分析
遅くなり申し訳ありません。今後もなんとか週1回投稿を目指していきます。
分析
2202年 9月6日 GMT01:00
地球 安全保障省 統合作戦本部
スチュアート大統領
「大統領、先の冥王星沖海戦の詳細な報告です」
安全保障大臣の端末から情報が送られてくる。私も自分の端末を開きそれを確認する。
『冥王星沖海戦戦闘詳報
2202年 9月3日 12:00勃発
人類生存圏を侵そうと目論むクライスラル帝国との戦闘。外惑星艦隊が対処行動を行う…』
全て読んでいたら1時間はかかりそうだ。今は戦闘結果だけを見ることにする。
クライスラル帝国損害
撃沈確定
大型艦 2隻 小型艦 11隻
撃破確定
小型艦3隻
不確定
小型艦2隻
損傷
その他多数
計 撃沈破16隻確定
外惑星艦隊損害
沈没
巡洋戦艦
モナーク、グナイゼナウ
重巡洋艦
きりしま、ひえい、ピッツバーグ、コロンバス、モロトフ、カガーノヴィチ
軽巡洋艦
サンタフェ、モントピリア、タラハシー、トピカ、さかわ、みくま、アキリーズ、ダナイー、コルベルク、ヴィンセンス
大破
巡洋戦艦
サンダラー
重巡洋艦
こんごう、クインシー
軽巡洋艦
ネプチューン
その他中小破多数
計22隻被撃破
人的損害
死亡、行方不明者 752名
負傷者 134名』
「概ね速報と同じだが……、先の情報だとヴィンセンスときりしまは曳行して持って帰ると聞いたぞ?」
端末を無造作に机の上に置きながら安全保障大臣に尋ねる。
「はい、ですが思いのほか損害が大きかった上に調査船そうやが新たな敵艦隊を発見しまして……」
「ん?その情報は聞いてないぞ?」
「先ほどの情報にも記載しておりますが」
慌てて端末を拾って確認する。確かに『新たなる未確認艦隊発見、反応パターンよりクライスラル帝国艦艇と認む』と書いてあった。
「未確認艦隊を確認したためその危険性と船体の被害状況を鑑み曳行を諦め乗員救助、自沈処分の後帰投する、か。まあ仕方がないか」
机の上のコーヒーを啜り一息つくが、寝不足のあまり立ちくらみしてしまった。やはり疲労が溜まっているようだ。
「大丈夫ですか?少しお休みになられた方が良いのでは?」
傍に控えていた補佐官が心配そうに声をかけてくる。さすがに無理が祟ったようだ。
「仕方がない、そうさせてもらう。何かあったらすぐに連絡してくれ」
「わかりました」
作戦本部を出て大統領執務室へ向かう。ここならば仮眠も取れるし静かだろう。
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同日 02:30
地球 安全保障省 第2会議室
安全保障大臣
「では諸君、始めようか」
冥王星沖の戦いで辛勝した国連宇宙軍だがその被害の大きさにエウロパまで防衛線を下げられたのだ。また宇宙軍の主力武器である増幅高圧光線砲がほとんど通用しなかった(12インチ以上はある程度効果があるが)ため新たなる戦略を考えなければならなくなったのだ。
「先ずは外惑星艦隊の再編ですね。エウロパに着き次第ドック入りをさせます。被害が大きい艦は地球か火星のドックまで下げますが、エウロパ、タイタンのドックで修理可能な艦はその場で修理し、進出した内惑星艦隊と共に防衛にあたることになります」
担当の参謀が話を切り出す。この場には大臣を含め7人が半円状のテーブルに集まっている。そして半円の解放部には大型のパネルなどが設置されているほか、中央にはホログラム発生装置もある。
「エウロパに残れる戦力はどの位だ?」
「はい。現地で補修が必要なもの含めて巡洋戦艦が7隻、重巡洋艦が7隻、軽巡洋艦が19隻です」
「うーむ、小型艦の被害が大きいな。特に重巡はなんとかならないか?荷電粒子砲搭載艦は一隻でも多く欲しいところだ」
先の海戦では荷電粒子砲の存在が大きかっただけにこれが減るのは惜しい。だが担当の参謀の答えは非情なものであった。
「無理ですね。外惑星艦隊所属の重巡は16隻です。その内撃沈されたのが6隻、大破が2隻、また第3艦隊のはるなが突撃した際にリミッターを解除してしまったのでオーバーホールが必要となっています」
「やはりそうか……。ならば仕方がない」
「それよりも問題なのが攻撃方法ですよ。戦艦と巡洋戦艦はなんとか撃ち合えるとしてもそれ以下の艦艇は砲戦能力と装甲が不足しすぎて相手になりません」
確かにそうだ。冥王星沖海戦では小型艦主力の第3艦隊が接近攻撃をして戦果をあげれたものの損害もかなり大きい。相手の戦力、戦闘艦保持数が未知な現状出来るだけこちらの被害を少なくしつつ戦う方法を見つけなければならない。
「それにしても第3艦隊はよくあれだけの損害で済んだな」
「日本艦艇は古来より水雷戦が得意ですからね。第3艦隊司令もそちらの方面の方ですし」
現在、国連宇宙軍には様々な艦がある。基本設計は各艦種ごとにあるのだが、細かい艤装は各州や区に任されているため地域ごとの特色が出る。
アジアでは艤装を行っている区が日本、中華共和国、インドの3区で、全体的に攻撃力や機動力を意識した艦艇が製造されている。その為正面から殴りあう戦艦は他州と比べて少ない。特に日本は宙魚雷の改良にも力を入れており、その代表作が国連宇宙軍標準魚雷のMk.89を改良した89式宙魚雷である。
北米、南米はアメリカの影響を強く受けており、重武装、重装甲の艦が多い。艦艇の数も多く外惑星艦隊、内惑星艦隊共に主力を担っている。国連軍管轄の兵器開発局もアメリカにあり、常に最先端の武器、装備を施している。
ヨーロッパはバランスの取れた艦が多くマルチで使える。かと思いきやたまにゲテモノ兵器を開発したりする事もある。アフリカも旧宗主国のヨーロッパ諸国の影響を受けている。一区あたりの艦艇保有数はそれ程でもないが国が多いため戦力としてはかなりのものとなる。
「それでだ、次に戦う時の小型艦の役割をどうするか。第3艦隊の様に突撃させるか。それとも温存を図りつつ戦うか。どちらが良いと思う?」
「次に敵がどの位の戦力でくるかわかりませんからねえ。戦艦部隊だけで対処出来れば良いのですが」
「結局は偵察次第か。そちらの状況はどうなっている?」
1人の参謀がホログラムのスイッチを入れる。すると太陽系が冥王星軌道まで球体として浮かび上がった。
「敵の本隊と思われる大型構造物は依然として太陽系外周へ居座っています」
ホログラムの中にその大型構造物のモデルが浮かび上がる。その大型構造物は冥王星に付き添うような軌道で周回している。
「また、その周りに幾つかの艦隊が確認されておりますが規模が小さい上、定期的に入れ替えがありますのでパトロールと見てよろしいでしょう」
さらに構造物付近が拡大され、艦隊を模したものと思しきものが構造物を周回しているのが確認できた。
「なるほど。それで大規模攻勢の可能性は?」
「正直に申し上げまして時期までは推測できませんね。相手の手持ちが分からないので。ただ、もう一度大攻勢があるのは確実です。相手が地球を諦めない限り」
会議室に沈黙が訪れる。皆が地球が侵略されているという事実を噛みしめているのだ。そしてその沈黙を破ったのは会議室にいる誰でもなく、緊急を知らせるアラートだった。