襲撃
本当にギリギリセーフ。
前回より様々な変更点がありますので、一通り見直す事をお勧めします。
2202年11月26日
地球 国連本部
国連陸軍少尉 ジョセフ・テイラー
ワシントンD.C.近郊に駐留する国連陸軍第1師団第1連隊所属のジョセフ少尉率いる第3小隊は、戦時体制に移行した国連本部の警備を行っていた。とは言え敵は遙か宇宙の彼方、何事もないかに思われていた。だがその幻想はすでに音を立てて崩壊していた。そう、1発の銃声と爆発によって。
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「小隊長!3時方向より生体反応20及び機械反応10を検知、敵の増援です!」
「第4分隊で対処させろ!それからもう一度中隊本部に増援要請だ!」
命令を受けた第4分隊と通信士が散ってゆく。交戦が始まって早くも15分、何とか敵の初撃を防いだもののジワジワと戦線は後退。既に国連本部の正面ゲートは半包囲状態にあり、何とか火力差で持ちこたえている状況だ。敵武装集団は道路を挟んで反対側の建物を占拠し、そこを起点に攻勢を行っている。一方こちらは事前に設置してあったバリケードに隠れつつ応戦しているが、敵側が撃ち下ろす格好なのでいささか不利である。
「中隊本部より返電。『地上戦力の増派は実行中、1時間後展開予定。航空支援は至急要請中』です!」
「クソッタレ!何が1時間後だ!ここが突破されたらどうなるのか分かってんのか!」
そう叫びつつ自らも銃を構えて接近してくる敵へと撃つ。自動補正された弾丸は一直線に敵に吸い込まれてゆくが、当たりどころが悪く全てが敵の防弾プレートに弾かれた。味方になると頼もしいものだが、敵が付けていると厄介な事この上ない。
『航空支援、10秒後に到達。各員対ショック態勢』
インカムより聞こえてきたその声に反応し、小隊全員が伏せる。すると上空を3機の無人攻撃機が小型爆弾を投下しつつ通過して行く。数秒後、あたり一面で爆発が起き、敵が吹っ飛ぶのが確認できた。しかし無人攻撃機も無傷とはいかず、1機が反撃を受けて撃墜されていた。
「敵の残数5を確認。……いや、新たに15を確認!」
「ええい、また増えるのか!奴らはゴキブリか何かか!?」
1人の隊員が叫びながら銃を連射する。自動補正された弾は勿論のように全弾命中するが、一発を除き弾かれる。しかし残りの1発が防弾プレートの間をすり抜け敵に命中、無力化する。
「隊長!このままでは弾が持ちません!」
「タレットはどうした!」
「既に弾切れか破壊されてます!」
防衛戦構築のために設置していた無人の銃座は既に3つが破壊され、残りの1つも弾切れとなっていた。
「遅滞戦術に切り替えましょう!室内まで下がって防衛線の再構築を!」
「要人と非戦闘員の避難は!?」
すると通信士が手元の端末を確認し、それを見ながら報告する。
「要人はすでに避難完了、非戦闘員も9割が避難完了です。残りの1割も1分30秒後には終わる模様です!」
「よし、第3分隊は室内にて防衛線の構築。残りはここで食い止めるぞ!」
その後、数度にわたって無人攻撃機が上空を通過し敵が占拠している建物を爆撃する。寸分違わず命中した航空爆弾は見事に最上階部分を粉砕した。さらにだめ押しに機銃掃射も行われ、敵の損害を拡大する。
「よし、これで幾らか敵の圧力が減る。今のうちに内部へと後退するぞ」
やがて増援の部隊が来るまでの間、第3小隊は多数の死傷者を出しつつも入口部分の防衛に成功する。敵武装集団は増援に来た部隊により瞬く間に排除され、地球が首脳部を失うことはなんとか避けられた。
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同日
大統領府 機密指揮センター
スチュアート大統領
「なかなか、危なかったですな」
安全保障大臣の言う通り、確かに危なかった。統合情報局からの報告があと一歩遅ければ、警備部隊が不意を突かれていたら、敵の数がもっと多かったら、首脳部が全滅する可能性はいくらでもあった。
「それにしてもこの警備厳重な、言わば総本山へいきなり攻撃を仕掛けてくるとは予想外でしたな」
確かにその通りだ。今大戦をきっかけに反体制側の武装蜂起はあると睨んでいたが、まさかここに来るとは思わなかった。
「しかし奴らは、どうやってこの区域に武器を持ち込んだんだ?そんな事したらすぐに露呈するだろう?」
ワシントンD.C.は21世紀後半の国連改革により国連本部、北米州行政府、アメリカ区行政府の3組織が揃う一大政治都市となった。そのため警備体制も尋常ではなく、行政区域には許可者以外は武器弾薬はおろか、ナイフ一本も持ち込めない。街中には監視カメラのほか、未登録の人間を検知する生体センサー、武器、火薬検知システム、脅威度判定システムなど最先端の監視装置が展開されており、とてもでは無いが反乱を起こせる場所ではない。
「となるとやはり内通者がいた、と言うことですかな」
「クライスラルの内通者?だがどうやって?」
避難してきた要人連中でまたもや喧々囂々の話し合いが始まる。因みにここにいるのは大統領以下主要大臣と国連軍総司令のエドワード大将だ。そして5分が経っただろうかという時、オルトがセンターの中へ駆け込んできた。
「ご無事でしたか大統領」
「ああ、なんとかね」
実を言うと、ここに避難できたのも情報局第9課からのタレコミがあったからだ。
