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ほんの少しの特異個性  作者: スケリントン
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プロローグ


――4月、春の暖かい日差しを浴びて、艶やかな桜色に染まった桜の木の下で、俺は女の子に告白をした。


「一目見たときから好きになりました!俺と・・・付き合ってください!!」


俺の心臓が高鳴る・・・

だけど、その理由は普通の人の逆の気持ちだった。


「えっ?」


いきなりの事に女の子は焦った表情を浮かべている。しかし、告白をされているからには返事も無しに立ち去ってしまうことはできない。


「えっと・・・」


女の子は自分の気持ちを確認して言葉を出そうとしている。


――頼むっ・・・


俺は返事を待つ間、心の中で必死に叫んだ。そして、数十秒の沈黙は女の子の震える声で打ち破られた。


「ごめんなさいっ」


女の子は申し訳なさそうな表情で、その無情な六文字を俺に叩きつけた。


「そっか・・・」


俺はその言葉を受けて顔を地面に向けた。

フラれた直後の顔なんて、女の子には見せたくなかった。

いや、見せられなかった。


普通だったらここで、世界の終わりを迎えたような絶望的な顔や、ショックのあまりに引きつった苦笑いを浮かべるところだろうが、今の俺の顔は安堵の表情を浮かべていた。


――これで、やっと終わったんだ。


心の中でそうつぶやき、顔を上げ、告白をした女の子に目をやると、さっきまでの焦った表情などは消えうせ、俺に対する怒りの感情が込み上げてきたのか、顔面が鬼の形相と化している。


むしろ顔だけではなく、頭からはツノが生え、女の子の後ろには紅く燃え上がる炎が見える――――――気がした。


「っていうか、道ですれ違っただけでいきなり告白するとかマジきもいんだけど!」


女の子は逆上した気持ちのありのままを俺にぶつける。


「いや、それはっ」


「はぁ~、今日は入学式だっていうのに卒業式ぐらいに悲しくなる・・・」


そんな女の子の言葉に「別に上手くねぇよ!!」と心の中で突っ込みを入れるも、すれ違っただけで告白をするということが、異常な行動だということは自分でも十分なくらい理解していた。


女の子の気持ちも分からないわけではない。分からないわけではないんだけど・・・


「あっ!あんたここら辺で噂になってる例の「告り魔」でしょ!?」


「うっ」


そんな不本意な通り名を襲名した覚えは微塵もなかったが、俺がその「告り魔」と呼ばれているのは聞いたことがある。


今までは嘘や勘違いだと思っていた・・・いや、思うようにしていたが、やはりこの辺りで俺は「告り魔」で通っているらしい。


襲名披露は死んでもやりたくはない。


「もう朝からホント最悪っ、今日学校休もうかなぁ・・・」


俺が告白したせいで、高校生活で一番重要な友達作りのイベント、登校初日を無駄にしてはいけない。


「いきなり告白したのは確かに悪いけど、学校にはちゃんと行ったほうがいいよ?」


「行くに決まってるでしょ!!なに言ってんの?この変態告り魔!!」


いつの間にか「告り魔」から「変態告り魔」に格上げされていたようです。

できることなら「清潔な人」にジョブチェンジを希望します・・・


「あぁもう電車乗り遅れちゃう!」


そういって女の子は腕時計を見ながら踵を返し俺に背を向けた。

そして少しだけ顔をこちらに向けて感動的なお別れをする。


「二度と私の前に現れないでよねっ、この「最凶変態告り魔!!」」


「なっ!?」


おみくじでも大凶までしかないのに、かってに俺を最上級のランクに位置づけて、女の子は足早に駅の方へ走っていった。


そんな女の子の後ろ姿を、俺はひとり桜の木の下で呆然と立ち尽くしながら見ていた。


「これで千回目・・・やっと・・・やっと終わった」


一人桜の木の下に残された俺は誰にも聞き取れないような小さな声でつぶやいた。

こんなのただの罰ゲームでしかなかった。でも、俺はやらなくちゃいけなかったんだ。


――――――千人に告白したらお前を認めてやるよ。


そんな言葉が聞こえた気がした・・・。しかし、あたりにはもちろん誰もいない。

千人への告白を達成したところで、それを言ったやつに認めてもらえるかはわからないが、ただ一つ言えることがある。認めてもらうことよりも、もっと大事なことを・・・


「最凶変態告り魔って・・・」


そうつぶやきながら、俺は学校にむかって歩き出した。


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