夢のユメ 6
自分に向けられたのであろう言葉にも遊佐は何も答えない。ただ黙って真赤姫を睨みつけている。
そんな遊佐を見て真赤姫はますます笑みを深めた。
「何故貴方がここにいるの? まさか私の手伝いをしてくれるなんて言わないわよね? 貴方の主を殺した私を前にして」
「殺したってのは遊佐家の誰かのことか?」
真赤姫の言葉を遮ったのはようやく立ち上がることが出来た折継だった。大木にもたれかかって荒い息をしながらも真赤姫を強く睨みつけている。
「此岸の遊佐一家殺人。あれはお前がやったんだな?」
そんな折継の言葉に真赤姫は気のない視線を送る。
「それがどうだと言うの? 貴方はあのケダモノ共の友人か何か?」
「あーただのご近所さんだよ。同じ町内会なんだ」
折継はふざけた調子でそう言いながら、右手で勢いよく真赤姫へ向けて何か投げた。真赤姫が反応した時には既に折継の投げた何かは彼女の頭上で音を立てて破裂していた。
真赤姫はその何かを脇差で薙ごうとしたが、彼女の腕が肩より上に持ち上がることはなかった。
不自然な体勢で固まった真赤姫は折継を睨みつける。
「何、これは」
「動けないだろ? いくら満足に傷を負わせることができなくたって、物理的に動きを止められたらどうしようもないみたいだな」
目の前で起きた奇妙な現象にユズリは目を凝らす。すると真赤姫の体に無数の糸が巻きついていた。
「……地獄土蜘蛛の糸?」
ユズリの口から漏れた言葉に折継は満足げに笑う。
「ご名答。地獄に生息する土蜘蛛の糸だ。ちょっとやそっとじゃ切れない強度の極細の糸を吐くってやつ。それで作った捕獲用の網だ。その上でさらに緊縛の呪詛をかけてあるからな。仕入れにクチナワにぼったくられた挙句、呪い屋だのに大枚叩いたんだ。そう簡単に逃れられると思うなよ、お姫さん」
身動きひとつ取れない真赤姫は何も言わない。忌々しげに折継を睨めつけるだけだ。
当の折継はそんなことなど歯牙にも掛けず、わざとらしいほど晴れ晴れとした顔をしていた。
「さて。これでようやく落ち着けるってなもんだな。さっさと冥府に引き渡したいところだがその前にだ」
その視線が遊佐へと向けられる。
「なぁ、いい加減話してくれてもよくないか? お前が本当は誰なのか、何者なのか。そしてお前とそこのお姫さんの関係が何なのか」
「……俺は」
遊佐は真赤姫を見遣る。真赤姫は遊佐が何を話すかなど、何の興味もないかのようだった。
そんな彼女を見ながら、遊佐は静かに口を開く。
「俺は遊佐家の病弱な跡取り息子に与えられた人形」
白い鬼火と花弁が彼の顔を青白く照らす。
「お前達の言うところの真赤姫同様、長く遊佐家に在った人形だ」
人形と形容する他ないほど整った容姿の彼は、まるで作り物のように表情一つ浮かべずにそう言った。