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夢のユメ 5

 小さな唇から落とされた声。

「何故、ここにいるの……?」

 その視線の先には遊佐の姿。走って来たのだろう、息を切らしながらも真赤姫の方へとゆっくりと歩み寄って来る。

 こうして改めて眺めると二人の顔はよく似ている。特に目元や口元など瓜二つだ。

 ただ、遊佐も確かに人形じみた容貌の持ち主だが真赤姫は遊佐以上に人形らしい、まるで人工的に作られたような顔立ちをしている。

 遊佐はユズリと真赤姫から少し離れた場所で立ち止まった。そしてまっすぐに真赤姫を見て眉を顰めた。

「何故? その言葉、そっくりそのまま返してやる。何故お前はこんな所でこんなことをしているんだ?」

 淡々と紡がれた言葉だがどこか苛立ちを含んでいる気がした。

「自分が何をしているのか分かっているのか……なんて聞くだけ無駄だな。分かってないからお前はこんな惨事を引き起こしたんだからな」

 そして深く息を吐いた。

「早々に冥府に渡れ。これ以上こんな無駄なことを続けるな」

「無駄?」

 眉を顰めた真赤姫に構わず遊佐は続ける。

「ああ、無駄だ。こんなことをしたって意味はない。お前が守りたかったあの人はもういない。これ以上赤を見せたってあの人ももういない。お前が何をしたってもう戻らないんだ。だからもうこれ以上は止めろ」

 抑揚は少ないがどこか逼迫した声だった。

 ユズリには遊佐の言っていることはまるで理解できない。けれど彼女は、真赤姫は違うのだろう。一瞬大きく目を見開いたかと思えば、次の瞬間には遊佐を強く睨めつけた。

「妙なことを言わないで。あの方は今もいらっしゃる。ただ眠っておられるだけ」

 それでも遊佐ははっきりと迷いなく答える。

「いない。あの人はもういない。此岸にもこの町にも……遊佐家にももういない」

 その言葉に真赤姫は声を荒げた。

「嘘を吐かないで!」

 激しい怒りを孕んだその声はまるで悲鳴のように聞こえた。

「あの方はケダモノのような連中を前にして嘆き疲れてしまわれただけ。だから私はもっともっと、あの方のお好きな赤を見せて差し上げるの。あの方が目を覚まして下さるように、もうあんな悲しいお顔をさせないように、たくさんたくさん赤を見せて差し上げるの。そうすればきっと目を覚まして下さる、そしてまた私をそばに置いて下さる!」

 整った(かお)を歪ませ、彼女は叫ぶ。全てを否定するように叫ぶ。

 遊佐はそんな彼女を憐れむような目で見詰めてから、一つ息を置いてはっきりと告げた。

「無理だ。あの人は眠っているんじゃない。あの人はもう死んでしまった。あいつらに殺されて死んでしまったから……お前だって見ていただろう?」

 その言葉に真赤姫は目を剥く。

「違うっ!」

 髪を振り乱しながら激しく頭を振り、狂ったように喚く。

「違う、違う! あの方は死んでなんかいない! あいつらは私が殺したもの! あの方を傷つけるケダモノは全て私が殺したもの! だからいつかきっとあの方は目を覚まして下さる! その日のために私はあの下衆共を……」

 ふいに真赤姫は言葉を止めた。そして目の前の己とよく似た顔を見詰め、震える唇を開いた。

「ああ、そう……そうよ。貴方は私が殺したのに、生きているはずがないのよ。そう、そうだったの……貴方だったの」

 虚ろな瞳は遊佐だけを写し、真赤姫の小さな赤い唇が弧を描く。

「ふふ……そうよね。あの子供は死んだもの。生きているわけがないもの」

 そうしてどこか嬉しそうな、どこか歪んだ笑い声を上げたかと思うと、ぴたりと動きを止めた。そこに残ったのは歪な笑顔だけ。

「貴方はあの子供じゃない。貴方だったのね」

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