まやかし異聞 4
暗めの茶髪、切れ長の瞳に中性的な顔立ち。そして此岸の町中にいるような流行りの服を着たこの男は折継。ユズリ同様町の管理者候補と言われており、さらに悔しいことに折継はユズリと違ってこの町の代表者も務めるといういけ好かない男だ。
「相変わらずきついお言葉で」
折継は苦笑しながらも軽口は閉じない。
「あーんま怖い顔ばっかしてるなよ? そのうち自分が鬼みたいなツラになるぜ?」
「あんたと顔を合わせなければこんな顔しないわよ」
「傷つくねーそんなに嫌わなくてもいいだろうに。昔のようにお兄ちゃーんって懐いてくれてもいいんだぞ?」
「気色悪いこと言わないでよ。こっちはただでさえ惨劇を見て気分が悪いんだから」
これだから折継と顔を合わせるのは嫌なのだ。何を言っても暖簾に腕押し、糠に釘。そのくせ人を小バカにしたような扱いは一流とくるから性質が悪い。
すると折継がそうそう、と声を上げた。
「そうだよ、真赤姫のこと聞かせろって。ユズリは直接見たんだろ? どんな奴だったんだよ」
「何で私があんたなんかに教えなくちゃいけないのよ。自分で探しなさいよ、自分で」
「仕方ねーじゃん。全然手掛かりがないんだからさ。あーあ、真赤姫に行き合ったのがユズリじゃなくて俺なら今頃捕縛に成功していたのになー」
その言葉にユズリの眉が吊りあがる。
「ちょっと。私が捕縛に失敗したみたいな言い方しないでくれない? 私が見た時には既に真赤姫は消える直前だったの! 捕まえようったってすぐに姿を消しちゃったの!」
「俺なら消える前に一瞬で捕まえられただろうになー」
「あんただって無理に決まってるでしょ!? けっこうな距離があったんだからね!」
「うんうん。それは可愛そうになぁ。だからそんな可愛そうなユズリの仇打ちも含めて俺が真赤姫を狩ってやるって」
にこやかに笑う折継と反比例するように、ユズリの顔がどんどん険しくなっていく。
「何言っているのよ! あんたなんかに狩れるわけがないじゃない! まだ真赤姫を見つけることも出来てないくせに!」
「そうなんだよ。俺は平和主義のせいか、なかなかそういう血生臭い現場にユズリみたいに居合わせることができなくてさ。だからそういう現場に居合わせられるユズリに話を聞こうと思ったんだよ」
「あんたのどこが平和主義!? 平和主義が腕を斬り落としてたまるか!」
「平和のためには時には心を鬼にしないといけないんだよ。ユズリにはまだわかんないかもしれないけどな? 大人の世界は厳しいんだぞ?」
わざとらしく子供を諭すように言ってくる折継にユズリの怒りが頂点まで達しかけ、左手に握った太刀を抜こうかと本気で考え出した時。
「まぁそういう冗談は置いておいてだ。とりあえず俺も真赤姫を狩らないと冥府の役人どもに代表者権を剥奪されかねないんだよ」
「それは八卦院に聞いたけど、だからって何で私があんたに協力しなきゃならないのよ。お金払いなさいよ、お金」
正直なところ、折継が代表者権を取り上げられるなんてユズリにしてみれば朗報以外の何物でもない。この面倒な時にわざわざ無償で協力する義理などないのだ。
すると折継は底意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「金じゃなくて、代わりに面白い話を教えてやるよ」