一撃
祝!2016年!明けましておめでとうございます。
さて、この作品もいよいよ中盤に差し掛かってまいりました。(なお、投稿ペースは変わらない模様)
この様な体たらくですが、今年も本作品共々よろしくお願いいたします。
2202年 11月26日
土星宙域 重巡こんごう
第3艦隊司令 小牧 誠少将
「敵前衛艦隊、有効射程に入りました。囮艦隊はポイントD2へと後退を開始します」
「ひとまずは想定通りだな」
エウロパ攻略へ向かうとみられるクライスラル帝国艦隊を迎撃すべく編成された地球連邦艦隊。
冥王星沖にて一戦交えた外惑星艦隊に加え戦力的には外惑星艦隊をはるかに上回る内惑星艦隊が合流し、UNSCの歴史の中で最大規模の艦隊となっている。
主力となるBBSは計24隻。新鋭のサウスダコタ級やヴァンガード級などに加え、熟練のながと級、アリゾナ級、中堅のビスマルク級などが主な戦力だ。現在も各州で増産が進められており、新たに26SBBやリシュリュー級、ヴィットリオ級、アイオワ級などが就役間近だが残念ながら間に合わなかった。
さすがに全戦力を一箇所に集中することはできず、エウロパやタイタン、火星ベースなどにも警戒の為ある程度の部隊を駐屯させている。しかしそれを除いても巡洋戦艦以下の艦艇は100隻を優に超えているのだ。
「敵本隊、射程まであと7分」
「各部最終点検、終了ののち報告」
艦長の号令の下、艦橋に詰めている各部署の長が無線を片手に連絡を取り始める。しかしそれもすぐに終わり副長が報告をまとめる。
「各部署異常ありません。最高の状態です」
「そうか」
艦長はそう言うとこちらへ向き報告をする。
「お聴きの通り、この艦は万全です」
「よし、第3艦隊全艦にも通達。点検ののち報告せよと」
「了解です」
すると通信士は普段使用されている通信機とは別の機器を操作し始める。そう、発光信号だ。
何故この電子機器が発達した今、発光信号などの古典的な手を使うのか。それは現在、待ち伏せを行っているため全部隊に無線封鎖が敷かれているからだ。その為各艦の意思疎通には指向性の発光信号を用いる事になっている。もちろん敵からの角度を計算し、バレないように努めている。
「『はるな』及び『あがの』より異常なしとの報告です」
「うむ」
第3艦隊は重巡が主力の第302巡航戦隊第一分隊並びに『あがの』麾下軽巡8隻が所属する第351巡航戦隊により構成されている。本来ならば全12隻が所属しているのだが、先の海戦において4隻の被害を被っているため今作戦には重巡2隻、軽巡6隻の計8隻の参加となっている。
「司令、例の物はどうします?」
参謀長が何やら意味あり気なことを聞いてくる。
「そうだな…、ここは一発士気向上と行こうではないか」
「わかりました、では用意します。」
そう言うと傍に詰めていた司令部要員に何やら耳打ちをする。司令部要員は心得たとばかりに艦橋を出て行った。
「艦長、旗流信号用意」
「旗流信号ですか?一体何と?」
艦長が怪訝そうな顔で聞いてくる。先ほどからこそこそと動いている司令部要員に疑問を抱いていたようである。
「なあに。人類の興廃、この一戦に有り、だよ」
すると艦長はハッとした顔となり、やがては心から納得したように復唱する。
「旗流信号用意!Z旗を掲げよ!」
その瞬間、艦橋に詰めている全員の気持ちが一つにまとまった。
さて、話は逸れるがZ旗とは何かわからない人もいるかもしれないなので少し解説をしておく。Z旗は本来、国際信号旗の一つである。しかし日本では日露戦争時に行われた日本海海戦によって別の意味を持つ旗として一躍有名となった。当時の連合艦隊司令長官である東郷平八郎が座乗する旗艦三笠に掲げられた旗であり、その意味は
『皇国ノ興廃此ノ一戦ニ有リ、各員一層奮励努力セヨ』
であった。
この海戦以降、日本海軍ではZ旗は特別な意味を持つようになる。太平洋戦争初頭の真珠湾攻撃においても、旗艦赤城には同様の意味を持つDG旗が掲揚されたという。
