005 信用
──毒カレー事件から一週間後。俺はいつの間にか両手を拘束していた縄も外されていた。
──……何故外したんだ?
俺のそんな問いに対し、彼女は真面目な表情で、
「あなたを信用したから。 ……ま、襲って来たら即座にぶっ殺すけどね。」
と後半は笑顔で──、言った。
──そして彼女と出会ってから11日程経った日の夜。
「……明日、ここを出ようと思うの。 いつまでもここにいたら、奴らがどんどん寄って来るから。」
彼女は急にそう言った。
──確かに、奴らは感染はしている俺は余程飢えていない限りは襲わない。しかし彼女は……。
「……確かに。 それが良いかもしれないな。」
俺はそう言うと、彼女は急に明るい顔になった。
「じゃ、じゃあ! これから一緒に行動しな……。」
「ダメだ。」
彼女の言葉を遮るように、俺は拒否をする。
「……ど、どうして!? 」
そう彼女は驚いた表情で俺に聞いてくる。それに対し俺は、
「俺はこうして理性を保ってはいるが"感染者"なんだ。 もしかしたらいきなり理性を失う可能性もあるし、何より他の生存者と会ったとして……俺がいたら近付いて来ないだろう……最悪、攻撃してくるかもしれない。」
そう説明した。それを聞いた彼女はさっきとは一変して暗い表情で、
「……確かに、そうだよね……。ゴメン、ワガママ言って。」
と言った。
それから少しの沈黙──……そしてそれを打ち破る様に俺は、
「……明日、ここから出るんだろ?……早く寝た方がいい。」
と言う。すると彼女は用意していた寝袋に入り、たった一言。
「……おやすみ。」
と言った。
──ギイィィィッ……。
それから二時間程経過した頃……二人とも寝静まった頃に、ゆっくりと二人の居る部屋の扉が開いた。
──カチッ、カチッ……。
そんな小さな足音を立てながら、その人影はゆっくりと女の寝袋へと近づく。
──朧げな月明かりに照らされたその人影の頭部は……鶏の様だった。
鶏男はゆっくりと女の首筋へと顔を近づけ……その細い首筋に、硬い嘴を振り下ろした。
次回予告
"彼女"に迫る危機!
"俺"はその時……何を思い、何をするのか?
次回、最終回『握手』