけて」


「そっちもな」


そう言い終わると選抜された7人はエレベーターに乗り込み最下層を目指す。幸いな事にトラップなどは無く、すんなりと辿り着く事ができた。


6名が散開してホールを確保すると同時にギャリソンに連絡をする。30秒後、残りの7名とも合流し奥へと進む。やがて目標とするコントロールルームの前まで来た。生命反応もあるのでやはりここが本命だろう。ハンドサインで突入待機を指示する。6名が突入に備え、残りが周囲の警戒に当たる。そして3カウントの後、フラッシュバンを投げ入れ突入する。中には警備ロボットが2体いたが、すぐさま部下の正確な射撃によって無力化された。そして真ん中には反対側を向いた椅子があり、目標が座っているようだった。


「よく此処がわかったな。お前たち、警察の部隊では無いだろう」


確保するために近づこうとした瞬間、目標がいきなり話し始めた。そして先手を取られた事に驚きつつもそれに返答する。


「貴様に答える義理はない。ヴェルダン・スターク、貴様を外患誘致罪並びに内乱罪の容疑で確保する」


「外患誘致?フッ…フハハハハッ!」


「何が可笑しい!」


いきなり笑い始めたヴェルダンに対して怒鳴る。


「クックック…、いやいや。私はただ、地球を正統な支配者へと返還しようとしているだけだよ」


「正統な支配者……だと?どういう事だ!」


「まあそう焦るな。時期に貴様らにも理解できる日が来るさ。さて、私は忙しいのでこれにて失礼させてもらう」


何をふざけた事をと思いつつ部下に目配せをする。その部下は電子手錠を取り出し、確保する準備を始めた。


「残念ながら見逃すわけにはいかない。奴を確保しろ!」


その瞬間、椅子が回転しこちらを向く。するとそこには、一匹の子犬とホログラム発生装置があるのみだった。


「なっ!?」


驚きのあまり皆が絶句する。なんて事だ、奴は初めから(・・・・)ここにはいなかった(・・・・・・・・・)のだ。するとその時、傍のモニターがいきなり動き始めた。


「何事だ!」


1人の部下がモニターに駆け寄って調べる。そして直ぐに焦ったように振り返った。


「自爆装置が起動しています!手持ちの機器では解除に30分はかかります」


「タイムリミットは?」


「残り10分……」


クソッ、完全に奴の手のひらで遊ばされていたとは……。


「直ぐにここを脱出するぞ!」


目に付いためぼしい書類やメモリーなどをかき集め、急いでエレベーターへと向かう。途中でアダムズ達にも連絡し、脱出路の確保をさせた。


そして8分後、やっとの事でエレベーターシャフトを這い上がり基地から離れる。その1分後、盛大な爆発音とともに残っていた全ての情報と証拠が吹き飛んだ。残ったのは僅かな情報と通信記録、そして子犬一匹。完全に我々の敗北であった。



大きく間が空きましたが完結まで続けるつもりですので、もう少々お付き合いいただけると幸いです。


誤字脱字や矛盾等があれば遠慮なくご指摘ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