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赤迷宮に惑いて 1

 大通りを二人並んで歩いていた。周囲は相変わらず賑々しいが、どこか物々しい。

 他に類のない重罪人、真赤姫の存在と代表者達への捕縛令という事態が、常は享楽に耽る町の住人すらも恐怖を抱かせている。

 遊佐はユズリの少し後ろを歩いていた。真赤姫が遊佐の家族を殺した犯人だと告白したてから、彼はずっと黙っている。

 八卦院の営む金物屋で真赤姫の持つ刀の検証が行われたらしい。ならば直接八卦院に会えばより詳しい情報が入るかもしれない。自分はこれから八卦院の店に行くと言うと、遊佐は黙ったままユズリの後をついてきた。

 後ろに遊佐の存在を感じながら、ユズリも黙って歩く。

 遊佐とその探し人、真赤姫との間には何らかの関係があることは承知していたとはいえ、彼の口から出たその関係はあまりに残酷だった。

 こんな物騒極まりない町に出入りしていても、ユズリもまた此岸では平和に暮らす一般市民に過ぎない。殺されたなどという言葉、身近で聞いたことは一度もなかった。

 生まれて初めて聞いたその重い事実に、ユズリはどうしていいのかわからなかった。

 安易な慰めの言葉をかけるべきとは思えない。かといって、何もなかったかのように常と同じように振る舞えるほどユズリは大人じゃない。一ヶ月の間ほぼ毎日行動を共にし、他人と呼ぶには近しい存在となった相手の抱える事情を聞いて何も感じずにいられはしなかった。

 けど遊佐とて所詮は赤の他人の、探し人が見つかるまでの付き合いと思っていた相手に、下手な同調も同情もされたいわけではないだろう。

 だからユズリに出来るのはただ黙ることだった。それ以上聞くことも、余計な言葉をかけることもやめた。少なくとも、それがユズリなりの遊佐への最大限の配慮のつもりだった。

 だが気を遣おうと意識するせいか、そして遊佐はそれを鬱陶しいと感じているのか、二人の間の空気は重い。あんな話の後だから軽い空気でもそれはそれで嫌だが、普段はそれなりに気の置けない相手との間にこうした空気が漂うというのも辛い。

 背後で黙ったままの遊佐の存在を感じながら、ユズリは何とかこの空気を変えてくれるものはないかと周囲に気を配っていた。

 しかし町も今は真赤姫の話題がほとんどだ。聞こえてくる噂もどこそこの誰が被害に遭っただとか、過去に同様の罪人がいたがここまで大規模ではなかったとか、武闘派の代表者の幾人かは既に真赤姫を捕縛すべく動いているとか。

 ここまで騒ぎが大きくなると、ただ大通りを歩くだけでも少なからず情報が入ってくるのは助かる。

 そう思っていた矢先、禿げ頭に一つ目の大男と異様に長い首をもつ女の会話が耳に入って来た。

「そう言えば先刻、管理者が金物屋へ入って行ったぞ」

「金物屋ってぇと八卦院の店に? 例の辻斬りの得物(えもの)の検証のことでかねぇ」

「そうだろうな。噂じゃ管理者の此岸の刀かもしれないらしいから、自分の目で確かめようってんじゃなか」

 今日は見かけないと思っていたら、父はユズリの目的地に既にいるらしい。

 丁度いい。父に会って管理者としての見解と冥府の動向を聞いてみるとしよう。恐らく向こうももう気付いているだろうが、真赤姫は遊佐の探し人の可能性が高いとも伝えなければ。

 そして着いた八卦院の店は、「金物」と書かれた暖簾(のれん)の上に「本日休業」との札がかかっていた。

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