挑発
ギリギリセーフ(アウト)
1日投稿に間に合わなかった…泣
2202年 11月 26日
木星宙域 戦艦ガングート
ゲオルギー・モーデル少将
「先行艦『なだかぜ』より入電。『敵艦隊、ポイントA1より50万km地点を通過。未だ動きは見られず』です」
「まだこちらは見つかってない、という事ですな」
参謀長を務めるゴルシコフが嬉しそうに呟く。だが、そんなに簡単に行くとは限らない。
「分からんぞ。規模の差から此方が動くまで様子見をしているだけかもしれんしな」
その規模についてだが、此方は所詮囮部隊。今作戦における主力武器となる荷電粒子砲を装備していない艦を中心に構成されている。
その中で主力となるのが第252打撃戦隊ことBBSガングート級4隻。そして4隻では心許ない事や、囮として効果を発揮するのか疑問視されたため、無人自立艦艇に改装された第2世代戦艦を従えている。その数18隻と見栄えは良い。しかし蓋を開けるとどうだろう、主砲は現在使用されている増幅高圧光線砲ではなく射程はあるが威力で格段と劣るフェーザー砲。一応ミサイル等の誘導兵装は換装してあるが打撃力としては微妙なところである。その為一部の艦にはある改装を行ってあるそうだ。しかしそれが活躍するのはまだ先であろう。
「まあ、何はともあれ見つかったという確証が無いと囮にもならんな。よし、全艦ステルスモード解除、出力全開で予定ポイントまで後退する。いくぞ!」
「おうッ!!」
すると今まで静寂を保っていた艦隊が一斉に動き出した。
「敵性レーダー波捕捉、見つかりました!」
先ほどよりスクリーンを睨んでいた観測員から報告が来る。
「構わん!予定通りだ。それより敵艦隊の針路は?」
「依然方位角変わらず。……いえ、全艦がこちらへ針路を取りました!」
「よーしいい子だ。もっと引きつけろ」
冥王星沖海戦や冥王星襲撃戦により敵艦の速度はさほど高くないことが判明している。大型艦で25〜30Sknot、小型艦や警備艇でも32Sknot程しか出せないとの報告がある。そして超大型艦ともなればさらに遅いと予測されている。その点こちらはガングートの31Sknotが最低速度。後は軽巡、駆逐艦なので問題はない。無人艦も余計な装備を下ろし、居住区画を全撤去してエンジンを増設した結果、33〜34Sknotを発揮できるようになっている。
「まずは戦いの機先を制する。全艦砲雷撃戦用意」
「無人艇1番から4番、所定の位置に付きます」
「フェイズ1発動、ECM起動。1番から4番は牽制射撃を開始せよ」
すると艦隊最後尾の四隅に展開した無人艇は後部主砲を総動員し攻撃を始める。ほぼ射程一杯での射撃のため命中率は低い。最も、当たったところであまりダメージは期待できないが。
「敵艦にダメージ認められず。依然としてこちらを追尾中です」
「まあ予想通りだ。よし、フェイズ2始動」
「了解しました。5番から10番までミサイル斉射します」
すると今までは陣形中央部にて待機していた6隻から28発ずつ、計168発のミサイルが放たれる。それだけでは無い。直ぐに第二射が放たれた。飛行を続けたミサイルは敵艦隊を四方から包み込むような形で飛んで行く。
また、フェーザー砲を撃ち続けていた1番から4番艦は何故かその射撃が不正確になっていった。今まで三分の一近くが命中していたのだが、それが逸れるようになり今では十分の一も命中していない。これは意図的に敵の陣形周囲に弾幕を形成し、直進させようとするものだった。クライスラル人がどうかは分からないが、我々と似たメンタリティを持つならば例えダメージが少ないと言えど、自ら弾幕に突っ込むようなことはしないだろう、という予測の元での行動だった。
「敵艦隊より迎撃、第1波の9割が迎撃されました!」
