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撤退

米軍がついにレーザー兵器を開発したそうで…。この物語よりも早い発展もあり得るかもしれませんね笑

2202年 9月3日 GMT 12:35

外惑星艦隊 巡洋戦艦アラスカ

外惑星艦隊司令 オルデン中将



「着弾、撃沈を確認!」


よし、これなら通じる。

爆沈する敵を尻目に呟く。国連宇宙軍が開発した新兵器、荷電粒子砲によりクライスラル帝国艦艇が吹っ飛んだのだ。


「重巡部隊は第2射に備え充填。巡戦と軽巡でこれを守る!」


荷電粒子砲はその威力と引き換えに莫大なエネルギーを必要とする。そのエネルギー充填のためエネルギー消費を抑えねばならないのだ。具体的には、メインエンジンの使用や主砲等のエネルギー兵器の使用が不可、もしくは大幅な制限を受ける。そしてその隙を守るべく巡洋戦艦と軽巡洋艦が周りを固める。


「敵艦反撃してきます!」


「電磁シールド最大展開、重巡部隊の間に割って入れ!」


電磁シールドとは荷電粒子砲と合わせて配備された新型の防御装置である。質量兵器や物理攻撃には無効だがエネルギー兵器をある程度遮断する効果がある。その装置の大きさとエネルギー消費量から外惑星艦隊では第1艦隊の巡洋戦艦4隻にしか搭載されていない。


そしてそのシールドが展開されるのとほぼ同時に敵の光線が着弾する。浅い角度で命中したためシールドによって弾くことができた。


「敵光線着弾!損害軽微」


「モントピリア被弾、轟沈です!」


自艦の被害報告と同時に艦隊の被害報告が入ってくる。すでに外惑星艦隊は全体で巡戦2隻と重巡7隻、軽巡10隻を失っている上、ほぼ全ての艦が何らかの損傷を負っている。それに対し撃沈を確認した敵艦は大型艦2隻に小型艦12隻。このままではこちらが壊滅しても敵を殲滅できない。敵の総数も不明な現状、相打ちは負けと見ておいた方が良いだろう。


「荷電粒子砲チャージ完了まであと3分!」


「友軍艦艇の状況知らせッ!」


被害状況によっては一旦撤退することも考えねばならん。だがどうやって……。


「全艦隊含め戦闘可能な艦船は巡戦7隻、重巡8隻、軽巡21隻です。その他には5隻が戦線を離脱しています」


うーむ…。損耗率がかなり高い。これは一旦引いて立て直すべきか。


「第2、第4、第5艦隊の戦況は?」


「そちらは我々の方が優勢です。やはり巡洋戦艦が2隻多いのは影響が大きいかと」


「よし、第1、第3艦隊は交戦しつつ残りの艦隊と合流。その後に一点突破で撤退に移る。重巡部隊の第2射後の混乱を突いて作戦開始だ」


「了解、伝達します」


通信士がヘッドセットに手を当て通信を始める。現在、国連軍で採用されているのは超空間通信であり、これはマーシェント理論を応用したワープの一種である。これにより艦隊同士はおろか地球とですらタイムラグ無しに通信できる画期的なものだ。


「自力航行が不可能な艦はいるか?」


参謀が手元の端末を見ながら答える。


「第3艦隊のこんごう、きりしま、ひえいが漂流中です。…いえ、ひえいは総員退艦命令が出ています」


「そうか…。では乗員の救助に軽巡を1隻向かわせろ」


「了解、アムステルダムを向かわせます」


その間にも次々と敵弾が飛んでくる。必死に回避機動を行っているが多少の被弾は避けられない。


「荷電粒子砲チャージ完了まで後1分!」


「敵の気を引け!全門斉射!」


艦体各部にある12インチ砲が唸る。火線が敵へと伸びていき着弾、爆発する。どうやら艦橋に直撃したようだ。


「敵艦1隻無力化。…ん?敵艦隊に新たな動きが!」


「なんだと?」


この状況で動くとはどういう意図が?包囲殲滅に移るのか、それと何か別の戦略が?

考えあぐねているところに新たな報告が入ってくる。


「敵艦隊反転します!?反転して撤退していきます!」


レーダー員の上ずった声が響く。艦橋要員全員が驚きの顔で振り返る。


「何だって!?測定ミスではないのか?」


機器の不調やミスを確認するも何も異常はない。これは一体…


「敵艦隊射程圏外へ離脱します。第4艦隊からも同様の報告が入ってきています」


「とりあえず深追いはするな。全艦に集合命令、漂流者の救助急げ!」


状況が変われば命令も変わる。そしてその変化についていけなければ指揮官は務まらない。


「通信士、統合作戦本部につないでくれ」


「了解」


すぐに反応があり、前部スクリーンに安全保障大臣が映し出される。


「状況はすでに把握している、良くやってくれた」


「いえ、この損害では成功とは言い難いかと」


「そんな事はない。情報がほとんど無い中で追い返すことに成功したのだ。立派な戦果だ」


「ありがとうございます。地球の為に死んでいった者たちもこれで多少は報われるでしょう」


そう言いつつも自分の指揮でこれ程の被害が出てしまったことはショックだった。


「外惑星艦隊は一度タイタン基地まで後退して戦力を立て直す。内惑星艦隊も随時そちらへ向かう事になっている。その後は追って連絡する」


「了解しました」


安全保障大臣がそう言い終わると通信が切れた。


「全艦隊へ達する。艦隊司令のオルデンだ」


ここで一呼吸置き、他の艦の接続を待つ。そして通信士の合図を見て、おもむろに話し始める。


「皆、本当によく戦ってくれた。諸君らの奮闘のおかげでクライスラル帝国による太陽系侵攻は防ぐことができた。我々はこの戦いにおいて勝ったのだ。だが油断はできない。次なる戦いへ向けて我々は大いに英気を養い再び降り注ぐであろうこの厄災へ立ち向かわなければならない」


ここでまた一呼吸置く。艦橋に詰める皆の視線が集まってくる。


「我々は祖国を、地球を守るために戦っているのだ。そして望むは平和のみ。これを忘れた時、我々は殺戮者へと変貌してしまうであろう。そこを忘れないように」


こうして国連宇宙軍の初戦は終わりを告げた。しかしあれほど強気だったクライスラル帝国がこれで諦めるとは思えない。必ず…もう一度、彼らは来るはずだ。

そう思いつつオルデン提督は外惑星艦隊と共に冥王星宙域を後にするのであった。



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