「では現在の状況をご説明いたします。現在世界各地で発生している反乱の首謀者はラーシルク教の教祖、ヴェルダンです」
「ちょっと待て、たかが一顧問のお前がなぜそのような事を知っている。第一ここは……」
半分唖然として聞いていた情報大臣からツッコミが入る。そう言えば大臣連中は知らなかったのだな。
「それはーー」
「私から説明しよう」
やはり本人から言うよりも、地位のある私から言った方がよさそうだ。
「彼は統合情報局第9課課長のオルト君だ」
「第9課?そんな課は存在しませんよ!」
情報局を傘下に持つ情報大臣からまたもやツッコミが入る。
「そうだ、公式にはな」
「と言いますとまさか……、いや、大統領直轄の秘密組織があるという噂は本当だったのか!」
「どういう事ですかな?いまいち話が見えてきませんが」
独り合点がいった情報大臣は良いのだが、やはり他の連中には説明が必要なようだ。
「詳しくは私から説明します。そもそもの発端は…」
やがてオルトより説明を受けた皆はその組織の歴史と役割に驚きを隠せないようであった。
「驚くのはそれ位にして、現在の状況を聞こうではないか」
「いやはや、申し訳ありません。それにしても未公開の情報がこれ程あったとは…」
「それも後だ。とにかく今は対クライスラル戦争を乗り切ることが先決だ。オルト君、始めたまえ」
「はい。ラーシルク教の武装蜂起は主に5ヶ所で発生しています。まず一ヶ所目がここ、ワシントンD.C.です。幸いなことにこちらは小規模な上、事前情報があったため被害はそれ程でもありません。2ヶ所目は中米です。こちらは現地マフィアと通じていたのか、数だけ見れば最大規模です。しかしその装備は劣悪であり、現在鎮圧に当たっている3個師団で十分でしょう」
「またマフィアの奴らか。これを機に一掃したいものだ」
中米出身の資源エネルギー大臣が吐き捨てるように呟く。確かに、麻薬売買と絡んだマフィアは20世紀末からの懸案事項だ。しかし残念ながら今はその余裕はない。
「3ヶ所目が中東です。特にシリア区を中心として反乱が起こっており、こちらも現地武装組織と何らかの繋がりがあるのか、現在調査中です。4ヶ所目はアフリカ北部ですが、こちらは規模が小さく、どうも陽動の様です」
「陽動とは言えあの地域が不安定になるのは好ましくありませんね。出来るだけ早期の鎮圧と住民の保護を優先しないと」
「目下、地中海に展開する第6艦隊並びに第2航空団も協力して鎮圧中です。こちらも早期に終息するかと」
「よかろう。それで5ヶ所目は?」
するとオルトは傍にいた随員と何か小声で話し始める。なにやら嫌な予感がするのは気のせいか。
「5ヶ所目は中国…正確には北部の方ですが」
「共産党の方か」
なるほど、共産主義復活を目論む勢力がこの戦争を機に蜂起したと。
「規模もここが最大で、一部正規軍も加担している模様です」
「正規軍がかね?どこの部隊だ!」
この言葉に驚いたエドワードが声を張り上げる。確かに実働部隊の長としては気が気では無いだろう。
「国連陸軍第33師団と第34師団です」
「その2つは確か現地人部隊だな。8師団はどうした?」
「そちらは反乱には加担していないとのことです。現在駐屯地にて交戦中、第3航空団も支援に当たっています。今の所、海空軍にて離反は確認されておりません」
しかしマズい事になった。正規軍が加担しているとなれば事態は予想以上に長引くだろう。すると今度は安全保障大臣が発言する。
「ですが月基地において一部艦隊が離反しています。内惑星艦隊は呼び戻しましたが、その前に地上の反乱軍と合流されると厄介です」
そう、土星宙域で痛烈な一撃を加え、クライスラル帝国主力艦隊に対し優勢に立っていた内惑星艦隊が急遽呼び戻された理由、それは本星防衛のために月基地に駐留していた艦隊の一部が離反したからだ。離反した艦隊は未離反の艦艇や基地施設を攻撃、周回軌道へと逃走している。これに対し月基地では残存していた無人戦闘航空団による反撃を行い、十数隻を撃沈破したものの離反艦隊の反撃により攻撃能力を損失している。
「内惑星艦隊の帰還はいつになる?」
「多めに見積もって4日、最速で来れば2日半と言ったところでしょう」
なるほど。と言うことは、それまでは現有戦力で対処しなければならない、という事か。だが4日で戻れるならば早期解決も望める。だがその時、センター内部にある通信室より新たな情報が飛び込んできた。
「チベットより緊急電!地下港と付随施設が乗っ取られたとの事です!」
前言撤回、奴らは長期戦を望むようだ。
「いささかマズイですな。やつら離反艦隊の受け入れ態勢を整えています」
「バンカーバスターか何かで破壊できないのか?」
確かに空軍がこちらにある以上、制空権を失う恐れはない。だが問題は…。
「そんな物で貫通できたら、小惑星なんて防げません。かなり頑丈に作ってあるようなので」
「だろうな」
センター内部がどんよりとした空気に包まれる。なまじ食料や物資の備蓄も多い分、立て篭もられると対処に困る。
「大統領、一つ朗報が来ました」
すると突然、無線を使って何やら連絡を取っていたオルトが話しかけてくる。
「何だね?首謀者の居場所でも分かったのかね?」
「はい。密かに展開中の密偵が奴らの総本山を見つけました。既に我々の特殊部隊が向かっています。10時間後にはさらなる朗報をお届けできるかと」
そう言うとオルトはニンマリと笑った。
この時代の地上戦というのが想像し難いので若干お茶を濁しました。すいません。