準備
投稿が遅れて非常に申し訳ありません。今後も暫く不定期が続くと思われます。ご了承下さい。
2202年 9月6日 GMT 03:05
エウロパ基地 司令室
外惑星方面司令 エーリッヒ フォン ラングスドルフ大将
「冥王星観測ステーションより信号です。パターンB1、地球衝突軌道の物体が接近中!」
通信士が緊張した声で報告してくる。パターンB1、それは地球衝突の可能性が非常に高い物体が急速接近中である、という事を表している。
「衝突の可能性は?」
「このままの軌道ですと……98.6%の確率で衝突します!」
「すぐに詳細なデータを地球に送れ。それから総員に通達、第2級戦闘配備だ!」
「了解」
この一声に司令室にいる各スタッフが一斉に動き始める。通信回線を開き地球へ交信する者、画面と向き合いデータを出そうとする者。それぞれが己の任務を全うしようと努力している。
「それから各主要スタッフを会議室に集めろ。10分後に対策会議を始める」
あれこれと部下に指示を出し、情報を確認しているうちに地球との通信が始まった。例のごとくタイムラグは無い。
「エウロパ基地、報告は受け取った。しかし何故これ程接近されるまで気づかなかったのだ?」
少々やつれ気味の安全保障副大臣が出てくる。大臣が出てこないということは会議中なのだろう。
「それは現在調査中です。しかしこれは明らかに人為的に発射されたものでしょう」
「人為的に?クライスラル帝国がか?」
「はい。恐らく太陽系外周にある小惑星帯から発射されたものでしょう。なんらかの方法で小惑星を地球衝突軌道に乗せたものと思われます。それならばここまで探知出来なかった理由も説明が付きます」
副大臣か一呼吸置く。少々の沈黙の後、返答がくる。
「取り敢えずただの小惑星ならば計画通りの迎撃を行う。詳細は追って送る。それとその方法とやらの調査も進めるのだ。憶測で物事を進めてはいかん。必ず裏付けを取れ。必要な機材等があればすぐに要請するように。では健闘を祈る」
「はっ!」
通信を終えすぐに向き直る。やる事は沢山ある。
「小惑星の質量と速度から破壊に必要なエネルギーを算出しろ。直ぐにだ」
「了解!」
分析官などがすぐに取り掛かる。これまでも平時における外惑星艦隊の主任務の一つとして地球衝突軌道にある隕石や彗星の軌道修正、撃破がある。その為、必要機材やデータはかなり揃っているのだ。
「司令、主要スタッフ全員揃いました」
「よしわかった、直ぐに向かう」
司令室を出て会議室へと向かう。会議室には既に会議が始められるように準備が整っていた。
席に着くとすぐに話し始める。時間は有限だ。
「オルデン中将、艦隊の方はどうだ?」
「はい、迎撃に使えそうなのは巡洋戦艦5隻と重巡洋艦5隻です。その他は既にドック入りさせてしまいました」
「ふむ、10隻だと少々心許ないな。ADM-3の方は?」
ADM-3とは小惑星破壊ミサイルの事であり5年ほど前から配備が始まっている。従来の1型、2型と違い、3型はいざとなれば対艦攻撃にも使用することが可能である。
「ただいま準備中です。あと2時間ほどで完了するでしょう」
「よし、艦艇による攻撃で撃ち漏らした場合はそれも使う。抜かりなく準備しておけ」
「はいっ!」
若手の幹部が答える。正面を向き一呼吸置いた後、皆を見回す。本題はこれからだ。
「さて、問題なのがこれがクライスラル帝国によるものなのかどうかだ。証拠を固めるには偵察を送らねばならんが……何か妙案はあるか?」
「無人機での偵察ではダメなのですか?」
1人の幹部が質問する。これならば人的損害もなく、もっともな意見だろう。
「しかし、現在配備されている無人機の航続距離と速度では偵察前に捕捉、撃破されてしまう可能性が高いぞ?数で攻めるになとても配備数が圧倒的に足りん」
