表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/52

迷い人形二人 1

「人形?」

 怪訝な顔でユズリと折継が聞き返す。

 聞き返された当の本人は顔色一つ、表情一つ変えずに、まさに人形のように機械的に頷いた。

「馬鹿言わないでよ」

 ユズリは遊佐を睨みつけた。

「あんたやそこの女が人形じみた顔をしていることくらい私だってよく知っているわよ。けど私達の世界の人形はあくまで物。人形は喋らない、食べない、思考しない。人間を完全に欺けるほど精巧な人形なんて此岸にはない。この一ヶ月、あんたは変人だとは思ったけど、人間じゃないんじゃないかなんて疑うほどじゃなかった」

 強く言い切るユズリの言葉に遊佐は少し逡巡するようにしてから、真赤姫に視線を止めた。

「ああ、その手があったか」

 遊佐は一人納得するように頷いてからユズリの前まで歩いてきた。

「その太刀を少し貸してくれ」

「は? 何で?」

 意味のわからない行動に眉を顰めるユズリに構わず、遊佐は右手を伸ばしユズリが構えていた太刀を、真赤姫に向け剥き出しにされた刃を思い切り握り締めた。それは丁度、先程真赤姫が折継の脇差を握った時のように。

「何しているのよ!?」

 ユズリの悲鳴じみた声になど聞こえないように、遊佐は眉ひとつ動かさず、さらに力を込めて刃を握り締める。

 皮膚を切り裂く音がはっきりとユズリの耳にも届く。

「馬鹿! さっさと手を離し……」

 ユズリ遊佐の腕を掴もうとすると、遊佐はあっさりと手を離し、無感動な声を上げた。

「ああ、ほらもう騙せない」

 遊佐の薄い手のひらが刃から離れる。そして開いた手のひらをユズリに突きつけるようにした。

 ユズリは反射的に、どう考えても浅くも小さくもないであろう傷を負っているだろう手のひらから目を逸らした。

 けれど遊佐はそれを許さない。

「見ろ」

 静かだが強い声にユズリは覚悟を決め、向けられた手のひらに視線を向けた。

 嫌そうに薄らとだけ開いていた目が大きく見開かれる。

「……何で」

 白い手のひらと指先には、確かに長い線のような傷がついていた。ユズリの太刀がつけたのであろう短くも浅くもない傷。

 だがその傷からは真赤姫同様、一滴の血も流れていない。血が流れていないどころか、滲んですらいない。骨まで達したのではないかと言うほど深く刻まれた傷口に赤はない。

「血なんて流れていないんだ、人形だから。元々この体は土と木から作られたもの。生き物のように血は流れていない」

 目の前の現実が信じられず、ユズリは遊佐の手を取った。どんなに間近で見てもその皮膚の見た目も感触も人間の物でしかない。なのに、その傷口から覗くのは血肉でも骨でもない。何もない、ただの真っ暗な虚空だった。

「この体の内側には血肉も骨もない。そんな人間、いるわけがないだろう」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