また、このZ旗。元を辿ればトラファルガー海戦におけるネルソン提督の逸話が元祖であり、その当時は
『英国は各員がその義務を尽くすことを期待する』
であった。どちらも同じような意味を持ち、今回の戦闘に合うように言い換えれば
『人類の興廃この一戦に有り、各員一層奮励努力せよ』
もしくは
「世界(地球に住む全人類となるのか)は各員がその義務を尽くすことを期待する』
となるのであろうか。どちらにせよ、日英両国の伝統でありその威光は未だ衰えることはなかった。文字通り士気は最高潮に達したという。
閑話休題。
第3艦隊にてZ旗が掲げられた頃、今作戦の総旗艦である『ながと』にも同様にZ旗が掲げられていた。
「なるほど、流石はアドミラルトーゴーの末裔だな。よし、我々も負けてられん!名だたる英国の真髄を見せてやれ!」
そしてその様子を見ていたのか、第9艦隊旗艦『ヴァンガード』にも同様にZ旗が掲げられることとなった。
この様にして士気が上がったUNSC統合艦隊は着実に敵本隊を射程に捉えようとしていた。
「敵本隊、荷電粒子砲の射程に入りました。いつでもいけます!」
遂に敵本隊を捉えることができた。囮部隊も無人艇を中心に損害を出しつつも着実と誘導している。あとは艦隊全火力を持って敵を叩くのみである。
「よーし、艦首荷電粒子砲エネルギー充填開始。今回は護衛の駆逐隊がいるとは言え個艦防衛を怠るわけにはいかん。たっぷり蓄えておけ!」
「了解!」
土星の輪の岩塊に潜んでいる統合艦隊は着実と攻撃の準備を整えていく。クライスラル艦隊は未だそれに気づいてはいなかった。そして囮艦隊が射程外に離脱した今、戦場に束の間の静寂が訪れていたが、その静寂も間なく破られようとしていた。
「司令、総旗艦より発光信号。『GMT15:35に一斉攻撃開始。各艦隊は取り決め通りの区域に当たれ』です」
本来ならばデータリンクを使用して自動で行われるが、今回は逆探知を避けてそれらも全て使用していない。
「荷電粒子砲発射用意!」
「目標仮称C1。上下角良好、左右角プラス1」
「エネルギー充填120%、いつでもいけます!」
「総員対ショック、対閃光防御。秒読み開始」
「目標完全に捉えた!」
各部署より次々と報告が入ってくる。
「発射10秒前、9、8、7…」
ここまでくれば艦隊司令の出る幕はない。しかし発射後の部隊の状況把握など、備えておくことは幾らでもある。
「3、2、1、0!」
前回の小惑星迎撃時とは比較にならないほどの数が敵艦隊へ向けて放たれる。特に戦艦クラスから放たれたものは敵大型艦であってもほぼ一撃で大破、撃沈させている。
「よし!決まった!」
「やったぞ!」
この初撃の成功により艦橋が歓喜の声に包まれる。奇襲はものの見事に成功し、各所で敵艦が大破炎上しているのが確認できる。
「まだ始まったばかりだ!気を抜くな!」
「はいっ!」
攻撃成功に沸く一同であったが、艦長から釘を刺されると皆即座に気を引き締め直す。
「エネルギーを主機に回せ!追撃に移るぞ!」
各部のスラスターが起動し、艦体の向きが変わる。これと同時にレーダーや通信、ECMなどを一斉に起動させる。もはや秘匿する意味はない。
「軽巡並びに駆逐隊、肉薄攻撃に移ります」
見ると予め突撃体制で待機していた駆逐艦が軽巡に率いられて敵艦隊へ肉薄していくのが確認できる。荷電粒子砲の奇襲により敵の陣形は大きく乱れており、反撃もまばらであった。だが、よし、いける!と誰もが確信した時、総旗艦より通信が入った。そしてそれは、完全に予想外のものであった。
「艦隊は一撃を持って敵に打撃を与えた後離脱、そこで本作戦は中止となる。内惑星艦隊は地球へ向け全速で移動、外惑星艦隊は一時離脱の後敵の監視に当たれ。以上」
さて、前々より考えていた別作品ですがもう直ぐ投稿開始したいと思います。(なお投稿ペースは相変わらずな模様)
そちらも合わせてよろしくお願いします。