オルデンが答える。確かに今ある無人機は全部で36機。速度も最高で30Sノットで速いとは言えず航続距離も海王星から冥王星ほどだ。到底足りない。
「そうなると有人艦艇で行くしかないが……。ただでさえ小惑星迎撃に艦艇が割かれるというのにこれ以上どうする?しかもこれ以上撃破されるわけにはいかんぞ」
その時、1人の古参幹部が発言した。
「司令、ハイブリッドでいきましょう」
「ハイブリッド?どう言うとこだ」
「有人艦艇1隻か2隻ほどに無人機を搭載して可能な限り太陽系外周まで近づきます」
「そこで無人機を放つ、と?」
「はい。それならば航続距離の問題は解決します」
確かにこれは使えるかもしれん。だが問題なのはそれに使う有人艦艇だ。
「少なくとも軽巡クラスでないと航続距離が足りないが……。そんなに足の速い船あったか?」
「外惑星艦隊にはありません。というか軽巡は量産を意識しているのであまり艦種がないですし……」
確かに、国連宇宙軍では中〜小型艦艇は量産を意識した作りになっている。それ故バリエーションも少なくまとめられているのだ。
「何か考えがあるんだろうな?」
発案者の幹部に聞く。幹部はもちろん、といった顔で答える。
「確かに、軽巡では速度が足りません。しかし丁度御誂え向きの船があります。日本のしまかぜ級です」
「なるほど、あれがあったか。確かにあの船なら適任だろう」
ああ!という風にオルデンも同意する。その他の者はいまいちピンと来ていないようだ。
「しまかぜ?初めて聞く名だが、どういう船なのだ?」
「はい。しまかぜは日本が独自に開発、造船した船です。定義上駆逐艦に分類されていますが、航続距離は軽巡並みで、何より最高速度が41Sノットという高速艦です」
「41Sノット!?並みの船がリミッター解除しても追いつけんぞ。そんな船があったのか」
「知らないのも無理はありません。この間やっと実戦配備されたばかりですからね。しかも配備は4隻で打ち切られるようです」
「何故だ?これほどの高性能艦なのに勿体無いではないか」
他の者もうんうんと頷く。理由を知っているのかオルデンが古参幹部に説明するように促す。
「この船、高速性能を追求し実現したのは良いのですが、そのせいで船の大きさの割に武装が貧弱なのと複雑な機構により量産がかなり困難との事で」
「なるほど、そういう理由か。しかし偵察艦としては使えるのでは?」
「はい。ですから今度の任務でも活躍してくれるでしょう」
「よし、早速地球に連絡を取れ。しまかぜ級を此方へ回してくれるように交渉する。それでは一時解散」
席を立ち上がり指令室へと向かう。他の者も立ち上がりそれぞれの持ち場へ向かう。
指令室へは私の他にオルデンと先ほどの古参幹部が付いてくる。
「通信士、統合作戦本部を呼び出してくれ」
「了解」
直ぐに回線が開かれ作戦本部の通信室が映る。
「大臣か副大臣、もしくは内惑星艦隊司令はいらっしゃるか?」
「大臣はまだ会議中です。副大臣をお呼びします」
「ああ、すぐに頼む」
統合作戦本部の通信士が別のインカムから副大臣を呼び出す。暫くして副大臣の端末からの接続があった。
「どうした。何かあったのか?」
「先ほどの小惑星の件ですが、偵察のためにしまかぜ級を此方へ回していただけないでしょうか?」
「しまかぜ?ちょっとまて」
副大臣が後ろの秘書としまかぜってなんだ?例の高速艦ですよ。ああ、あれか。などと会話をしている。
「あー、即答は出来ないが多分大丈夫だろう。元々慣熟訓練が終了したらそちらへ回す予定だったらしい」
「わかりました。お忙しいところありがとうございました」
「なに、構わんよ」
嵐の襲来のように通信が終了する。後はしまかぜが来てからだな。それまでは小惑星迎撃の準備が。忙しくなるな。