「構わん、その為の改装だ。撃ち続けて敵の迎撃能力を飽和させろ!」
その為の改装、と言うのは5番から10番艦のことである。これらの艦は主砲塔を全て下ろし、積載量ギリギリまでミサイルを搭載している、言わばミサイルキャリアーだ。各艦に発射機28門、予備弾数は600を超える。それが6隻なので、全体では3600発以上のミサイルを撃つことができる。
「第1波壊滅、第2波も既に半数が落とされました」
「奴らも中々やりますなぁ」
戦況を見守っていたゴルシコフがからかう様に呟く。相変わらず危機感というか緊張感が足りないが、実戦となると案外そちらの方が良いのかもしれない、とテキパキと新たな指示を出していくゴルシコフを見ながら思う。
「第3波突入開始」
「……ん?」
第3波も半数が迎撃された頃、スクリーンを見ていた観測員が首を傾げた。
「司令、敵の迎撃地点に変化が現れました」
「何?思ったより早いな」
「第1波迎撃地点よりもかなり内側に寄りつつあります」
迎撃地点がより敵艦隊へ近づいた、という事は即ち敵の迎撃能力が飽和しかかっている証拠だ。
「チャンスだ、畳み掛けろ。巡航戦隊にも発射を命令」
すると数秒後、今まで沈黙を保っていた8隻の軽巡と16隻の駆逐艦からもミサイルが放たれ始めた。軽巡からは各艦14発、駆逐艦からは8発が放たれる。その数計240発、無人艇と合わせると400発以上。圧倒的だ。
「第4波、巡航を開始します。予想到達時間約1分後」
すると敵艦隊からはその膨大な数に慌てたのか狂ったように迎撃レーザーが撃ち出される。そして次々と迎撃されるが、遂に命中弾が出た。
「第4波が突入を開始、命中2を確認!」
無人艇から放たれたミサイルはその圧倒的な数を持ってして敵艦隊へとダメージを与えることに成功した。冥王星沖でもそうであったが、敵には実弾兵器が無いらしい。その為、ミサイル迎撃が思うようにできていなかった。そして今回もそうであった。圧倒的な数により飽和状態に陥った敵の迎撃網をすり抜け2発のミサイルが着弾する。共に陣形最外殻を航行していた小型艦だった為、一撃にて戦闘能力を損失した。この戦い、ひとまず先手は地球側が取った形となった。たが、敵艦隊も負けてはいない。二隻の損害など物ともせずこちらへ迫りつつある。本来なら余裕で振り切れるのだが今回は作戦の都合上、艦隊基準速力が24Sknotに設定されていた。それ故、徐々にだが敵艦隊との距離も迫っている。この分ではもう時期敵の射程に入るだろう。
「そろそろ潮時か。『なだかぜ』の位置は?」
事前に艦隊より分派され先行偵察を行っていたしまかぜ型偵察駆逐艦の『なだかぜ』は、持ち前の41Sknotという高速で艦隊へと合流すべく移動していた。
「後3分程で合流できる見込みです」
「よし、フェイズ3始動。魔法使いの婆さんの置き土産をプレゼントしてやろう」
「了解、11番から16番まで展開」
すると最後まで黙っていた6隻が陣形最後尾に六角形に展開する。
「敵艦の予想有効射程圏内まで30秒を切りました。…敵艦艦首に高エネルギー反応!敵弾来ます!」
その瞬間、敵艦隊の最前列の艦が発砲を始めた。幸い、最大射程だったのか命中したものは無かったが、それでもピンチなことには変わりはない。
「しまったな、見積もりが甘かった。敵艦隊との距離は!?」
「凡そ12万kmです!こちらの射程まで後1万5千」
しかし、そのようなやり取りをしている間にも敵の第2射があり、遂に被弾した艦が出た。
「無人艇5番被弾!速力急速に低下、落後します」
艦後部に被弾した5番艦は機関室をやられ、推進力を失った。そして艦隊から落後したところに集中砲火を受け、遂には爆沈してしまった。
「ええい、仕方がない。少し早いがずらかるぞ!最後のミサイル斉射の時に例の物をばら撒いて離脱だ」
