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泡沫ビト 6

 だが折継にはわざわざ他人に理解させようなどという親切心の持ち合わせはない。満足げに笑って真赤姫を見据える。

「さぁて。っつーわけで俺はもう少しだけ頑張るとするか。できるなら俺が狩りたいところだしな。俺がいかに有益な男か冥府に知らしめるいい機会だ」

「ちょっと! 抜け駆けするんじゃないわよ! 一人で手柄を上げようなんて許さないわ……」

 ユズリの言葉は眼前を切った一太刀によって途切れる。

「あんまり気を散らすなよ。マジでやられるぞ」

 辛うじて真赤姫の脇差を避けたユズリを横目に折継は意地悪く笑い、真赤姫を切りつける。だが真赤姫に投げつけられた時の傷が痛むのかその動きは鈍く、息も上がっている。その背中を見ればコートに薄らと血が滲んできていた。

「……そんなものじゃ足りない、御方様に頂いた着物を傷つけた罪は貴方の全身の赤で贖いなさい」

 真っ赤な唇がそう告げるなり、真赤姫は折継が向けた脇差に自ら己の左腕を貫かせた。既に着物が破れて露わになった白い二の腕を貫通する刃。

 その光景にユズリは目を剥き、折継もまた予想外の行動から一瞬動きが止まった。

 それを目にした真赤姫は赤い唇をそっと歪めた。

「これで貴方の振るえる刀はもうないわ」

 その言葉を受け、折継は瞬時に刃を引き抜こうとしたが、既に真赤姫の空いた右手に握られた赤い脇差が折継へと振り下ろされようとしていた。

「折継っ!」

 ユズリの悲鳴めいた声は一発の銃声によって掻き消された。

 真赤姫の右手から脇差が滑り落ちる。

 何が起きたのか理解できないとばかりに目を見開いた真赤姫の右肩には赤い衣を突き抜け、風穴が開いていた。

 ユズリは銃声がしたほうへと顔を向けた。

「……遊佐」

 遊佐は表情なく、真赤姫へと火縄銃を向けていた。それから立て続けに三発、発砲する。放たれた銃弾は寸分の狂いなく、真赤姫の残る左肩と左右の膝、それぞれの関節を貫いていった。

さしもの真赤姫も関節を破壊されてはその場に立っていられなかった。崩れ落ちるようにその場に座り込んだまま立ち上がれずにいるようだった。

「……これならいくらお前でももう動けないだろう」

 火縄銃を下げ、遊佐は静かな声で言った。

「もっと早くこうすべきだった……それがお前の片割れとしての俺の責任だった」

 遊佐の無表情の中に僅かに複雑な色が覗く。

 真赤姫は何とか立ち上がろうとしてはその場に崩れ落ちる。何度かそれを繰り返した後、きつく遊佐を見据えた。

「……満足? あの子供の、主の仇を討てて」

 遊佐は答えない。ただ黙って真赤姫を見下ろしている。

 その胸中がどんなものかはユズリにも折継にも見当もつかない。

 生温い風が鬼火と花弁を揺らした。

 その場に立ち尽くしていた折継は顔を上げた。

「ああ、到着だ」

「到着?」

 折継の言葉にユズリが彼の視線の先を見ると、そこには三つの人影があった。

 その一番手前はユズリもよく見知った顔だった。

「お父さん?」

 シノは相変わらず温和な表情を浮かべたままユズリと折継を見た。

「二人ともご苦労様。特に折継くんはこの場所を教えてくれて助かったよ」

「教えて?」

 シノの言葉にユズリは眉を顰めたが、すぐに折継が先程遊佐に渡して上空へ向けて撃った弾がこの場所をシノに知らせたのだと気付いた。

「遊佐君も二人を助けてくれたようだね。ありがとう」

 遊佐は答えず、シノの背後の影を見て目を(みは)った。

「……何で」

 遊佐が一歩、踏み出す。

 真赤姫が泣きそうに顔を歪めて叫ぶ。

「御方様っ!」

 シノの後ろの二つの人影が前へ出た。

 上品な老婦人と、遊佐に瓜二つの青年がそこには立っていた。

「今回の事態の収拾には彼らに来てもらうのが一番早いと思ってね。冥府からお連れしたんだよ」

 そう言ってシノは薄く笑い、遊佐智恵子と遊佐徹に目をやった。

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