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終幕のための開幕 2

「さぁ冥府がついに本腰を上げた! 既に被害者は十を超え、先日の代表者会議で代表者達に冥府からがお達しがあったそうだ! 何としても真赤姫(まあかひめ)を捕縛せよ、そのための手段は問わず、場合によっては魂の滅絶をも許可すると!」

 読売の声に周囲がざわめく。

 当然だ。

 魂の滅絶はこの町で定められた数少ない法の中でも第一級犯罪。此岸で言うなれば殺人と同じ意味だ。

この町には生も死もない。つまり死ぬことはない。

 理屈は分からないがこの町では生者も肉体ではなく死者同様、魂だけの存在となるらしい。普段は肉体の内側にある魂が町に立ち入った時だけ肉体を覆うように外側に出てくるとでも言うのだろうか。

 だからここではいくら肉体が傷を負っても致命傷にはならない。町を出て此岸に戻ればいつの間にか魂は肉体の内側に戻り、ずっと内側にあった肉体には傷一つついていないのだ。もっとも、肉体は無傷といってもそれは表面上のもので、その内側の魂は傷ついている。外科的には全く傷がないはずの肉体が魂に呼応するように痛みはする。けれどそれは肉体的には何の問題もない。此岸で病院に行っても原因不明と言われるだろう。まさか魂が傷つけられました、治して下さいと言っても治すことのできる医師は此岸にはそうそういないだろうし、そもそも信じてくれる医師がいるとは到底思えない。

 そういうわけでこの町に死はない。いくら魂が傷ついても肉体が無事ならそれは死ではないから。冥府のいう死の定義は肉体の死なのだから。

 だが死はないが、終わりはある。

 魂を傷つけても死にはしない。

 ただし魂そのものを再生不可能なまでに傷つけることはできる。

 肉体に自己再生能力があるように、魂にもある程度の傷ならば自己修復する機能が存在する。ただしそれには限界がある。

 魂の滅絶とは、その限界を超えるまで魂を傷つけること。自己再生も及ばない程に傷を負わせ、この世からもあの世からも境界からも消し去ること。

 此岸で言う死が肉体の死を示すなら、この町で言う死は魂の死と言っていいかもしれない。

 魂が滅べば次はない。冥府に行って罪を濯ぐことも、新たな生を受けるべく生まれ変わることもできない。

 だからこその重罪。

 それを冥府が許可した。それは事態がそれだけ異常であることを示す。魂を殺し、冥府で裁きを受ける権利を奪い、あらゆる可能性を奪ってでも下手人を捕獲しなければならないと判断された事態。

 幼い頃からこの町に出入りするユズリですら、そんな事例を目の当たりにするのは初めてだ。

 初めてお目にかかる事態にユズリは少々の興奮を覚えながら人だかりを掻き分けながら読売へと近づいて行った。

 (まげ)を結った読売は紙を片手に掲げ、話を続ける。

「始まりはこの町の裏通り、冥府にもほど近い暗闇で。冥府の把握する魂が七つ、一日の間に消滅した。冥府のお役人が駆け付けると辺りは血に染まり赤一色だったそうな。辛うじて生き延びた二人の証言によれば、下手人は真っ赤な着物を幾重にも着た、まるでどこぞの姫御前(ひめごぜ)のような若い女だったとか! しかしその右手には血に染まった刀剣が握られていたそうだ!」

 辺りに恐怖と好奇の混じった声が上がった。その中でユズリは息を飲んだ。

 およそ一ヶ月前に町を訪れ、父の命令でここ最近ずっと行動を共にしていた男、遊佐(ゆさ)。人形じみた風貌の彼は、人を探してこの町まで来たと言う。

 ――多分、高確率で赤い打ち掛けを羽織っている。

 ――それから柄が赤い脇差(わきざし)を持っている。多分抜き身だろうな。

 初めて会った時に彼はそう言った。

 赤い着物、赤い脇差。

 それは読売の言う下手人の風体に一致する。

 ユズリは気が逸るのを抑え込みながら読売の話の続きを待った。

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