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まやかし異聞 1

「つまりユズリさんがあの場に着いた際には既に連中は真赤姫の凶刃にやられたところだったと」

 額に二本角を生やした顔色の悪い男はひとり頷きながら手元の帳面に書きつけている。

「最後の一人以外は見ていないけど、状況的に真赤姫がやったと見ていいと思う。その辺は医家(いか)の判断に任せるけど。今頃刀傷やら何やらを検分しているんでしょ?」

 ユズリは木製の座り心地の悪い椅子に浅く腰かけ、出されたお茶に口をつけた。

 二本角の男はいやいやと笑いながら帳面から顔を上げる。

「別にユズリさんを疑っているわけじゃありませんよ」

「そう? 私のところじゃ第一発見者を疑えってのがセオリーなんだけど。まぁ疑われたら疑われたで腹が立つけど」

 真赤姫による凶行の目撃者となったユズリは町の大通りにある番所にいた。

 シノか代表者の誰かに知らせる方が早いのではと思ったが、此岸と同じく、何かあれば番所、あるいは警察に通報するのが一般市民の務めだ。

 番所に駆け込み事の次第を説明し、そうして現在ユズリは番所にて事情聴取中となっている。

 番所に交代で詰めている番人は此岸とを繋ぐ橋の番人とは違い、冥府から派遣された役人によって構成されている。今、ユズリの事情聴取を行っている顔色の悪い男も例に漏れず冥府から派遣されている役人だ。現在の冥府の階級制度がどうなっているのかはよく知らないが、町の番所勤めはほぼ雑用扱い。下っ端が着く役職だと聞いたことがある。

 だからか目の前の彼を含め、八卦院が嫌うエリート意識の強い性質にはあまりお目にかかったことはない。

「貴女を疑うような度胸なんてありませんよ」

 男は苦笑して帳面をめくった。

「それでユズリさんは何か気付かれたことはありませんか? その真赤姫ですか? について。できるだけ真赤姫について証言を集めるようにって指示が上からあったんですが、何しろ真赤姫に行き合って生き残る奴のほうが少数でしょう。全然証言が集まらなくて困っているんですよ。今のところわかっていることは赤い衣に赤い束巻きの錆びた刀を持った若い女ってくらいで」

「気付いたことって言われてもね」

 さすがにユズリにもあの惨劇を目の当たりにしてそう冷静に相手を観察する余裕はなかった。それにあの辺り一面を染め上げた赤と、彼女の纏う赤とがあまりに強烈すぎた。あれでは誰が見たって赤い以外証言しようがないのではないかと思う。

「着物だけでなく帯も赤かった。それから人相書き通り、髪は長い黒髪だった。元はきちんと結っていたんだとは思うけど半分くらい解けていた。外見は二十歳前後に見えた」

「って言うとユズリさんと同じくらいですか?」

「私よりは少し上っぽい感じだったかな。あくまで外見の感じだからはっきりとは言えないけど」

「なるほど」

「それから多分、生者ではない」

「生者では……え!?」

 男は素っ頓狂な声を上げた。

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