エウロパ基地
2202年 9月
エウロパ基地
外惑星方面司令 ラングスドルフ大将
「荷電粒子砲命中、3つの岩塊に分裂しました」
木星宙域で小惑星の迎撃に当たっていた外惑星艦隊による攻撃で小惑星の分断に成功したのだ。
「よし、ADM-3発射用意」
「了解。最終ロック解除、格納壁オープン」
エウロパ基地は国連宇宙軍にとって外惑星帯での中核基地として設営された。その為、2198年の国連宇宙軍拡張政策の一環で防衛能力並びに基地そのものの耐久性が強化されることになり、ミサイルやエネルギー兵器の直撃のみならず核爆発にも耐えられるように地中深くに移設された。ミサイルサイロも例外ではなく、特に重要度が高い大型ミサイルは格納庫もかなり頑丈に作られている。逆に迎撃用の小型ミサイル、迎撃レーザー砲などは地表のVLSや衛星に搭載され、即座に対応できるようになっている。そのサイロを覆っていた格納扉が開かれミサイル本体が見えた。ADM-3は2段式のミサイルになっており全長は28m。発射後ある程度加速しエウロパの重力圏を離脱すると一段目を分離、さらに加速する。そして小惑星の内部に突入、そこで起爆し内部から破壊することができる。現在までにアステロイドベルトにある大小様々な小惑星を利用し実験を行い99.86%まで撃破成功率を高めている。
「発射10秒前。……5、4、3、2、1、0。ファイア!」
指揮センターにあるスクリーンに炎を吹き上げながら上昇していく3発のミサイルが映し出される。3発とも問題なく発射できたようだ。
「木星重力圏離脱まで残り5秒。…重力圏離脱、1段目分離」
「2段目メインエンジン点火、順調に加速中です」
スクリーンには順調に飛行を続けるミサイルが映し出される。
「アステロイド3の軌道変わらず。弾着まで2分を切りました」
ここまでくれば指揮センターからする操作はほぼ無い。後は命中を信じて待つばかりだ。
「ADM-3、最終突入コースに進入。各機器、データ共に異常なし!」
スクリーンには一定の軌道で徐々に接近しつつある小惑星とそれに急速に接近するミサイルの光点が映し出されている。
「命中まで5秒。4、3、2、1…!?小惑星の軌道がズレました!」
「なんだと!?どういう事だ!」
命中の報告を想像していただけにこの意外な報告に戸惑う。
「わかりません!しかし着弾の瞬間に軌道が変わってしまいミサイルがオーバーシュートしました!」
どうやらこの小惑星はただの岩塊ではなく、クライスラル帝国によって改造が施されているらしい。なんとも小癪な。
「再アプローチできそうか?」
管制官の一人に質問する。管制官は5秒ほど調べた後振り返って答える。
「かなり難しいと思われます。そもそも1度目のアプローチで突入用補助ロケットを使い果たしていますので再度アプローチに成功しても中央部まで突入できる可能性は低いと思われます。またADM-3は改修を受けたとは言え元は戦闘用のミサイルではありません。あの様な軌道を取られると命中率がかなり落ちると思われます」
「という事はもう一度撃つ必要がある訳だが、あの軌道をなんとかしないといけないのだな?」
「はい」
しばし考え込む。まさか小惑星本体に手を加えて撃ってくるとは考えていなかっただけに対策が直ぐに出てこない。
「あの小惑星はどの様に軌道変更をしているかわかるか?」
側で見守っていた幹部の一人が管制官に聞く。
「少々お待ちください。……ではこの映像をご覧下さい」
そう言うと側面にある中型のスクリーンにミサイル命中の10秒前からの映像が映し出される。しかし等速での再生ではよくわからない。
「問題は着弾の瞬間です。着弾3秒前からスローで流すのでもう一度どうぞ」
今度はわかった。着弾の一瞬前、小惑星から姿勢制御用と見られる小規模な噴射が確認できた。
「なるほど。小型の姿勢制御エンジンを積んでいるのだな?」
「はい。それと内部にレーダーを備えている可能性もありますが…、これはあまり関係ないでしょう。取り敢えずはこのエンジンを破壊すれば問題は解決です」
「なるほど。ではエンジンを破壊する方法だが、主力艦艇が出払っている今、方法は少ない。何か案はあるか?」
すると1人の幹部が少し考えた上で手を挙げる。
「この間配備された戦闘機隊を使ってはいかがでしょう。戦闘機ならば速度は申し分ありません。彼らも出撃の機会がなくぼやいていましたし」
「その…、なんだ。、戦闘機の搭載火力で破壊できるのか?」
もう一人の幹部が素朴な疑問を投げかける。確かに戦闘機にはミサイルの他に固定武装としてレーザー砲が3門付いているだけだ。
「別に小惑星本体を破壊する訳ではありませんしエンジンである以上露出している部分が必ずあるはずです。そこを狙えば大丈夫でしょう」
「よし、では戦闘機隊に出撃を命じる。それと国連宇宙軍本部、内惑星艦隊司令部並びに本星防衛艦隊司令部にもこの事実を通達、万が一に備え外惑星艦隊も呼び戻してくれ」
「了解!」