表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/28

突撃

2022年 9月3日 GMT12:10

外惑星艦隊 軽巡洋艦やはぎ

艦長 伊吹 修二1佐


「こんごう被弾!速力低下します!」


「くっ…、こっちの砲はまだダメか!?」


先ほどから艦各部にある3基の連装6インチ砲が唸りを上げているが8割方が跳ね返されダメージを与えることができない。敵艦の艦橋や主砲など構造物に当たれば損傷は与えられるものの撃沈できた艦はまだない。ミサイルもこの距離では大半が迎撃され敵艦までたどり着けていない。


「重巡部隊に続いて敵艦隊に突入する。魚雷戦用意!」


「了解、魚雷戦用意。艦首魚雷発射管、準備はいいか!」


砲雷長が復唱する。エネルギー兵器がダメだとしても、近距離からの実体弾による物理的攻撃ならば迎撃が困難なうえ弾かれることもあるまい。大型艦は無理だとしても小型艦ならば確実にダメージを与えられるはずだ。


「さかわ被弾!推力低下、落伍します」


被弾した艦後部から煙を吹き上げさかわが隊列から落伍していく。しめたとばかりに敵の攻撃が集中し爆沈してしまった。


「さかわ……爆沈」


見張り員からくる悲痛な報告に心の中で黙祷を捧げつつ機関長へ叫ぶ。


「回避機動を緩めるな!機関室、リミッター解除!」


「解除!?いいんですか!」


リミッター解除に機関長から戸惑いの声が返ってくる。


「出し惜しみしている場合か!使えるものは全て使え!」


リミッターとは普段機関にかけられているものであり、れを解除する事によりエンジン出力が2割り増しになる。しかし機関への負担が大きい為、使用後にオーバーホール、最悪の場合は交換が必要となることから今までは実験以外で使用されたことは無い。普段の訓練はすべてシュミレーターで行われているため実際に体験するのは初めてである。


「リミッター解除!エンジン全開!」


エンジンからの噴射炎が大きくなり、ドンッと加速が感じられる。視界内の敵艦隊が一気に近づくのが確認できる。


「魚雷の有効射程まで残り500!」


その時艦橋内に非常事態を知らせるアラームが鳴り響いた。


「敵射撃管制レーダーに捕まりました!」


「チャフ散布!緊急回避!」


艦橋横から銀箔のチャフが散布される。古典的な手だがそれ故効果は高い。それと同時に各部の姿勢制御エンジンを噴射させ軌道を変える。そしてそのすぐ横の銀箔の雲を緑のレーザーが通過する。正に間一髪だ。


「敵艦射程に入った!」


「1番から4番、正面の敵に向け発射!」


艦体前部よ発射管より89式宙魚雷が発射される。ブースターに点火し一気に加速をつけていく。狙われている敵艦は迎撃レーザーを四方八方に撒き散らしながら回避運動に移る。


「だが遅い!」


迎撃された1発を除いて3発が命中する。中央部に2発、後部に1発。盛大な音とともに敵艦が爆発する。


「命中!撃沈しました!」


この報告に艦橋がわあっと沸き立つ。通信士による僚艦の戦果報告も合間って興奮の渦が沸き起こる。


「まだまだぁ!次弾装填急げ!」


その時一隻の敵が旋回しこちらへ向かってきた。


「小型艦急速接近!1時の方向仰角30!」


「傾斜左30。1番3番主砲迎撃しろ!」


船体が左に30度傾くと同時に主砲が回転し照準をつける。


「撃てぇーッ!」


敵艦へと伸びていったレーザーは見事側面へ命中する。金属の破砕音とともにレーザーが貫通、内部で爆発が起こる。


「よし!」


しかしその瞬間、ドンッと艦体に衝撃が走った。


「何事だ!?」


「エンジンがオーバーヒートしそうです!これ以上の全速航行は危険です!」


機関室からの返答が来る。どうやらリミッターを解除した影響のようだ。


「後何分持つか!」


「出力100%なら5分、120%ならば2分です」


やはりリミッター解除しての長時間の戦闘機動は無理があるようだ。


「残存の友軍艦艇の状況は?」


「重巡部隊はこんごうが機関をやられ退避中、きりしまが大破漂流中。他の2隻は健在です。軽巡はのしろ、もがみ、みくまが健在、くまのが小破、あがの、すずやが中破です」


思いの外被害が大きい。ここは無理をせず第1艦隊と合流し立て直す必要がある。


「仕方ない、反転して第1艦隊に合流する」


「了解!取り舵40!」


目くらましにミサイルを撃ちその隙に反転する。やはぎの他に被弾したあがの、すずや、くまのも反転するのが見えた。


「健在艦にははるなとひえいに続くように伝達。損傷艦はやはぎと共に一足先に退避」


しかしそう言いかけた時、残っていたはるなが被弾、退避行動に入った。さらにそれを庇ったひえいに攻撃が集中、大破炎上する。


「くそっ……全艦退避だ!第1艦隊と合流して立て直す」


残っていたのしろ、もがみも続いて反転する。しかしみくまだけはそのまま突撃を続けていた。


「あいつは何を考えてる!通信士、みくまに繋げ」


「はい」


艦橋前面のスクリーンにみくまの艦橋が映し出される。


「おい菅野!どういう事だ、後退命令を出したはずだ。俺に続け!」


しかしみくま艦長の菅野は首を振って答える。


「艦隊撤退のため殿として残ります。大丈夫です、第1艦隊との合流を見届けたら直ぐに退避します」


「ダメだ。1艦で残ることがどういうことがわかってるのか?袋叩きにあうぞ」


「ここで全艦が退避に移れば被害が拡大します。それよりかは1艦に絞った方が得策です」


早い話が被害担当艦になると言っているのだ。しかし部下にその様な事をさせるわけにはいかない。


「ダメだ、その役割は旗艦が負うべきものだ」


「いえ、伊吹さん。これからの地球を考えると貴方は死んではいけない人なんです」


「それはお前もだ!何を言っている!」


声を荒げる。しかし菅野は目を伏せ答える。


「そのお言葉だけで十分です。伊吹さん、どうかお元気で。地球を頼みます!」


菅野がそう言い終わると同時に、みくまからの通信が途絶えた。


「反転180!みくまを援護する」


しかし現実は非情だった。機関長によるとこれ以上エンジンに負荷をかけると爆発の危険もあるとのことだ。さらに副長が説得に入る。


「艦長、ここで我らまでがやられますと菅野さんの覚悟が無駄になります」


「クソッ!何とかならんか」


「これを……ご覧ください」


スクリーンにみくまが映し出される。その艦体後部からはエンジンの噴射炎の代わりに黒煙が吹き出しているのが見えた。


「機関に被弾している模様です。もう姿勢制御も出来ないかと……」


頭に鈍器で殴られたような衝撃が走る。興奮のあまりこんな事にまで気づけない自分に腹が立つ。


「みくま、敵艦隊に突っ込みます」


「……進路そのままだ」


未だスクリーンにはみくまの勇姿が映っている。被弾しつつも果敢に応戦するみくまの姿が。


「みくま被弾炎上…、敵艦と衝突しました」


炎上しながら突撃していたみくまはその勢いのまま敵艦と衝突、大爆発を起こした。この強烈な爆発により敵艦隊の行き足が衰える。


「くっ…菅野……!」


そしてその時第1艦隊の方角から今までにない強烈な青白い光が放たれたのが見えた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