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まやかし異聞 3

 男に見送られながら番所を出るとすぐ大通りだが、常なら歩くことも億劫なほど通行人で溢れかえっているはずなのに今は人気もまばらだ。

 真赤姫の被害者がまた増えた。ユズリが番所に辿り頃にはその噂はあっという間に広がり、無防備に出歩くことを不安に感じた者たちは逃げるなり隠れるなりしたらしい。

 おかげで今大通りを歩いているのは皆どこかしら癖のありそうな、或いは腕のたちそうな者ばかりだ。身の丈より大きな武器をぶら下げて歩く者、不気味に笑みを浮かべる者、あからさまに人相の悪い者など。

 これでは裏通りと大して変わらないではないかと思いながらユズリは歩き出す。

 父とのことや真赤姫との遭遇ですっかり後回しになってしまったが、遊佐を探さなければ。人の事情に無闇矢鱈に口を挟むのは気が引けるが、最早そうも言っていられない気がする。真赤姫は危険だ。実際にこの目で見て、それがよくわかった。

 あの惨劇の場に居合わせなくとも、きっと彼女を目の前にしたら否応なく理解させられたであろう異常性。本能的に恐れずに、嫌悪感を持たずにはいられない何かをもつ女。

 ユズリは人より恐れ知らずだ。それは無鉄砲とも向こう見ずともいえる性質もあるが、幼い頃からこの町で異形を多く見てきたことが大きい。異形らしい異形、人の形をした異形、人の形を偽る異形。様々なモノを見てきた。

 そんな風にして生きてきたユズリがこの町で恐れるモノの筆頭に、六条と名乗る女がいる。

 恋に狂った少女。

 決して理解できない精神性をもつ彼女を、ユズリは恐れている。幼い頃からの刷り込みもあるのだろうが、ユズリが彼女の外見年齢を越した今となっても怖くて仕方がない。理屈ではなく本能的に怖いと思ってしまう。六条の内に秘められた狂気を。

 真赤姫に感じる恐怖はそれに近い。

 赤の中で笑っていた女。狂っていると、理解せざるを得ない笑顔だった。

 ユズリが最も苦手とするタイプだ。もう一度あれと対峙しなければならないと考えただけで溜息が出る。その上、少なからず縁を持った人間の家族の仇だ。どう転んでも後味のいい終わりになんてならないだろう。

 そう思いもう一度息を吐いた時、少し先で無駄に明るい声がした。

「あ、ユズリ! 何だよ、すっげー探したっての」

 顔を上げると暗めの茶髪と洋装が目に入った。人相の悪い通行人達が無言で避けていく危険人物。

「……何だ。何か用?」

 つい声が険しくなってしまうのは条件反射だ。

「何だ、ってつれないことだ」

 くつくつと笑って男はユズリの前で立ち止まった。

「ユズリが真赤姫に行き合ったって聞いてさぁ。よかったなぁ生き残れて。さすがユズリは悪運が強い」

「うるさいわね。その忙しない口を少しは閉じなさいよ、折継」

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