爆沈した5番艦を除く5隻からまたもやミサイルが放たれる。それと同時に六角形に布陣した6隻からあるものがばら撒かれた。そう、機雷である。本来なら広大な宇宙空間でこの様な待ち伏せ兵器は役に立たない。しかし、今回の様な特殊な場合には通用する。
今回積んできた機雷は炸薬量3.5t、赤外線探知により半径5kmのエンジン噴射熱に反応して指向性を持って爆発する。さらにはその大きさとステルス性を組み合わせることでレーダーによる被探知を極力避けることができる。そして案の定、逃げる国連艦隊の追跡に躍起になっている敵艦隊は機雷原に気づかずに突っ込んだ。
「何だありゃ、アホ丸出しだな」
仕掛けた本人が言うのもなんだが、あそこまで見事に引っかかるとは想像していなかった。
「今頃敵さん顔真っ赤でしょうなあ。あんな古典的な兵器にやられるとは」
側に立つゴルシコフもやや呆れ顔で呟く。
機雷原に突っ込んだ敵艦隊は次々と被弾、落後していく。慌てて速度を落とし、レーザーにて除去を行っているのがスクリーンを通じて伺えた。そしてその姿がなんとも滑稽で艦橋が笑いに包まれる。
「よーし、全艦最大戦速!後は打ち合わせ通りに離脱だ」
「了解、通達します!」
すると艦隊は各々に加速を始め、バラバラの速度で逃げ出す。速度の速い駆逐艦は既に36Sknotで逃走しているため、31Sknotの本艦とは30秒近く経った今、2万Km近い差が生まれている。これらの行動は一見、一撃爆沈に恐れをなしたように見えるが、これも挑発行動の一環だった。
「いいぞ、このまま引き離してやろう」
「奴ら、顔真っ赤になって追っかけてくるのが想像できますな」
しかし、無駄話をしているほど甘くはなかった。
「敵艦二、機雷原を突破して向かってきます!」
「何っ?艦種は!」
「小型艦です!距離13万5千Km、さらに近づく!」
「ちいッ、後部主砲迎撃用意!」
機雷原を突破した小型艦は34Sknotでこちらを追いかけてくる。その差約3Sknot、敵の射程まではすぐに詰められてしまう。
「敵艦艦首に高エネルギー反応!来ます!」
「急速回避!」
艦長の号令一下、間一髪の間合いで躱す。たが、こちらはまだ射程圏外であった。このままでは一方的な攻撃に晒されてしまう。それならばいっその事、刺し違えてでもこの2隻を沈めて後の3隻を逃がすのがベストか。
などと思い悩んでいた時、敵の小型艦が2隻とも被弾、爆発する。そしてそれに続いて通信が入ってきた。
『騎兵隊、ただいま参上!モーデル提督、お待たせいたしました』
どうやら、敵艦2隻を仕留めたのは、監視任務から全力で戻ってきていた『なだかぜ』だったようだ。もとより高速の突撃駆逐艦として設計された為、偵察艦とは思えないほどの戦闘力を誇る」
「小林か、遅いぞ」
そうは言いつつも笑って返事をする。
「残りの敵艦は未だに機雷原で足止めを食らっています。今のうちに急ぎましょう」
「殿は任せておけ。こう見えても……」
「撤退戦の名手、でしたね。了解しました!駆逐艦なだかぜ、お先に失礼します」
そう言うが否や、艦のすぐ横を猛スピードで突っ切ってゆく艦が見えた。
「司令、エドワルド閣下と島崎提督への打電は?」
「おお、忘れておった!通信士、すぐに打電だ」
そしてその10分後、艦橋の窓からは土星を視認することができた。敵艦隊は機雷原での遅れを取り戻しつつこちらへ一直線で向かってきている。ポイントA1まではもう直ぐであった。
これからの更新ペースですが、今までのように月1で進めるか少し短めで月2にするか迷っています。何かご意見があればお聞かせください。
それと新連載はやっと1話ができました。もう少し書き溜めしたいのでお待ちください。